第1話 FESM

※プロローグから1日遡ったお話し。




「――本艦より約3000km先にワームホール反応を確認! 時空が歪められています! ホワイトホールが発生する前兆です!」


「間もなく、FESMフェスムが出現します! 各艦、連結を解除し戦闘態勢を行ってください!」


AGアークギア隊、出撃準備を急げ!」


 戦艦のブリッジから緊迫した声と怒号が飛び交う。



 純白の船体が特徴である巨大な二等辺三角錐の形をした、超大型のセラフ級主力戦艦"ミカエル"。


 その"ミカエル"を中心に円形を描くように一体化していた二番艦や三番艦、その他複数の巡洋艦が連結を解き離れていく。


 流れるような鮮やかな動きで美しく規則正しい艦隊陣形を整え始める。


 国連宇宙軍の第四艦隊――ゼピュロス艦隊が進軍を開始し、これより太陽系『絶対防衛宙域』にて戦闘が始まろうとしていた。




 その頃、観測された彼方から、空間が異様に歪む。


 青紫色が混合した白い渦潮のような亜空間サブスペースが発生し、中心から複数の物体が飛来してくる。


 人類にとっての最大の天敵である、外敵宇宙怪獣(Foreign Enemy Space Monster)、通称"FESMフェスム"だ。


 怪獣というカテゴリーだが、果たして生物なのか異星人が創った兵器なのか、現在においても正体不明な部分が多く未知なる存在とされていた。


 極めて神出鬼没な存在であり、太陽系宙域内から突如として発生する亜空間サブスペースこと『ホワイトホール』の中から不特定に出現し、地球へ侵攻しようと向って行く性質がある。


 その形状はヒトデやナマコのような棘皮動物からクラゲに似た刺胞動物、タコやイカのような軟体動物などの姿に模しており、かと思えば昆虫類や植物など不特定多数であった。

 体表も無色からカラフルな色まで様々であり、柔軟な外皮から強固な甲殻などで覆われている。

 さらに全長約10mから戦艦クラスくらいの大きさまで存在し統一性を感じられない。


 ただ唯一の共通点は、どのFESMフェスムも大なり小なり白い両翼が生えている。

 

 その形容から人類側でもFESMフェスムの種類を分けるため、個体の大きさや形状タイプと群体における組織的役割などにより、宗教文化に登場する悪魔の名が与えられ分類されていた。


 攻撃手段は体当たりや体外から無数の触手が生えて鞭や槍のように襲い掛かり、あるいは《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》を用いることもある。


 さらに戦闘機動や運動性にも優れており、100年前の地球へ襲来していた時も重力下中で高速飛行が可能だったと記録されている。

それは宇宙空間においても折り紙付きであった。

 

 FESMフェスムとの戦いにおいて、通常兵器でもダメージを与えることが可能だ。


 但し、体内奥に埋め込まれている心臓部に値する永久機関こと『星幽魂アストラル』を完全破壊しなければ斃すまでには至らず、一定の時間が経過すると破損部分は自己再生してしまうという厄介な側面もある。



 しかし現在――人類の主力兵器であるAGアークギアに装備された霊粒子エーテル系の兵器、霊粒子小銃エーテルライフル霊粒子刀剣セイバーブレードなどであれば再生を抑制し、そのまま撃破することも可能になった。



『――各機、FESMフェスムの侵攻を許すな! 絶対防衛宙域を死守せよ!』


 戦艦の射出機カタパルトから、人型機動兵器が幾つも飛び立つ。


 型式番号HUM-018。

 "エクシア"という名のAGアーク・ギア


 人類初の霊粒子動力炉エーテルリアクターを搭載した量産型の汎用機体である。

 二年前にロールアウトし、現在における国連宇宙軍にとって人型の主力戦闘機であった。


 スレンダーな外装であり、多角形の甲冑鎧アーマーをまとった騎士のようなフォルム。

 頭部には一本角のような霊粒子エーテル機銃が付けられている。


 右腕に専用のライフル、左腕に防御用のシールドを標準装備しており、中にはバズーカ、ミサイルランチャーを装備していた。

 銀色シルバーを基調とした塗装から、独自のカラーリングを施している機体もあるようだ。



 エクシア機は小隊ごとに隊列を組み、その背部に搭載された霊粒子推進機関エーテルエンジンのスラスターから鮮やかな蒼白い閃光が微粒子となり散りばめられていた。


『もうじき、接触ポイントに入る! 各機、連携して撃破に当たれ! いいか、決して油断するな――ぐわぁぁぁ!!!』


『隊長!?』


 速攻で指揮官機が大破する。


 FESMフェスムが放つ《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》が胸部の操縦席コックピットを貫いたのだ。


『くそったれがー!』


『やめろ! まだ撃つな! 編隊を崩すんじゃない!』


『うわぁぁぁぁ! くるなぁぁぁぁ!!!』


 まるで、雪崩込むような勢いで襲ってくるFESMフェスムに、エクシア部隊は翻弄されていく。

 指揮系統が乱れ、すっかりパニックに陥っていた。


 本来なら数機で連携すれば快勝できる相手でも、一機が崩れることで伝染し隊列が総崩れとなってしまっている。

 統制を立て直すまで時間もかかり、その頃には何機が生き残っていることかわからない。


 対するFESMフェスムは取り乱すという概念はないようだ。

 いくら仲間が斃されようとも個々が己の役割をこなし、躊躇なく触手攻撃や体当たりをして着実に撃破している。


 中には、無数の触手を機体に巻きつかせ、エクシアの操縦系統を乗っ取り同士討ちさせていた。


 その戦いぶりは無機質で機械的であり、淡々とした作業的に人間を狩っているように思える。


 最早、その差は歴然と言えるに違いない。






**********



『――カムイ、出番よ』


「わかった、戦況は?」


 決して広いとは言えない操縦席コックピットの中。


 座席シートに腰を下ろしている俺は、漆黒のアストロスーツを着用し、同色のヘルメットを被っていた。

 

 アストロスーツは身体に密着したデザインの軽装型の宇宙服であり、AGアーク・ギア用のパイロットスーツ操縦士服だ。

 

 コンソールのメインモニター斜め横から別のウィンドウが開かれている。


 長い髪から肌に至るまで真っ白な美少女が映し出されていた。

 猫のようにパッチリと目尻が吊り上がっている瞳は、煌々と赤い輝きを放ち、どこか神秘的に見える。


AGアーク・ギア隊450機が出撃して、85機が撃墜されているわ。敵はまだ200体あまりが健在よ』


「やられすぎだな……大したFESMフェスムはいないと聞くが?」


『なんでも指揮する隊長機が速攻で撃たれ、パニックを起こし指揮系統が一時麻痺したみたいよ』


「はぁ? 正規のパイロット達だろ? んな学徒兵か訓練生じゃあるまいし……」


『一応、立て直したみたいよ。でもこれ以上、エクシアを失うと艦長の面目が丸つぶれって感じね。それで、こちら・ ・ ・側に出撃要請が来たのよ』


「艦長か……古鷹こたかさん、また胃に穴が開かなきゃいいけど」


『古鷹 セシリア。貴方と同じクラスメイトだっけ? あの若さでゼピュロス艦隊の総艦長を担っているのだから才能は認めるわ』


「あのクラスで唯一、ぼっちの俺に優しくしてくれる子なんだ。あんまりイジメるなよ、社長」


『イリーナよ。イリーナ・ヴィクトロヴナ・スターリナ。雇用主とはいえ、いい加減に名前で呼びなさいよ』


「だから社長でいいんじゃないか――ホタル、出撃準備に入るぞ」


COPYコピー。"サンダルフォン"、機動シーケンス、オールクリア。これよりカタパルトへ移動シマス』


 少女風の電子音声がそう告げると、格納庫ハンガーが動き始め、射出機カタパルトデッキに機体が運ばれて行く。


 分厚いハッチが中央から開けられ、モニター越しに眩い星々が散らばった宇宙が視界いっぱいに広がる。


 深淵の如く、どこまでも吸い込まれていく感覚。


 無限なる虚空の海。


 これから戦いに赴くとは思えないほど静かで美しい。

 

『カタパルト移動完了。いつでも出撃可能デス、マスター』


 指先で操縦桿をなぞり、ぐっと力強くグリップを握り締める。


 意識を戦場へと移した。

 これから向かう戦場は、人類の存亡をかけた聖戦だ。



「――“サンダルフォン”、弐織 カムイ、出るぞ!」






───────────────────

※尚この物語に出てくる『ホワイトホール』は提唱されている天体とは別物である。



《設定資料》


〇エクシア


 型式番号:HUM-018


 平均全高:15,3m(頭部の霊粒子エーテル機銃を除く)

 平均重量:本体重量7,5t

 全備重量:17t~(追加外装、装備により異なる)


 人類初の霊粒子エーテルを使用した初の量産型AG。

 西暦2145年にロールアウトしている。

 大量生産を実現する上で、国連宇宙軍が導入する際コストを惜しみ、当初の設計よりも大幅なコストダウンがされている。

 簡略化された反面、改修や追加増強が自在に可能であり、汎用機として成功と言える。



《補足》

 エクシア……能天使。最前衛で戦うという意味で名付けられた。


 形式番号:HUM-018→量産機の場合、開発時期と配備された順番で機体別に「0」から+1ずつ加算される。(下記載参照)


 H=ヘルメス社製

 U=「U.N.S.F」国連宇宙軍保有AG

 M=mass production…量産機

 018=18番目に製造されたAG



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