第34話 エースパイロット達と新型AG
教室に入ってきたのは、国連宇宙軍の軍服を纏った5名ほどの男女であった。
若い青年風から如何にも熟練して屈強そうな軍人達まで様々だ。
その全員が左胸に両翼を模した「
れっきとした正規
その中で爽やかそうな好青年風の男が前に出てきた。
顔立ちが整った優男風だが、その瞳に力強さを宿している。
男は俺と目を合わせたてきた。
「キミが、弐織 カムイ君か?」
「は、はい、そうですけど……貴方は?」
「ロート・オーフェン少佐!?」
隣に立つ、レクシーが驚きの声を上げる。
ロート・オーフェンだと?
ああ、思い出した! ゼピュロス艦隊が誇るエースパイロットだ!
なんでも「
あの若さで少佐だからな、相当腕が立つことだろう。
そういや他のパイロット達も見たことのある顔ぶればかりだ。
ひょっとしてゼピュロス艦隊で一二を争うエースパイロット達が、この学園に集結しているってのか?
「レクシー・ガルシア少尉か。次の作戦から俺の部隊に配属されるという、期待しているよ」
「ハッ! 死力を尽くして参ります!」
レクシーは背筋を伸ばし、ビシッと敬礼する。
一応、俺も見習って敬礼してみせた。
ロートは軽く手を上げ、再び俺の方を見つめる。
「既にガルシア少尉から言ってくれたけど一応は名乗っておこう、ロート・オーフェンだ。いきなり押しかけてしまってすまない……どうしても皆で弐織君に会ってみたいと思ってね」
「ぼ、僕にですか?」
「ああ……キミ以前、俺達とどこかで会ったことがあるか?」
「いえ、一度も……今が初めてです」
なんとなく読めてきたぞ、これ。
「でも彼なんでしょ? 前回の『レヴィアタン戦』で途中まで活躍したの。その後、ガルシア機から貴方の操縦技術を見させてもらったわ……見事としか言えない回避能力よ」
女性パイロットが俺を褒め称えてくれる。
確かに実戦である以上、本気モードだったからな。
おまけにイリーナの配慮で機体も改造されてたし。
「いえ、必死のあまり偶然とまぐれが重なったというか……」
「運やまぐれで、あの操縦は不可能だな。反射神経は勿論、勘の鋭さと戦い慣れた度胸がなければ不可能だ」
いかつそうな男性パイロットが否定してくる。
ぶっちゃけ事実だけあり何も言えない。
ロート少佐や他の軍人達も同調して頷いている。
「俺も含む、ここに来た全員がキミに注目していてね。新型機が配備されることもあり、何か参考になればと思い不躾ながら会いに来たってわけだ」
新型機か、“デュナミス”だっけ?
イリーナの話だと、“サンダルフォン”を基盤にした量産化目的で造られた試作機らしい。
だから俺に会いに来たとでも?
「はぁ。でも、ロート少佐。どうして僕なんか……」
「弐織 カムイ君、キミの操縦技術は、あの漆黒のAGと似た動きをするからだよ……ヘルメス社の“サンダルフォン”とね」
駄目だ、こりゃ。完全に見極められてるぞ。
学生や素人なら誤魔化しようもあるけど、目の前にいるパイロット達は全員が「本物」だ。
特に
ど、どうする?
「――ロート少佐だ! 嘘だろ!?」
廊下から男子生徒の声が響いた。
ハヤタだ。
相変わらずファンの女子達に囲まれている。
そういや、ハヤタの奴はロート少佐に憧れていたよな。
よく奴の口から、彼のような
女子達からも「キャーッ、カッコイイ!」とか「どうして少佐がここにいるのぅ!?」などの黄色い悲鳴が上がった。
やっぱり、その立ち振る舞いとルックスから若い女子にも人気があるようだ。
そのロート少佐は水を差された様子で「……ふぅ」と溜息を漏らしている。
「それじゃ、弐織君にガルシア少尉。俺達はこれで……悪かったね」
「い、いえ……そんなことは、え?」
不意にロート少佐は、俺と距離を縮めて耳元に唇を近づけてきた。
「――弐織君。どんな形にせよ、キミと共に戦える日を待ち望んでいるよ」
そう囁くと、ロート少佐は離れて敬礼して見せる。
他のパイロット達も全員が俺に向けて揃って敬礼した。
あ、あかん……完全に特務大尉に対しての礼節じゃないか。
(“サンダルフォン”の搭乗時において中佐並みの発言権を持つ)
こうして、ロート少佐率いるエースパイロット達は足早に去っていく。
その際ハヤタ達とすれ違うも、少佐達は一言も発することなくスルーして通り過ぎた。
ハヤタはロート少佐達に声を掛けたかったようだが、そのオーラに圧倒されて何も言えなかったようだ。
残念そうな表情を浮かべると共に、何故か俺の方を見てキッと睨みつけてくる。
きっと俺は、奴にとって憧れのパイロット達からチヤホヤされているように見えたのだろう。
実際は正体をさぐられただけなのにな……。
けど初めて、ハヤタに
それからレクシーとも別れ、コムマー学園から出た直後。
腕時計型のウェアラブル端末から「出撃要請」が来た。
『マスター、もうじきヘルメス社からお迎えが来られマス。そのまま“ミカエル艦”の専用
電子妖精のホタルから指示が下される。
「了解した。指示があるまで待機扱いか?」
『イエス』
間もなくして、大型バイクに乗った女性ライダーが現れた。
スモーク付きのヘルメットを被り、ライダースーツに身を包んでいる。素顔こそわからないが、相変わらずスタイルの良さが伺えていた。
「弐織様、お待たせしました」
「ああ、ありがとう。それじゃ行くか」
俺が後部に跨ぐと、バイクは急発進する。
主力戦艦"ミカエル"に乗り込むと同時に、コロニー船“セフィロト”との連結部分が解除され、宇宙という海原へ航行した。
俺は戦艦"ミカエル"に増設されている、ヘルメス社が所有する
愛機である“サンダルフォン”のコックピットに搭乗して、座席シートに
「……何事も起こらなければいいんだけどな」
これから戦場に行くのに、ついそう思ってしまう。
別に臆病風に吹かれ戦うことを恐れたからじゃない。
正規パイロットに任命されたことで不安を覚え、わざわざ俺に相談してくれた、レクシー。
そんな彼女の身を案じたからだ。
あと戦場でしか会う機会がないロート少佐達も、思いの外いい
みんな無事に生還してほしい。
……奇妙なもんだ。
最近、心境が変わりつつある。
以前はもう少しドライに割り切っていた筈なのに……何故だろう。
『――カムイ。大丈夫だと思うけど、いつでも出撃できるように待機よ。鎮静剤とナノマシンはぎりぎりまで打っちゃ駄目だからね』
メインモニターから小窓のウィンドウを開き、イリーナが綺麗な顔を覗かせている。
どうやら彼女も"ミカエル"に乗り込んでいるようだ。
大方、新型機の視察ってところか?
「わかった。できれば出撃しなくて良いことを願うよ」
『……そっ。何かあったの? 普段と何か違うわ』
「そうかな……やっぱりそう見えるか?」
『さぁ……でも、あんまり気を緩めないことね。パイロットにはハングリー精神も必要よ』
つまりは闘争心ってか?
「わかっている。戦場に入れば意識も変わるさ……」
『そっ。ならいいわ……カムイの優しさは私だけ向けられればいいんだからね』
「え? なんだ? イリーナ、今、最後の方だけわざと
『なんでもないわ! 一応、戦況が確認できるように、そちらにも
何故か半ギレしながら言ってくる、イリーナ。
なんなんだこいつ……セシリアと同じ情緒不安定かよ。
それから数時間が経過し、目的地である絶対防衛宙域に到着した。
ほぼ同時に他の艦隊から選抜された戦艦とも合流する。
まだ宙域には、ノトス艦隊の戦艦や
想像以上の酷い有様だと思った。
これほど損害を与えた、1体の
俺はコンソールに映し出されたサブモニターから、それらを眺めながら思っていた。
間もなくして“ミカエル”艦の
その
新型推進ユニットを搭載されており加速力も従来の機体とは桁違いである。
「なるほど、あれが“デュナミス”か……」
───────────────────
《設定資料》
〇デュナミス
型式番号:HUP-01E
平均全高:15,8m(頭部の
平均重量:本体重量7,4t
全備重量:19t~(追加外装、推進ユニット、その他装備により異なる)
HXP-007サンダルフォンの戦闘データを基に開発された次期主力機を想定する試作型AG。
サンダルフォンより見劣りするも量産型AGエクシアを上回るスペックを誇る。
その分製造コストも高額なため、現状では少数のエース級パイロット部隊のみに配備されている。
《補足》
デュナミス……力天使。可能性という意味で名付けられた。
H=ヘルメス社製
U=「U.N.S.F」国連宇宙軍保有AG
P=プロトタイプ(試作)機
01=1番目に製造されたAG
※01は、ロート・オーフェン少佐が搭乗する機体の場合。
製造順に「+1」ずつ加算される。
E=Experimental AG…実験型AG
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