第54話 挫折したカーストトップ
それから放課後。
操縦訓練科の教室で、俺と桜夢はレクシーが来るのを待つことにした。
ちなみに昨夜の戦闘もあり、午後の専修科目は休みである。
例の「宇宙アイドル」こと芸能科もイリーナの都合で同様だ。
マネージャーをさせられる身として、思いの外スローペースな活動で良かったと思う。
そして俺達がレクシーを待つ目的は、クラスメイトの『ハヤタ・セバスキー』を学園に連れてくるためだ。
AGパイロットとして自信を無くし、今ではすっかり引きこもりと化している。
嘗てカースト一位として、もてはやされた男の挫折ってところか。
俺としてはどうでもいい奴だけど、レクシーは教育係なので教師や軍の上官に頼まれて、このまま放って置けないという事情もあるようだ。
プシュっと自動扉が開き、誰かが教室に入ってくる。
「――待たせたな、カムイに星月。それじゃ行こうか」
レクシーが到着し、三人で男子寮へと向うことにした。
移動中。
「そういえば、カムイ。昨夜は大活躍だったな。キミのおかげで、我らパイロットも戦死者を出さず全員生還できたようなものだ。感謝する」
「え? その口振り……レクシー先輩もあの戦闘に参加していたんですか?」
「ああ、こう見ても正規パイロットだからな。なんとか
いや十分にエース級の腕前じゃないか。
前線に出るようになって、まだ二戦目なのに凄いな……一度、死にかけたから覚醒してレベルアップしたのだろうか?
「凄いな……レクシー教官。わたしも負けてられない」
隣で歩きながら、桜夢は真剣な表情で呟いている。
まぁ彼女は十分に頑張っていると思うけどな。
「桜夢は焦る必要はないよ。良かったら今度、俺と一緒に
「うん! カムイくん、ありがとう!」
桜夢は満面の笑みを浮かべてくれる。
思いの外、喜んでくれて良かった。
「いいなぁ……星月。私もカムイから沢山学びたいことがあるのだが……」
レクシーは顔を俯かせて羨ましそうに言ってくる。
なんか気まずい空気を感じた。
「よ、良かったら、レクシー先輩もどうですか? 桜夢のスキルアップにもなるだろうし」
「良いのか? やっぱり、カムイはいいなぁ……私が見込んだけのことはある」
別にただ訓練するだけなのに見込まれてもな。
そんなに嬉しそうにしてくれると、なんだか照れくさい。
けどこの先輩の場合、十分に戦えるから大して教えることないと思うけど。
「……できれば、カムイくんと二人きりが良かったなぁ」
今度は桜夢が残念そうに呟き始めてきた。
ええ、何? もしかして俺が悪い感じになっている? 優柔不断っぽい奴?
そんなつもりはないのに……公平にしようと円満に接しているつもりが墓穴を掘っているのか?
これぞ前にホタルが言った「女性心理」というやつか?
さっぱり正解かわからない。おかげで、また頭がモヤモヤしてきた。
桜夢とレクシーの板挟みで悩んでしまう、俺。
別に仲の悪い二人じゃない筈だけど、何故か両者から妙な「圧」を感じてしまう。
気がつけば、俺が二人の真ん中で歩いている。
しかも二人共、やたら近く密着寸前の状態。
他人から見れば、まさしく両手に花。
よくよく考えたら、学園屈指の人気を誇る美少女二人。
絶対に目立つだろうし、他の生徒に見られたらなんて思われるだろうか?
この状況、何かやばくね?
特にアルド辺りに見られたら、間違いなく「陰キャの癖にぃ!」と嫉妬され叫ばれそうだ。
駄目だ、全身がやたら熱くなる……脳の状態も何か可笑しいようだ。
さっきからストレスとは違う疼きを感じる……胸までぎゅっと絞られ鼓動が早くなる。
……なんだよ、これ?
そんな感覚を抱きつつ、ようやく男子寮に到着する。
管理人さんの許可を頂き、二人の女子を連れて中へと入った。
「ハヤタ君は寮内では、第102期生の班長しているんですけど……ずっと引き籠って休んでいるんですよ。管理人さんも気を利かせて食事は持っていっているようです」
そのしわ寄せが副班長のアルドに降りかかり、面倒がりサボる奴に代わってモブの俺達がそれぞれ分担して掃除や片付けを割り当てて行っているんだ。
迷惑ったらありゃしない。
俺は愚痴を交え説明しながら、ハヤタがいる部屋の前に案内した。
「……そうか。私が話しかけてみるから、二人は後ろで待っていてくれ」
レクシーは冷静な口調で指示すると、設置されたブザーを鳴らしドンドンと扉を強く叩き始めた。
「ハヤタァァァ! 貴様ァァァ、出て来いぃぃぃい!! いつまで不貞腐れているんだぁぁぁ、ああ!!!?」
途端、ブチギレ出すレクシー。
いくら師弟関係があるからって、もう少しマイルドな言い方があると思う。
「うっせー! 叩くんじゃねぇぇぇ、コラァァァァ!!!」
扉の向こう側で、ハヤタが叫んでいる。
二人のやり取りに俺と桜夢はドン引きしつつ、「……意外と元気そうだな」と安堵した。
それからもしばらく、レクシーは扉をガンガン叩き「貴様に逃げ場はないぞーっ! とっとと出て来ぉーい! おーい!」と叫んでいる。
ハヤタも負けずに「もう少し言い方があるだろうが! 鬼か!?」と怒鳴っていた。
一見して立てこもり犯人と刑事のようなやり取り、あるいは駄目息子を叱る母親みたいだ。
1時間後。
「あーっ! マジで姐さん、しつけーわ!! もうオレのことは放っておいてくれよぉぉぉ!!!」
レクシーの執念が功を奏したのか、ハヤタは扉を開けて出てきた。
トレードマークの青髪はぼさぼさで身形もだらしない。
少し前まで陽キャのリア充であり、学園女子の人気投票男子部門で三位だった奴とは思えない姿だ。
普段、「ハヤタくん、カッコイイ~!」とか言っているクラスの女子達に見せたらどう反応するだろうか。
そんなハヤタは、レクシーの後ろに立つ、俺と桜夢に目を合わせてきた。
「……星月? それに弐織まで……どうして二人が姐さんといるんだよ!?」
「私が助っ人として二人に声を掛けたのだ。貴様と同じクラスメイトだからな」
「いや、レクシー姐さん……星月はわかるよ、うん。でも弐織は関係なくね?」
そりゃ同感だと思いつつ、どうして桜夢はわかるんだと疑問を抱いてしまう。
こうして下心丸出しで差別するから嫌なんだ。
巻き込まれた俺からすれば「だから言ったじゃないか……」と、レクシーに言ってやりたい。
「弐織のことはいいだろ! 私が連れて来たいから連れてきたんだ! 文句あるか!?」
「そういやレクシー姐さん、やたら弐織のことが気に入ってたよな!? だったらオレのことなんか放っておいて、姐さんと弐織の二人でイチャコラしてればいいだろ!」
ハヤタが言った途端、毅然と振る舞っていたレクシーの態度が一変する。
「カ、カムイと……イチャコラ、って……悪くないかもしれん。いやしかし、そういうのはまだ早いではないか……バカ者ぉ♡」
おい、先輩ッ! 何、顔中を真っ赤にして照れてんの!?
こっちまで恥ずかしくなるだろ! そんな奴の挑発に簡単に動じるなよ!
「ハヤタくん! カムイくんはクラスメイトとして、キミのことを心配して来てくれているんだよ! だから変なこと言わないで!」
隣で桜夢が珍しく大声を発してキレている。
密かに、俺とレクシーのイチャコラ発言で苛立った感じに見えるけど。
滅多に怒らなそうな美少女に責められ、勝気のハヤタも流石にしゅんと俯いた。
「……悪かったよ、星月。弐織も心配してくれてありがとな……お前、普段冷めてそうだけど、案外いい奴なんだな?」
「え? いい奴……僕が?」
「ああ。他の連中なんて、こうして心配して来てくれる奴はいないからな……腹の中じゃ、大方『挫折ざまぁ』とか思っているんだろ。オレ、何かと目立つキャラだから他の男達から疎まれやすいんだよ。だからクラスで孤立しないよう、いつも上辺だけは合わせているんだ」
あっ、わかる。
特にアルドなんか、こいつが居なくなってから調子に乗りまくっているからな。
目立つから疎まれるか……実は俺もその一人だとは言えない。
確かにそのルックスからいつも女子にばかり囲まれているし、他の男子達に一目置かれているけど、実際に友達としてつるんでいる姿は見たことがない。
男女から人気のある陽キャだと思っていたけど、こいつなりの処世術というか、周囲への気配りもあるようだ。
だけどハヤタの奴。今まで俺のこと、冷めた奴だと思っていたのか……。
身に覚えがありすぎる。
現に俺も普段、桜夢とセシリア以外のクラスメイトのこと、どうでもいいと思っているし。
それに初めてだな。
同級生の男子に「いい奴」だなんて言われたの……。
なんだろ?
……またの頭の中で妙な疼きを感じている。
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