第55話 レクシー教官の提案
俺の中で、ハヤタ・セバスキーの見方が変わっている。
ついさっきまで、学年カースト一位の陽キャで無駄な熱血野郎としか思ってなかったのに……実は案外繊細な奴だったんだな。
まぁ、俺も陰キャぼっちとしてアルド達に陰口を言われ、やさぐれていた部分もあったことは否めない。
犬猿ながらも連中と一緒にいることの多いハヤタも、どうせ同じだろうと勝手に思い込んでいた部分もある。
「……ハヤタ君の言う通りかもしれないな。
「カムイくん?」
素の口調で話し出す俺に、桜夢は不思議そうな表情を浮かべ眺めている。
「悪かったよ……弐織。そんなことないってことがわかったからよぉ……けど実はオレも、お前に嫉妬していたところがあったんだよ」
「嫉妬だって、俺に?」
そう問うと、ハヤタは素直に頷いて見せる。
「……さっきも言ったけど、お前は何故かレクシー姐さんに気に入られ、前はオレが憧れていたロート少佐とも親しげに話しかけられていたろ? そして古鷹艦長に星月まで……オレが尊敬し憧れている人達ばかりに、お前は慕われ囲まれている。それに比べて、オレはこの有様だ……ちょっと歯車が狂っただけで誰も寄りつかない……だからこうして来てくれて嬉しいと思っているんだ」
嬉しい? あのハヤタが、俺に対して? 嘘だろ?
ハヤタの言葉に戸惑ってしまう、俺。
時折、妙な眼差しで見てくるとは思っていたけど……こうして胸の内を聞くと、ハヤタの気持ちもわかる気がしてきた。
最近の俺は色々と周囲の人達に恵まれていると感じている。
だから多少、脳に負担が強いられてもすぐに回復するのかもしれない。
まぁ、みんな癖が強い人ばかりだけどね……。
そんなハヤタの前に立っているレクシーは、こちらを振り返ると俺の肩にそっと手を添えてきた。
「カムイ。ハヤタは馬鹿だが、馬鹿なりの良いところもある……だから私も、こやつを弟分として見捨てることなく接している部分もあるのだよ」
「姐さん、酷でぇ。ガチでアンタは鬼教官だわ……そう思うだろ、弐織に星月?」
ハヤタに話を振られ、俺と桜夢は「ハハハ……」と愛想笑いを浮かべるしか術を持たない。
これまで表面上でしか見えてなかった、二人の関係がよくわかってきた。
なんて言うか……微笑ましい師弟関係。あるいは、できの良い姉と悪い弟。
まさに、それだろう。
空気が和んだことでハヤタも冷静になったのか、「立ち話もなんだから」と部屋に入れてくれた。
引きこもっていただけあり、それなりに部屋は荒れていたが、少し片づけて座る場所を確保する。
机や棚の上に、
如何にも年相応の男子部屋って感じだ。
よくよく考えてみれば、俺って他人の部屋に入ったことないな。
しかも同級生なんて……少しばかり緊張してきた。
「じゃあ、ハヤタくん。明日から学園に来れそう?」
桜夢が切り出し訊ねるも、ハヤタは首を横に振るった。
「……星月ごめん。オレぇ、パイロットを続けていく自信がないんだ……あの戦いで“ベリアル”にボコられてから、すっかりな……その前の『AG杯』じゃ、姐さんの執事さんにボロ負けしちまうし……第102期生の間じゃ誰にも負けたことなかったのに……自分の限界を思い知らされちまったんだ」
あっ、その執事ってもろ俺だ。
そっか……ついガチでやっちまったから悪かったな。
「ハヤタよ、“ベリアル”に関しては私も死にかけた……それに比べこうして無事に生還しているお前は大したパイロットだ。そして世の中には真のエースと呼ばれる者が存在する。我らでは到底及ばない才能という
「……姐さん。ひょっとして“サンダルフォン”のパイロットのこと言ってる?」
ハヤタの問いかけに、ついドキっとしてしまう。
「まぁな。私は、その“サンダルフォン”に命を救われた……だがあのパイロットは異質だ。我らがいくら足掻いても到達できない境地にあると思う。だからこそ、少しでも近づきたいと思い、日々の努力と修練を積み重ねているのだ。それが生死を分けることに繋がると、私は思うぞ」
レクシーは激励の言葉を述べながら、何気に俺をチラ見する。
彼女はまだ俺の脳の障害を知らない。
それ故の
AGパイロットとしては有利な反面、日常生活に気を配るあまりに他人を避けて陰キャぼっちを貫いていることを……。
だからこそ、桜夢みたいに努力して強くなろうとしている子を見ると、つい応援してしまうところもある。
「ハヤタくん、わたしもレクシー教官の言う通りだと思うよ。それに、このままだと単位取れなくて、キーレンス教官みたいに強制に地球へ降ろされちゃうよ、いいの?」
「わかっているよ……星月。けど俺は……」
「――ハヤタ君はこんなところで埋もれていいパイロットじゃないよ」
つい俺まで口を出してしまう。
その言葉に三人から一斉に、「え?」と注目を浴びてしまった。
普段の俺なら絶対に言わなそうな台詞だろう。
しかも言われたハヤタが一番驚いている様子だ。
「……弐織?」
「センスは十分にあると思う。ただすぐに熱くなるから、そういう無駄な熱血癖は治した方がいい」
「うむ。流石、カムイだ。私もいつも言っていることだ」
俺の意見に教育係のレクシーが力強く頷いている。
ずばり言われたハヤタは当然、ムッとした表情になった。
「……弐織、随分と言ってくれるじゃねぇか? お前、やっぱり何者なんだ?」
「何者って?」
「とぼけんなよ。オレはずっとお前のこと見ていたんだ。古鷹艦長は性癖っぽいから除外して、レクシー姐さんといい……あのロート少佐や他のエースパイロット達が揃って、お前を訪ねに来るなんて可笑しいじゃないか? それに
「いや、それは……偶然というか」
「アルドなら、お前のことナメているから偶然で済ませるけど、オレは違うぞ。冷めている男イコール、とても
こいつ案外、鋭いな……。
伊達にカースト一位じゃないってことか。
つい口を出してしまったが……やっぱり俺の正体を知られるのは不味いな。
少しはハヤタのこと見直したけど、レクシーのように俺の事情に配慮してくれるとは限らない。
これ以上、口を出さない方が無難か……けど、このままうじうじと脱落されても何かと後味が悪い。
どうしたものか……。
「――このまま話しても
いきなりレクシーが提案してくる。
「
「レクシー教官、いくらなんでもカムイくんが相手だと……」
桜夢が控え目な口調で「そんなの無謀でしょ?」言っている。
まぁ確かにガチの俺ならハヤタを瞬殺してしまう。前回の「AG杯」でも証明されているからな。
ハヤタを立ち直らせたいなら寧ろ逆効果じゃないか?
「だったらカムイにハンデを与えればいい……そうだな、私と星月がハヤタとチームを組むっていうのはどうだ?」
「「「え!?」」」
「レクシー先輩、つまり三対一で対戦するってこと?」
「そうだ、カムイ。遠慮はいらん、思う存分やってくれ」
「いや姐さん、いくらなんでも弐織が可哀想じゃん……オレ、そういうの好きじゃない」
熱血だけに男気もある、ハヤタ。
対してレクシーは深く溜息を吐く。
「……言っておくが、これでもハンデが足りないくらいだぞ。後、カムイが可哀想だと思うなら勝っても負けても明日から学園に来い。クラスメイトの二人がお前のために親身になって来てくれているんだ……受けた恩を仇で返すな。ガルシア家の教訓だぞ」
「オレ、ガルシア家じゃねぇんだけど……姐さんの言いたいことはわかるよ。けど、弐織はそれでいいのか?」
「え? ああ……うん、まぁ」
どう返事していいのかわからない。
一応、対戦すれば学園に来る気になっているのならいいのか?
こうして妙な話の流れで、ハヤタ達と
レクシー先輩、一体何を考えているんだ?
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