第69話 地球からの暗殺者
中等部の後輩であるシャオ・ティエンから、地球の反政府勢力組織が送り出した『
まだ公にされてないが、既に
その
イリーナからの指示もあり、俺はシャオに協力する形で
「今日、転校してきたのは同じ学年では、『ソフィ』と『加賀』の二人。後、上級生の第101期生も一人いると聞いたな……名前はなんて言ったっけ?」
「待ってろ、レクシー姐さんに聞いてみる」
ハヤタはそう言うと胸裏のポケットから、カード型のウェアラブル端末を取り出して、レクシーにメッセージを送信している。
「レクシー先輩は、その転校生と何か関りがあるのか?」
「ああ、上層部の指示で当面の
「中尉……俺達とそう変わらない年代なのに凄いな」
まぁ、俺は特務大尉だけどね。
「いや20歳らしいぞ。優秀なのは変わらないけどな。なんでもコクマーに転入したのも、キーレンス先輩に代わってオレら訓練生の指導係を担うそうだ」
つまり新しい副教官ってポジか。
「なるほどね。だったら、そのヨハンって先輩はシロだな。それだけ、しっかりとした経歴があれば、とても『反政府勢力』と繋がりがあるとは思えない。正規の士官でもあるしね」
「……に、弐織先輩。ということは?」
恐々と問いかけてくるシャオに対し、俺は力強く頷いてみせる。
「怪しいのは第102期生……同じクラスの二人、『ソフィ・ラローズ』と『加賀キリヤ』のどちらってことになる」
「ソフィって子は星月と一緒にいる筈だぜ。加賀って奴はアルドが仲間に引き込もうと関わっている筈だ」
「桜夢は俺から不審なところがないか、それとなく聞いてみるよ……アルド君の方は、ハヤタ君でいいかい?」
「ああ、そうだな。弐織はアルドに目の敵にされているところがあるからな……俺から探りをいれておくぜ」
「――約束事として、この件は俺達三人だけの秘密だぞ。他は他言無用にしておくこと」
俺の指示で、ハヤタとシャオの二人は「ん?」と
「弐織……アルドや他の連中は良しとして、星月は俺と同じ
「いや駄目だ。
「そっか……もし二人のうち、どちらかがクロだと判明したらどうする? オレらで取り押さえるのか?」
「それも駄目だ。判明した時点で、イリーナ社長に報告した方が無難だ。彼女の周囲にはヤバイくらい優秀で恐ろしい部下が多数いる。きっと彼らが上手くやってくれるだろう」
「わかったぜ」
「了解したネ。弐織先輩、暗いイメージがあったけど、凄く頼りになるネ。相談して良かったヨ。ワタシィも『傍受マニア』として、警察隊から情報を盗み聞きするネ……今から興奮してきたヨ」
なんで無線傍受して、いちいち興奮するんだ?
どうやら、このシャオって子が一番ヤバイ性癖を秘めているように思えてきたわ。
それから放課後、芸能科の活動が終わり俺達は帰ることになった。
先の件もあり、ハヤタは活動を休んでいる。
今頃はアルド達に接触して、『加賀キリヤ』について探りを入れている筈だ。
事情を知るイリーナは咎めることなく、宇宙アイドルのレッスンが始まる。
ユニット名は「
オネェっぽいダンサーの男性が女性言葉で、彼女達にダンスの基本を教えている。
イリーナが招いた講師で、その道では有名なダンサーらしい。
曲も完成しつつあり、次のイベントまでお披露目できるよう目指しているようだ。
意外と本格的な活動と頑張っている彼女達の様子に、俺はマネージャーとして微笑ましく見守っていた。
そして帰宅の際、一緒に帰っている桜夢に何気に尋ねてみる。
「ソフィちゃん? うん、とても良い子だよ。わたしと似たような境遇で
大きな瞳を丸くし、きょとんとした表情で桜夢は答える。
もう、ちゃん呼びとは……同じ境遇とはいえ、随分と打ち解けあっているな。
「え? 地球上がりの転校生だし、気になるだろ?」
「……そっ、なんだ」
「ん、どうしたの、桜夢?」
急に俯き出す彼女の顔に、俺は覗き込む。
「……カムイくん、ソフィちゃんみたいな子がいいのかなって」
「え!? そ、そんなわけないだろ! 違うよ、彼女とはまだ一言も話たことないし!」
「うん、そうだよね……ごめんね、わたしったら。ソフィちゃんは志が高く、とてもいい子だよ」
すぐに桜夢は気を良くし、普段通りの優しい微笑みを向けてくれる。
とりあえず誤解は解けたようだけど、何故聞いただけで地雷を踏んでしまったんだ、俺?
それから間もなくして、ハヤタからメールが届いた。
なんでも『加賀キリヤ』がアルド達のグループに入り、「新三バカトリオ」が結成されたらしい。
「……マジかよ」
俺は自分の部屋で顔を強張らせ、ドン引きしていた。
少し自分とキャラが被っていたので、てっきり断るかと思っていたけど本人は結構ノリノリだったとか。
「転校生になりすますほどの狡猾な
今の段階では、なんとも断言できない。
こりゃ長期戦になりそうだ。
それから一週間が経過した。
コクマー学園は何事もなく、生徒みんなは普段通りの日々を送っている。
国連宇宙軍の高級官僚が暗殺された件は報じられてなく、未だ証拠が掴めず捜索中であることが伺えた。
ちなみにソフィと加賀も学生寮から通っているので、常に誰かが傍にいる状態だ。
つまりその気になれば、誰でも人質が取れる環境ということになる。
だからこそ警察隊も下手に踏み込むことができないようだ。
もし誤認してしまったら、犯人は何をやらかすかわかったもんじゃない
仮に
したがって捜査も慎重になっているようだ。
俺とハヤタは、二人の監視を続けるも特に不審な点は見られない。
「――では今日の訓練は終わりとする。各自解散」
操縦訓練科の教室にて。
教官であるレクシーが訓練生に向けて解散宣言している。
彼女の隣で高身長の男子、いや男性が立っていた。
美形と言うべきか。毛先が跳ねた黒髪に整った鼻梁に唇、切れ長の双眸に銀縁眼鏡を掛けている。
一見して知的そうな雰囲気の割には身体もがっしりしていており、相当鍛えているのがわかった。
彼の名は『ヨハン・ファウスト』、地球上がりの副教官だ。
その類まれな容貌から、転校初日から女子の人気を総取りしたっていう噂だ。
なんでもファンクラブが結成されているとか。
ヨハンという副教官も、キーレンスと違い人柄は悪くなく、寧ろどんな訓練生だろうと懇切丁寧に指導してくれる。
地球では荒くれ者が多い傭兵に指導していたようだが、それは伊達じゃないと思えるほどだ。
訓練を終えた俺達生徒は、更衣室にて訓練服から制服へと着替えている。
(この後は芸能科か……イリーナはもう来て待っているんだろうなぁ)
制服の身形を整えながら、そう考えている時だ。
――カッン
離れた場所で、何かが床に落ちて転がっていく音。
「おい、キリヤ。お前、何か落としたぞ~?」
加賀の隣で着替えていたユッケが指摘した。
「あっ、ごめん。アルド君、ちょっとどけてくれないか?」
他の男子達がすし詰め状態で着替えている中、加賀は床に落ちた何かを探している。
なんだ……この感じ? 何か嫌な感じがする。
俺の直感が囁き疼く。
脳が活性化され
「……なんだ、これ?」
アルドの隣で着替えていた、ハヤタが足下に転がる何かを拾おうとしゃがみ込む。
「ハヤタ! それをこっちに投げるんだ!」
瞬間、俺はそう叫んでいた。
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