最強の人型機動兵器を駆る謎のエースパイロット(実は俺)に誰もが憧れている件~艦隊の美少女たちには隠しきれてないようです~

沙坐麻騎

第一章 

第0話 プロローグ・謎のエースパイロット




「朝のニュース見た? また漆黒のAGアークギアが正規軍のピンチを救ったらしいよ」


「"サンダルフォン"ね、カッコイイよね!」


「確か、ヘルメス社の試作機で正式採用されてない宣伝機と聞いたけど、どんな人がパイロットなのかなぁ?」


 今日も、クラスではその話題で持ち切りだ。


「あれ? でも"サンダルフォン"って無人機じゃなかったけ?」


「違うよー。戦闘中に声を聞いたって言う、パイロットがいるらしいからねー」


 特に女子達の間では、パイロットはどんな奴だという話で盛り上がっている。


 誰もが謎の人型機動兵器AGアークギアに乗るパイロットの存在が気になるらしい。


 自己紹介が遅れた。


 俺の名は『弐織にしき カムイ』16歳。

 国連宇宙軍養成所であるコクマー知恵学園高等部の一年生だ。


 やや身長が高い程度の細身、長めの黒髪だが天然パーマのため中々髪型が決まらない。

 さらに黒縁眼鏡をかけた、あまり冴えない容姿だと自虐している。


「おい、あいつまた一人でいるぜ」


「ガチでぼっちだよな? 名前なんて言ったっけ?」


「知らねぇ。どうでもいいじゃん、あんな陰キャ」


 一方でどっか男集団が、机に突っ伏している俺に向けて言ってくる。


 うっせえっつーの。


 そう。


 俺はいつも一人でいることから、クラスで「陰キャぼっち」のレッテルを貼られている。

 けど誰も好き好んで、ぼっちでいるわけじゃない。


 ちゃんとした事情ってのがあるわけで……。


 俺は顔を上げ、指先で黒縁眼鏡の位置を直す。

 ちなみにこれは伊達眼鏡である。

 本当は抜群に視力が良いのだ。


 ――視力だけじゃない。


 俺の近くには誰もいなかった。


 生徒達は窓際や後ろ側など、端っこで屯っており小声で談笑をしている。


 実は聴力もやたら良かったりもする。

 正確には五感が異常に発達していると言っても良い。


 とある事件をきっかけに、常に脳が活性化している状態だ。


 だから少し集中するだけで、周囲の雑音が全て頭の中へと入ってしまう。

 ああいったしょーもない内容も、つい聞こえてしまうのだ。

 普段は消音用の特殊イヤホンを所持しているが、今日に限って学生寮に忘れてしまった。


「――しくったわ」


 舌打ちし、俺は再び机に突っ伏して寝たふりをする。




 今から100年以上前、西暦2030年。


 地球に突如、謎の宇宙怪獣群が襲来し人類を襲った。


 外敵宇宙怪獣(Foreign Enemy Space Monster)、"FESMフェスム"と名付けられたそれらは、瞬く間に人類を蹂躙し最終的には地上の総人口を30%まで減少させ支配したと言う。


 しかし人類側も黙って指を咥えていたわけではなく、巨大な敵に各国が手を結び徹底抗戦の構えに転じたそうだ。


 長きに渡る死闘の末、人類はFESMフェスムを駆逐することに成功し、地球は再び人類側へと戻った。


 刻が進むこと、西暦2045年。


 国連宇宙軍(国際連合宇宙軍)は宇宙へ進出した。


 太陽系を中心に対FESMフェスム侵攻阻止の橋頭堡きょうとうほである『絶対防衛宙域』を展開させてから、100年後の現在に至っている。


 俺が住む宇宙住居コロニー船"セフィロト"も普段は『ゼピュロス艦隊』の戦艦に連結されており、『絶対防衛宙域』に沿い巡視する形で太陽系の航路を巡回していた。


 そして西暦2147年となる今も尚、『絶対防衛宙域』内で神出鬼没に出現するFESMフェスムとの戦いを余儀なくされている。


 広大で果てしない、この宇宙を舞台として――。




「"サンダルフォン"のパイロットって、一体どんな人なのかなぁ」


「きっと超イケメンの紳士だと思う!」


「わかるー」


 まだクラスの女子達が話題にしているぞ。

 しかも弾けるような黄色い声援だ。


 なんだか面映ゆい。

 気恥ずかしさに、つい意識して聞いてしまう。


 何故なら、


「そのパイロット、実は俺でーす!」


 別の男の声だ。


 んなわけねーだろっと俺は顔をあげると、話していた女子達の前に立つ男がいる。

 毛先を遊ばせた茶色の短髪でチャラ系の陽キャラ、背が高く顔立ちはそこそこ整った感じだろうか。


 奴はクラスメイトの『アルド・ヴァロガーキ』だ。

 何故か、やたらと格好をつけたドヤ顔で自信満々に手をあげている。


「うっそだー!」


「アルドくん、いくら操縦訓練パイロット科で二位の成績だからって、まだ訓練生でしょ?」


「実戦に出たことすらないじゃーん!」


「いや、実はヘルメス社に雇われているんだって! そうだよな、ユッケとガッズ!」


 アルドは真顔で後ろに立つ、二人の男子生徒に話を振っている。

 如何にも取り巻きっぽいユッケとガッズの二人は「お、おう、アルちゃんの言うとおりじゃね?」と口裏を合わせている。


 ちなみに冒頭で俺の悪口を囁きあっていたのは、この三バカトリオだ。


 にしても、あからさまな嘘っぱちもいいところ。

 お前如きに、"サンダルフォン"が動かせるわけないだろ。


 そもそも、あの機体は俺の……。


「――アルドが操縦できるなら、オレもあの黒いAGアーク・ギアを扱えるってことだろ?」


 別の男が声をかけている。


 その瞬間、女子達の態度も変わった。

 深い溜息を漏らし、どう見てもそいつを「異性」として感じている様子だ。


 多くの男女が屯している輪の中に一際目立つ生徒。


 男の名は、『ハヤタ・セバスキー』。


 身長はさほど高くないも、女子のような中性的な顔立ちで癖ッ毛のある長めの青髪。本人曰くイメージカラーとして気合い入れて染めているらしい。

 確かアメリカ人と日本人のハーフだと聞く。


 第102期パイロット訓練生の中で、最も高い操縦技術を持った奴で、一回だけ戦場に出撃した実戦経験もある。

 っと言っても、後方で見物程度だったらしいけどな。


「ハヤタくんなら、イメージ通りね」


「本当、そうだよねー」


「実はハヤタくんがパイロットじゃないのぅ?」


 など、多くの女子達から黄色い声が飛び交う。


 ハヤタの奴、相変わらずのモテ具合ってか。

 あいつは学園の人気投票の男子部門において三位らしく、第102期生の中では事実上のカースト一位だろう。


 なので、ご覧の通り女子に相当モテる。


 また女の子のような容貌の割には勝ち気の熱血キャラであり、そこも人気に火がついているようだ。

 男友達も多く、いつも輪の中心にいる正真正銘、陽キャのリア充ってやつだろう。


 一方の俺は人気投票では圏外だけどな。

 別にいーけど……。


 まぁ、俺もハヤタに何か嫌味なことをされた記憶もないし、そもそも歯牙にもかけられない。

 カースト一位の陽キャ様が、底辺の陰キャぼっち男などを意識する必要もないからな。


 本当にどうでもいい……。


 人間関係ほど、ストレスが溜まることはないからな。

 出来るだけ脳に負担をかけずやり過ごすのが、俺のスクールライフのテーマだ。



「ハヤタ、オメェ、少しくらい俺より成績がいいからって頭に乗るなよ~!」


「乗ってねーよ。事実を言っているだけだろ? オレも遠くからだが一度、戦場で"サンダルフォン"を見かけたことがある。あれだけの重装備なのに、あの機動性……乗りこなせているパイロットは経験や熟練された腕前じゃない。洗練されたセンスの塊、間違いなくエースパイロットってやつだ。オレよりも劣るアルドの腕前じゃ、とても無理だって話さ」


「クソッ! そんなに言うならよぉ! 午後のシュミレーター、俺と勝負しようぜぇ!」


「上等だ、乗ったぜ!」


「おお! 成績上位のハヤタ君とアルド君のバトルが見れるんじゃね!?」


「私、絶対に見に行くー!」


「ハヤタくーん、応援に行くからね!」


 やたら周囲がはしゃいでいる。

 クラスのボルテージもMAXってやつだな。


 つーか、さっきからうるせーし。


 あくまで蚊帳の外の筈なのに、なまじ聴力がいいから意識せずとも勝手に頭に入ってしまう。


 てか、キミ達。


 さっきから話題にしている、そのエースパイロットって。


 俺のことだからな!


 ……とは、言えるわけもなく。






───────────────────


《設定資料》


〇アークギア(AG)


 人型機動兵器の総称。

 西暦2145年にヘルメス社が最初に開発した汎用型の主力兵器。その開発経緯は非公表であり、『知恵の実』というワードでベールに包まれた最重要極秘事項となっている。

 明らかに人智を越えたオーバーテクノロジーが盛り込まれており、霊粒子エーテルを動力にした霊粒子動力炉エーテルリアクターで可動し、霊粒子推進機関エーテルエンジンで宇宙空間の高速移動だけでなく、大気圏内の飛行も可能である。

 様々な武装、換装パーツを実装させることで、あらゆる局面に対応可能な文字通りの汎用機体であり、FESMフェスムに最も有効とされる『霊粒子エーテル』を使用した兵器の装備運用が実現され、これまで劣勢だった戦況を変えつつあった。




〇エーテル(霊粒子)


 霊粒子動力炉エーテルリアクターから生成される粒子。上記載通りその詳細は不明であり、ブラックボックスとして最重要極秘事項となっている。整備兵の間では「疑似超光粒子の集合体」として割り切られていた。

 多様性が高く、AGの推進力から兵器へと転用が可能であり、対FESMフェスム用として再生を抑制させる最も有効な主力武器となる。ちなみに放出される際は蒼色に発光する。


 また人類の敵であるFESMフェスムも《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》など、霊粒子エーテル系の攻撃を使用することから、ヘルメス社が何かしらの手段を用いてFESMフェスムから複製コピーしたのではないかと囁かれている。

 これらの技術も全て『知恵の実』というワードに含まれている。




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