第68話 後輩からのヤバイ相談
俺の言葉に、ハヤタは気を良くしたのかニッと白い歯を見せてくる。
「そっか……けど、弐織がこうして誘いに乗ってくれて嬉しいよ。社長から部活以外はNGだって言われていたからさぁ」
「うん、今日みたいな感じなら別にいいよ。俺の方こそ巻き込んでしまって悪かったと思っているから」
「いや楽しいよ、オレはガチで。レクシー姐さんじゃないけど、弐織から色々と学ぶところが多いからな……AGパイロットとしては勿論、男としてな」
やたら俺を持ち上げてくる、ハヤタ。
レクシーの話だと、以前から“サンダルフォン”と操縦するエースパイロットに憧れを抱いていたらしい。
そのパイロットが俺だと知り憧れの気持ちをから、こうして接してくれているのだろう。
しかし「男として」なんて……これまで言われたことがない。
ましてや同級生の男子からだと、なんだか妙に照れ臭い。
「……まさか買い被りすぎだよ」
「んなことねーよ。今朝のクラスの連中じゃないけど、奇態
言われてみればかもな……“サンダルフォン”に乗っていたわけじゃなかったし。
けど、あのまま敵を放置していたらもっと多大な被害を受けていたし、せっかくのセシリアの戦術も駄目になっていたかもしれない。
あの時は、俺がやるしかない。ただそう思っての行動だ。
それに俺は……。
「――仲間を信じているからだよ。あの時はレクシー先輩も援護してくれたし、“デュミナス”も俺仕様にヘルメス社がカスタマイズしてくれた特別機だったからね……それに他のパイロットを生かすためにも、あの時は俺が戦うしかないと思ったんだ」
「……やっぱ弐織スゲェ。たとえ実は
「そこは俺の口からは言えないかな……雇い主であるイリーナの許可が降りないと――ん?」
「どうした、弐織?」
「足音がする……誰かが教室に近づいているぞ。一人か?」
「え? 聞こえねーよ」
普通はね。
俺は他人より聴力は抜群なんだ。そして誰かの気配を感じる力もな。
最近じゃ特に敏感になっているくらいだ。
ハヤタが首を傾げる中、俺は食べ終わった容器を片付けて、どう身を隠そうか考えていた。
いくらクラスメイトとはいえ、カースト一位の陽キャと底辺と思われている陰キャぼっちが二人で飯を食べているのは絵面的にも不自然だからな。
場合によっては、俺がハヤタに呼び出されてシメられている設定にするか?
こいつも工作員の端くれだから、その演技と協力はしてくれるだろう。
などと考えていた数秒後、プシュっと扉が開かれる。
一人の女子生徒が教室に入ってくる。
ん? この子は……。
「やっぱり、弐織先輩、ここにいたネ」
ツィンテールのお団子ヘアで、中等部の制服を着用している東洋系の美少女。
名前は、シャオ・ティエン。
普段は情報総合科だが、イリーナの強制的で芸能科に「宇宙アイドル」として入らされた子だ。
相変わらず言葉に独特の訛りがある。
「ティエンさんかい? どうしたの?」
「シャオでいいね、弐織先輩。先輩に相談あって来たヨ」
「相談? 俺になんの?」
そう聞くと、シャオは扉を開けて廊下を覗き込み、誰もいないことを確認する。
再び扉を閉めると内側からロックした。
「……ここからは他言無用ネ。セバスキー先輩もヨ」
「わかったよ。オレのことハヤタでいいぜ」
シャオは軽く頷き、小声で相談内容を説明してきた。
その内容に、俺とハヤタは声を揃えて驚愕してしまう。
「「――
「しっ! 二人共、声、大きいヨ!」
「「す、すみません……つい」」
おまけに同時に謝罪してしまった。
「けど普通に驚くよ……どうして、この学園に
「それは……昨日、
「え? そんなのニュースになってねーぞ? ガチだったら今頃
ハヤタの言う通りだ。俺もそんなことがあったなんて知らない。
「そんなの公表するわけないヨ。考えてみるがヨロシ、地球から船民を
確かに人員不足が相俟って、最近じゃ適正検査や審査基準のハードルが低くなっていると聞く。
そこに目を付けて
しかし――。
「どうしてシャオは知っているんだ? そういや警察隊の無線を傍受したって言ったよな?」
「……弐織先輩、これこそ誰にも言ったら駄目ネ。ワタシィの人格が疑われるヨ……ワタシィ、実は『傍受マニア』ネ。警察隊や軍の無線や通信を傍受しては、こっそり興奮してたネ……そのために情報総合科を専攻してるヨ」
ぼ、傍受マニアって……確かに胸を張って言える趣味じゃない。
つーかこの子、実はやばくね?
確か警察隊の通信は傍受して聴くだけだと逮捕されない筈だ。軍は知らないけど。
どっちにしても興奮している時点で、性癖として既にアウトっぽい。
「んでよぉ、シャオ。どうし
ハヤタが再び本題に触れて聞いた。
「それは今回、地球から上げられた者達は傭兵部隊に配属か、コクマー学園の入学志願者だけネ。傭兵部隊はシロ、彼らこそ元犯罪者やワケありが多いだけに適正検査もかなり厳しいヨ」
「一方でコクマー学園に入学しようとしている者達は検査も手薄いと?」
「そうネ、弐織先輩。さっきも言った通り、人手不足が原因ヨ……きっとそこに目をつけたヨ」
「んじゃよぉ、今日にでも警察隊の捜査が学園に入るんじゃね?」
ハヤタの言葉に、俺も同調し頷いて見せる。
しかしシャオは首を横に振るう。
「警察隊も迂闊に捜査は入れないと言ってるネ。情報だと
シャオの話だと
被害は尋常じゃなく、場所が場所ならば
そして逃走したもう一人も、同様の爆弾を所持している可能性が高いとのことだ。
「まぁ、
「そうヨ、弐織先輩……それこそ被害拡大で一大事ネ。だからある程度、犯人を絞り出す必要があり、警察隊や軍も公にせず慎重な構えのようだヨ」
なるほど、とんでもない事態だということは理解した。
「けど、シャオさん……どうして真っ先に、俺に相談してきたの? 教師には相談したのかい?」
「こんな話、教師が信じるわけないネ。それにワタシィの性癖を誰にも知られるわけにいかないヨ。こうみても清純派で通っているネ……弐織先輩に相談したのは、ある人に助言してもらったからだヨ」
「ある人? 誰それ?」
「
てことは、イリーナも事情を知っているのか。
そういや、この子って彼女に脅されて宇宙アイドルに入らされたんだよな。
「それで彼女はなんて言って、俺に相談しろと?」
「こう言ってたヨ――弐織カムイは色恋沙汰には激鈍でイラっとする男だけど、それ以外のことは下手な警察犬より遥かに使えるわ。私の名を出せば、彼は従うから相談してみなさい、ってネ」
……悪かったな。色恋沙汰には激鈍で。
しかし、なんて言い草さだ……こっちもイラっとしてきたぞ。
まぁ、多忙なイリーナが俺に頼るほど、ヤバイ状況だってことは理解した。
「わかった、協力するよ」
「本当ですカ、弐織先輩!?」
「当然だろ? 学園、いや“セフィロト”の危機だからね……」
俺の返答に、シャオの表情がパァっと晴れやかなり笑顔を浮かべる。
うん、宇宙アイドルに選ばれるだけあり綺麗でかわいい……「傍受マニア」っていう妙な性癖があるけどね。
などと浮かれている場合じゃない。
地球の反政府勢力組織が送り込んだ
俺のクラスにも地球から転校してきた生徒が二人いる。
――「ソフィ・ローレライ」と「加賀キリヤ」だ。
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