Episode:13 運命の邂逅
アクセルを蹴り、“エクシア・ディオスクロイ”は加速する。
宿敵“シンギュラリティ”に向けて突撃した。
『もう不覚は取らん!』
“イヴFESM”の声。
ティアの声なのに口調がまるで異なる。完全に別人格だ。
ドクン!
途端、俺の中で激しい鼓動が脈打つ。
「
俺は激情に駆られ
猛獣の如き咆哮と共に『灰色のベルセルク』となった。
“シンギュラリティ”は右腕を翳して、こちら側に向けてくる。
よく見ると修復されたと思われる前腕部の装甲が施されていない。
ただ赤黒く腕に模した異形の塊であった。筋張った部分が脈々と淡い光を宿しており、機械ではなく生物的要素が見られている。
あれは暴走した生体機能部分である『人工筋肉』だ。
増殖させることで、前腕っぽく構成させたのか!?
“シンギュラリティ”の右前腕部が変形し、六連装の砲身となる。
ヴヴヴヴヴヴヴ――ッ!!!
それはガドリングガンだと理解した。
砲身が高速に回転し、蒼白い閃光を撃ち放ってくる。
だが関係ない!
「があぁぁあぁぁぁぁぁ!」
どんな攻撃だろうと今の俺に怯むという言葉はない。
しかし激情に駆られながらも思考はクールだ。向上した動体視力で迫り来るエーテル弾を見極める。
被弾しても問題ない箇所だけをあえて受け、致命傷になりそうな直撃だけを回避しながら突き進む。
敵や味方にとっては玉砕覚悟の戦い方に見えるかもしれないが関係ない。
射程距離に達したところで、両腕に抱える長砲身のライフルを
そのまま“シンギュラリティ”の胸部に照準を合わせた。
刹那
『――罠よ! 来ちゃ駄目ぇ、ルドガー!』
「なっ!?」
幼女の声。もう一人のティアの声が響いた。
俺は咄嗟にブレーキペダルを蹴る。
操縦桿を弾き、機体は敏捷な動きで横滑りして旋回した。
一端、“シンギュラリティ”から離れる。
今の声で、
『ええい、貴様は黙ってろ! 余計なことを言うなぁ!』
“イヴFESM”はヒステリックに声を荒げる。
直後、翳していた“シンギュラリティ”右前腕がさらに変化し、網の目状態で枝分かれしながら伸長し広がった。
「うおっ!?」
全力で加速し回避を試みるも、赤黒い人工筋肉の触手が脚部の大型スラスターに絡みつき纏わりつく。
さらに触手は増殖しスラスター全体を覆い始める。
“エクシア・ディオスクロイ”の動きを完全に封じられてしまった。
『これで動くことはできまい! 滅びよ、人間ッ!』
“イヴFESM”の喜悦と共に、“シンギュラリティ”は左手に握られた
「そっちこそ、学習能力がないんじゃないか?」
俺は揶揄しながら迅速に武装のセレクトを行う。
機体のフロント・スカートとして折りたたまれていた隠し腕こと《ギミック・アーム》が出現し、装備された
『なんだとぉ!?』
「もらったぁ!」
俺は機体を立て直し、両腕の
素早く
“シンギュラリティ”も右前腕を
――ギィィィン! ギィィィン! ギィィィン!
幾度となく刃同士が激しくぶつかり合い、その度に
しかし白兵戦では、その巨体故に小回りが効かない “エクシア・ディオスクロイ”の方が不利であった。
おまけに燃料の残量も僅かとなりつつある。
機動力を上げるため、
パワーも嘗ての“サンダルフォン”6号機であった“シンギュラリティ”の方が上のようだ。
こっちだって2機分の
「バケモノめ! だがセンスがあっても経験が浅い!」
『なんだとぉ、人間がぁ!』
斬ッ!
“イヴFESM”は激昂し、“エクシア・ディオスクロイ”の左腕を肩先から斬り落とした。
さらに“シンギュラリティ”が放つ右腕の
『見たか、人間如きがぁ! 所詮は口先ばかり! 貴様の『
「どうやら無駄に熱くなりやすいのがお前の弱点のようだな――学習しろと言っている!」
俺が再び左右のフロント・スカートを《ギミック・アーム》に可変させ、二刃の
さらに“エクシア・ディオスクロイ”の右手に握られた
鋭利な刃が“シンギュラリティ”の左前腕を一刀両断し、そのまま胸部中央のコックピットに剣閃が流れていく。
しかし “シンギュラリティ”は既に後退しており、辛うじて装甲板を斬りつけるだけに至る。
「惜しいッ! だがまだ余力は――」
俺が言おうとした瞬間、ビーッと
どうやら“エクシア・ディオスクロイ”の左胸部に突き刺さった
「クソッ! もう少しで詰めるって時に!」
俺はヘルメットのバイザーを下げ、コックピットハッチを開いた。
“エクシア・ディオスクロイ”は強引な魔改造を施しているだけあり、脱出システムは排除されている。
したがって、このまま自機を放棄して離れて逃げるしかなかった。
そして漂流覚悟で真空の宇宙に身を乗り出そうとした瞬間、俺は驚愕する。
『――シ、“シンギュラリティ”!?』
後退した筈の敵機がこちらへと迫っていたのだ。
斬り落とした両腕は損傷した状態であり、裂かれたコックピットのハッチも露出されたまま――その内部に奴はいた。
――“イヴFESM”。
ティア・ローレライの身体を乗っ取ったとされる寄生型の
着用しているアストロスーツといい、その身形も4年前の彼女と何一つ変わらない。
ただ異なっている部分はあった。
バイザー越しで覗かれた肌と髪が真っ白であり、瞳の瞳孔は真っ赤に染められている。
――ヴィクトル氏とイリーナ嬢と同じ特徴。
こいつが……敵なのか?
“イヴFESM”はシートから立ち上がり、身を乗り出して露出されたコックピットの隙間から覗き込んでくる。
いつも優しく穏やかだったティアの顔とは思えないほど醜悪に顔を歪ませ、脱出しようとする俺に向けて鋭い眼光を浴びせていた。
アストロスーツのヘルメットに内蔵する無線を通して奴の声が響いてくる。
『……人間、貴様がルドガー・ヴィンセルだな?』
『なんだと!? 何故、俺の名を……』
こいつ、ティアとしての記憶が残っているというのか?
それにしては雰囲気といい、彼女らしさを微塵も感じない。俺にはティアの形をした別モノとしか思えない。
『次こそ必ず滅してやる……我が偉大なる「主」に誓って、その身に宿る「
『主? アストラル? 何を言っているんだ、こいつ……』
声質はティア本人だが口調がまるで異なっている。
それに何を言っているのかさっぱりわからない。
ただ一つ言えることは、俺に対して“イヴFESM”は異様なほどの敵意を剥き出していること。
『――ルドガーから離れて! アナタの好きにさせない!』
今度は幼女の声が聞こえる。
同時に“シンギュラリティ”が激しく揺さぶられた。
そのことで“イヴFESM”はバランスを崩し、危なくコックピットから放り出されそうになる。
咄嗟にシートにしがみつき、『うぐぅ!』を苦悶の非情を浮かべた。
『ええい! 忌々しい小娘だ! この“
顎を上げて何かを見上げながら悪態つく、“イヴFESM”。
どういう理由なのかわからないが、向こう側も都合が悪い状況であるのは確かのようだ。
にしても、あの幼いティアの声……おそらくコバタケが話していた人工筋肉により
だとしたら、“シンギュラリティ”のどこかに潜んでいるというのか?
あるいは“シンギュラリティ”がティアそのモノなのか……。
幼女の声の方が彼女に近い存在である気がしてならない。
現に二度も俺の名を呼び庇うような言動も聞かれていた……。
クソォッ、さっぱりわからん!
そもそも
“イヴFESM”を乗せた“シンギュラリティ”は俺から離れて行く。
同時に、“エクシア・ディオスクロイ”のコックピット内部から爆発が起こった。
「しまった――!」
俺は瞬時にアストロスーツの推進装置を作動させ、
カァッ
蒼白い閃光が視界を覆う中、“エクシア・ディオスクロイ”は大破した。
「“ディオスクロイ”!? クソォォォォッ!」
エーテル独特の爆発による振動波に巻き込まれ、俺は吹き飛ばされてしまう。
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