Episode:12 シンギュラリティとの再戦




 主力戦艦“ウリエル”に乗船し、エウロス艦隊は出撃した。


 今回のホワイトホールの展開規模は大きく、群体規模ではないかと予想されている。

 ひょっとすればその中に“シンギュラリティ”が紛れこんでいるかもしれない。


『――間もなく絶対防衛宙域に到達します。予想通りの群体タイプ。小型FESMインプ級、中型FESMサタネル級、大型FESMマラーク級で構成された300体が確認されています』


 格納庫ハンガーで、俺達ガーゴイル隊は各AGに搭乗し待機していた。

 射出機カタパルトに移動されていくと同時に、オペレーターのヨナから報告が入る。


「ヨナ軍曹、その中に“シンギュラリティ”はいるのか?」


『今のところ、爵位FESMロイヤル級と堕天使グレゴリルは確認されていませんが、“シンギュラリティ”は半分がAGアークギアなので可能性はあると予想されます。どうか気を付けてください、ルドガー大尉』


『了解した――“エクシア・ディオスクロイ”、ルドガー・ヴィンセル出るッ!』


 出撃ランプが赤く点滅し「0」と表示されたと同時に出撃した。

 

 見た目は変わらないが全体に『特殊強化軽装素材』を組み入れたことで、以前より推力噴射装置スラスターの出力が向上されていることを実感する。


「いい感じだな、“ディオスクロイ”。ガーゴイル隊各機の調子はどうだ?」


 俺はサブモニターに映る部下達に向けて声を掛けた。

 後方からグレーに塗装された3機のAGアークギア、“エクシアFAT”が隊形を組んで追随している。


「こちらエルザ、問題ありません! 必ず隊長のご期待に応えてみせます!」


「こちらリック、絶好調っすよ! 武勲立ててモテてみせますよ~!」


「こちらユイバン、若いパイロット達にはまだ負けませんぞ!」


 無線から威勢の声が飛び交う。


 各機、重装甲かつ重装備の割には遅れている様子はない。徹底的にチューニングされたとはいえ大した機動力だ。

 流石はコバタケ博士、マッドだが実にいい仕事をする。



 間もなくしてFESMフェスムと交戦に入った。


 まずは俺達ガーゴイル隊が最も高い火力を持つため先陣を切り、迫り来る敵をより多く撃破することを目標とする。


 ウリエル艦隊が後方で主砲である霊粒子破壊砲エーテルブラストで援護射撃し、幾条の蒼白い光が閃光を帯びて漆黒の宇宙を切り裂いた。


 輝きが弾け飛ぶ中、撃ち漏らし難を逃れたFESMフェスムが溢れ出るかのように射程距離へと入る。


「各機、ミサイル撃てぇ!」


『『『了解ッ!』』』


 俺の合図で部下達は素早く陣形を組み、背部ユニットのミサイルランチャーを一斉に発射させた。

 自動追尾ホーミングした幾つもの光弾は的確に敵を捉え着弾し爆発する。

 巨大な丸い光が覆う先を俺達ガーゴイル隊は突き進んで行く。


 光を突破すると目の前に戦艦並みの巨躯を持つ、大型FESMマラークと遭遇した。


 俺が駆る“エクシア・ディオスクロイ”と、隊長機中心に陣形を組む3機の“エクシアFAT”は自走砲の霊粒子大砲エーテルカノンに武装をセレクトする。


「――ファイア!」


 モニターの照準に捉えたFESMフェスムに向けてトリガーを絞った。


 四つの強力な霊粒子破壊砲エーテルブラスト大型FESMマラークの身体を貫き風穴を空ける。

 一拍後、星幽魂アストラルを破壊されて肉体が崩壊し蒼白い泡状となり飛び散って消滅した。



 ドドドドドド――……!



 音のない真空の世界で霊粒子による独特の振動音だけが、コックピット内で孤独に響いている。


「この調子で雑魚を払いながら、大型FESMマラーク3体を目標に狩るぞ。今の貴官らの実力なら容易だろう」


『『『了解ッ!』』』


 各機は臆することなく、俺の後に続いている。

 魔除けの意味を持つ、ガーゴイル部隊の名は伊達ではない。


 一人一人は確かに灰汁が強いキャラだがパイロットとしての実力はトップクラス。

 少なくても俺はそう評価している。

 

 それから小型FESMインプ級84体、中型FESMサタネル級38体、大型FESMマラーク級3体を撃沈させた。

 後にこれは国連宇宙軍で2位のスコアとなる。

 1位はゼピュロス艦隊の“サンダルフォン”7号機だけどな。


 その刹那、メイン・カメラが何かを捉える。


 蒼白い閃光を発しながら、六枚の翼を広げて飛燕する漆黒の人型機動兵器AGの姿。


「――“シンギュラリティ”!?」


 やはりこの戦域に現れたか!



『ぐわぁぁぁ――!』


 猛スピードで移動する“シンギュラリティ”は、遭遇した他の“エクシア”隊に強襲を仕掛けている。

 その圧倒する機動力と火力を用いて、一瞬で複数のAGアークギアを撃ち墜としていた。


 奴め、以前よりも速いぞ!

 それに俺が斬り落とした右腕も修復されているように見える。

 まさかFESMフェスムが損傷部分を修理したってのか?


 どちらにせよだ。


「それ以上はやらせん!」


 俺は“シンギュラリティ”に向けて長砲身ロングバレルの|霊粒子小銃(エーテルライフル)を放つ。

 狙ってはいない。奴の注意をこちらに向けさせるためだ。


 案の定、“シンギュラリティ”は俺の存在に気づく。


『――あの時の人間か! 今度こそ滅してやるぞ!』


 女の、ティアの声が響く。

 いや、あれは“イヴFESM”だ。

 半分はAGアークギアだけに、わざわざ無線越しで言い放ってきた。


 生前の彼女なら絶対に言わない台詞に、俺は不快感で顔を歪める。


「……他の“エクシア”機はその場から離れ、残りのFESMフェスムの掃討に当たれ! ガーゴイル隊は俺に続けぇ! ここで“シンギュラリティ”を撃破する!」


『『『了解ッ!』』』


 “エクシア・ディオスクロイ”と3機の“エクシアFAT”はフォーメーションを組み、目標に向けて突撃する。


 撤退し離れていく他の“エクシア”機を無視し、“シンギュラリティ”もガーゴイル隊と向き合った。

 同時に両肩部の補助可動肢サブアームに取り付けられた双翼が大きく展開される。


 あれは突撃型誘導ミサイル、《レギオン・アタック》か?

 しかし6号機“メタトロン”だった頃、実弾は搭載されてなかった筈だ。

 当時は未完成の武装システムであり、後に7号機の『電脳AI:ホタル』がサポートする形で実用するに至ったと聞く。


 ではあれはハッタリなのか?

 いや違う、何か嫌な予感がする……。



 バシュ! バシュ!! バシュ――!!!



 悪い勘ってのは的中するものだ。

 開かれた補助可動肢サブアームの双翼ポッドから、小型ミサイル状の何かが射出された。


 ――小型FESM級インプである。


 先端がドリルのように尖った形態であり、追尾するかのようにこちらに迫ってきた。

 その数は40体ほどだ。


 FESMフェスム版の《レギオン・アタック》だと言うのか?

 それは奴らも人類側、特に7号機の“サンダルフォン”を研究して模倣していることを意味する。


「チィッ! 各機散開ッ! 回避しながら撃ち墜とせぇ!」


 俺の指示で、ガーゴイル隊は一斉に散らばって離れていく。


 既に打ち尽くしたミサイルランチャーと増加燃料プロペラントタンクを切り離し、“エクシア・ディオスクロイ”を軽量させる。

 推力噴射装置スラスターを全開に吹かし、追跡から一気に切り離した。

 そのまま強化した補助噴射装置バーニアを駆使し、機体を素早く反転せる。


 頭部の機銃やギミック式のバズーカ砲を放ち、強襲する10体の“ミサイルFESM”を全て撃破した。


 その頃、各AGアークギア機も高速に追尾してくる“ミサイルFESM”を回避行動と取りながら撃ちなんとか数体を墜としている。


 しかし、



 ドドドドド――……。



『『『うわぁぁぁぁ!!!』』』


 無線越しで衝撃音と共に、部下達の悲鳴が木霊する。


「エルザ、リック、ユイバン!?」


 俺は“シンギュラリティ”を牽制しながら、サブモニターで皆の安否を気遣う。

 被弾した際に“ミサイルFESM”の星幽魂アストラルごと砕け散ったからか、その一帯が霊粒子エーテル独特の蒼白い光に包まれている。


 一瞬、撃墜されたのかと疑ったが……。

 だがレーダーには各AGアークギア機の反応が映し出されている。


『だ、大丈夫です、隊長……避け切れず被弾しましたが、“エクシアFAT”の『特殊強化軽装素材』のおかげで、なんとか機体は無事です』


『ガチで死ぬかと思ったっす……けど損傷も結構みたいで、しばらく動けねぇす。すんません……隊長』


『うむぅ……おかげで10年は寿命が縮んだぞい。直撃を受けた衝撃でOSまでクラッシュしておる……復旧まで時間が掛かりそうだ。すまん隊長……』


 皆、カスタムされた機体のおかげで命拾いしたようだ。

 ボロボロには違いないが、手を加えてくれたグノーシス社に感謝だな。


 だが部下達はもう戦える状態ではない。


 ならばやることは一つだ。


「――了解した! 各機、修復作業に専念してくれ! 俺が“シンギュラリティ”を斃す!」


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