第35話 デュナミスと謎のFESM




 新型機“デュナミス”の初陣後、すぐ“エクシア”部隊が出撃した。


 俺は“サンダルフォン”のコックピット内でシートにもたれたまま、サブモニターの光景を眺めている。


 あの中にレクシーもいるんだよな?

 ロート少佐と同じ部隊ってことは、“デュナミス”に搭乗しているってことだ。


「ホタル、レクシーはどの機体に乗っているんだ?」


『イエス、39番機デス。識別できるようマーカーしておきましょうカ?』


「頼むよ」


 ホタルの配慮で、レクシーが乗る39番機が黄色く目立つ形で映し出されている。

 その39番機の後方で、40番機と識別されたAGアークギアが隊列から遅れをとる形で飛んでいる。


 あの40番機は間違いなく、キーレンスだ。

 同じ部隊の配属となったのか……あんなんでよく新型機が与えられたな。


 なんかモニター越しでも嫌々感が伝わっているんですけど。


 ちなみに“デュナミス”の任務は宙域の歩哨ほしょうである。

 その間、“エクシア部隊”が生存者の救出作業にあたるようだ。



 俺はサブモニター範囲を広域に切り替える。


 第二艦隊のセラフ級主力戦艦“ラファエル”を確認した。

 見た目はほぼ“ミカエル艦”と変わらない。

 唯一異なるのは船体のカラーリングが翡翠色というところだろう。


 損傷が激しく痛々しいが、まだ健在であるようだ。

 航行せず漂流しているように見えるのは、燃料と艦内の空気節約が理由らしい。


 “エクシア部隊”が救援活動をする中、各艦隊の補給艦が“ラファエル”の補修及び燃料の補給などを行っている。


 甚大な被害であるが、作業自体は粛々と進められ順調に見えた。



 そんな中、非常警報音アラートが鳴り響いた。


「――FESMフェスム!?」


『イエス、マスター。約5000km先にワームホール反応を確認。時空歪曲にてホワイトホールが発生してイマス」


「ったく、このタイミングで……いや、あえてなのか?」


 きっと第二艦隊を全滅させなかったのは囮目的に違いない。

 人間をより多くおびき出すための餌であり罠だと察した。


 外敵宇宙怪獣と区別されるFESMフェスムだが、実際は宇宙生物なのか異星人が造った兵器なのか未だにわかっていない謎の存在である。

 しかし戦い方は極めて組織的であり、時にはAGアークギアの操縦系統を乗っ取り同士討ちさせるなど、ある程度の知性を持ち戦略性すら感じていた。



「ホタル、“サンダルフォン”出撃タイミングはどうなっている?」


『通常どおりデス。“ミカエル”側からの要請とオーナーの許可が下りなければ出撃することはできまセン」


 つまり艦長であるセシリアと、所有者であるイリーナの意向次第か。

 正規パイロットじゃないから仕方ないけど……。


 そうこう考えているうちに発生した亜空間サブスペースから、FESMフェスムの軍勢が襲来してきた。


 ホタルの報告では、敵の数は200体ほどだとか。

 先の戦いで撤退した残存兵力なのかもしれない。


 ってことは……。



『――“デュナミス”部隊各機、敵の殲滅に当たれ! いいか、救援が終わるまで絶対に通すな! 』


 戦線からか。コックピット内で無線が響き渡る。

 

 この声は確か、ロート少佐だ。

 ホタルが気を利かせ、“デュナミス”部隊の無線会話を傍受しているのか。

 きっとレクシーを心配する俺に配慮したのだと思う。


 戦況次第じゃ、俺からイリーナに頼んで“サンダルフォン”を出撃させるしかない。



 だが思いの外、杞憂だった。


 “デュナミス”部隊は連携し、その高い機動性を駆使した戦い方で、次々とFESMフェスムを撃破していく。

 

 考えてみれば、みんなゼピュロス艦隊を代表するエースパイロット達だ。

 おまけに“エクシア”よりもハイスペックの新型機でもある。

 霊粒子動力炉エーテルリアクターの性能が向上したことで、霊粒子エーテル系兵器の威力も大幅に強化されているようだ。


 ほぼ一撃でFESMフェスムの心臓部こと『星幽魂アストラル』を貫いている。


 レクシーが乗る39番機も、熟練したパイロット達に負けず劣らず、見事な操縦技術を駆使し敵を斃している。

 

 ただ40番機のキーレンスが乗る“デュナミス”だけ、やたら後方でちまちま撃っているのは気になるけどな。

 まぁ、こいつはいいや。


 こうして、たった40機のAGアークギアが破竹の勢いで、倍以上のFESMフェスムを駆逐していった。


 あっと言う間に、FESMフェスムが殲滅寸前まで追い詰めていく。

 どうやらこの戦況で俺の出る幕はないように思えた。



 ビーッ!



 再び、警報音アラートが鳴る。


「どうした、ホタル?」


『マスター、新たなホワイトホールデス! 距離、約1000km!』


「増援だと?」

 

『イエス。しかし時空歪曲空間ワームホールの発現範囲が小さすぎマス……おそらく、AGアークギアサイズの単独FESMフェスムではないカト……」


「単独FESMフェスムだと!? おい、まさか――」


 俺が疑念を過らせた直後だ。



『うわぁ、なんだこいつはぁぁぁ!』


 無線から悲鳴が聞こえた。


 モニターを確認すると、一機の“デュナミス”が胴体を真っ二つにされている。

 その機体は霊粒子動力炉エーテルリアクターごと斬られたことで誘爆し、蒼白い閃光と共に撃沈した。


 機体の識別番号は「01番機」、ロート少佐が乗る“デュナミス”である。


『ロ、ロート隊長ぉ! ぐおっ!』


『こいつ、速い! 速すぎるっ、ぎゃあぁぁぁ――』


 ロート少佐の撃墜に続き、二機、三機と“デュナミス”が次々と撃破されていく。


 淡い光輝の残像が赤い帯を発して鮮やかに、そして不規則に“デュナミス部隊”を翻弄し斬撃を与えている。


 瞬く間に、10機の“デュナミス”が大破してしまった。



 ――まるで、赤き閃光を靡かせた疾風迅雷の如く。



「な、なんだ……なんなんだ、奴は!?」


 その異様な状況に、俺は戦慄してしまう。


 サブモニターを拡大し、動きを止めた敵の正体を見据える。



 そいつは、これまで見たことのないFESMフェスムだ。

 全体が深紅に染まり、淡い光で発光している。

 細身だが人型の形状をしており、まるで骨格がむき出したようなフォルム。

 両腕の先端部分が鋭い刃と化し、両足も部分も同様に針のように尖っている。

 能面のような頭部があり、胸部や各所には辛うじて肉付けされた盛り上がりと爛れた皮膚のような外装に見えた。


 一見して生物のようで、また異なる存在……どことなくAGアークギアに似ているのは気のせいだろうか。

 そして、やはり背部にはFESMフェスムの特徴である白い両翼が高々と広げられていた。



『“ラファエル”艦からデータ照合――“ベリアル”と登録された新種のFESMフェスムデス』


 ベリアル?


 それが奴につけられた名前なのか……。


「新種のFESMフェスムってことは、こいつなのか……ノトス艦隊を壊滅に追い込んだ敵は?』


『イエス、マイ・マスター』



 各“デュナミス”機が停止した敵に向けて、一斉に霊粒子小銃エーテルライフルを発射する。

 隊長機を失っても、直ぐに立て直せるのは流石だ。


 “ベリアル”と命名されたFESMフェスムは翼を羽ばたかせ赤い軌跡を残し、それらを全て回避する。

 なんて機動性と運動性だ。

 そして刹那の如く、至近距離まで詰めて両腕の刃剣ブレードで“デュナミス”の頭部と胴体を斬撃して撃破した。


 どうやら超高速機動による接近戦闘を得意とするタイプのようだ。


 さらに“ベリアル”猛攻が続く。

 同じように圧倒的なスピードで接近して斬撃を与えていく、ヒット&ウェイ戦法。


 そのデタラメな速さに新型機の“デュナミス”でさえ翻弄されている。


 な、なんてこった……。


 たった一体のFESMフェスムの出現で戦況が一変してしまったじゃないか!


「クソォッ! ホタル、イリーナに“サンダルフォン”を出撃させるよう早急に要請してくれ! でないと無理矢理昇降口ハッチを壊してでも出るぞ!」


 全滅だけはなんとしても回避しなくては――!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る