第67話 地球からの転校生達




 翌日、コクマー学園に登校すると、普段にましてクラス内が賑わっている。


「知っているか!? 転校生が来るってよぉ!」


「地球から上がってくるらしいな。今回は中等部から高等部まで、結構な人数って話だぜ」


「人手不足が原因だってね……特にAGパイロット」


「まだゼピュロス艦隊ウチはいい方じゃね? “サンダルフォン”と黒騎士がいるからさぁ。先日の戦闘も『奇態FESMフェスム』が現れたってのに、そんなに死者出てなかったじゃん」


「しかも“サンダルフォン”じゃなく、カスタマイズされた“デュミナス”機だって言うだろ? やっぱ、あのパイロットは凄げーよ」


「本当、英雄ヒーローだね……憧れちゃうな~」


 どうやら前回の戦いも含め、新しく転校生が来ることで盛り上がっているようだ。

 しかも複数か……クラスの連中じゃないが、これも人手不足が要因のようだ。


 以前、模擬戦闘した「傭兵部隊」もそうだったが、国連宇宙軍も最近じゃハードルを下げて、地球から戦えそうな人材を宇宙そらに上げている風潮があるらしい。


 戦艦やAGアークギアなら修理すれば直るけど、人間はそうはいかない。

 怪我ならまだしも死んでしまったら終わりだからな。

 それに回復しつつあるとはいえ、依然として人類の総人口は少ないままだ。

 軍だけじゃなく、あらゆる面で人員が不足している。



「カムイく~ん、今日も癒されるゥ~!」


 隣席で、セシリアが俺を見つめ両頬を抑えながら、ほわわ~んとトロけそうになっている。

 とても前の戦闘で見事な戦術を披露し成功を収めた、名艦長と同一人物とはとても思えない、ふわふわのマイペースな女子ぶりだ。


「カムイくん、おはよ。調子どう?」


 桜夢は教室に入り、さりげなく俺に声を掛けながら自分の席に座る。

 彼女はヘルメス社の工作員として、俺の日常を支援する役割も担っていた。


「おはよう。大丈夫だよ、ありがとう」


 俺も周囲に気づかれない超小声で答える。

 あくまでこちら側の事情とはいえ、学年トップの美少女である桜夢との密かな関係に、少し胸が疼いてしまう。なんとも言えない優越感だろうか。


「うぃ~っ、星月ちゃんにセシリアちゃ~ん! 今日もよろぴくね~ん!」


 アルドが腰を振りながら近づき、ちょっかいを掛けにきた。


「……う、うん、おはよ。アルドくん」


「あたし、何度も言っている筈よ。騒がしい人は嫌いなの。お願いだから、あっちで腰振ってくんない?」


 社交性のある桜夢と違い、セシリアはバッサリと切り捨てる。

 なんか艦長がイリーナに見えてきた。だからお互い意識し合っているのだろうか?


「んもぉ。相変わらず、セシリアちゃんきちぃな~。そんな陰気臭いとこ、座ってばっかで青春無駄にするよりよぉ、あっちで俺らとダベろうよ~なぁ!?」


 いつもならあっさり引くのに今日はやたらとしつこく食いついてくる、アルド。

 どうやら、陰キャぼっちの俺が二人の美少女に必然的に挟まれている状況が気に入らないらしい。


 久しぶりに、俺にヘイトを向けてきやがって……。

 大方、カースト一位のあいつが返り咲いたんで、焦っているんだろう。


「――アルド、いい加減にしろよ! 星月と古鷹さんが引いてんじゃねぇか!」


 案の定、カースト一位のハヤタが制止に入ってくる。

 あれから完全復活したようだ。


 そして定番どおり、アルドがキレる。


「ハヤタァ、テメェ! 俺とやろうってのか!?」


「はぁ? 何言ってんの? お前となんか喧嘩するわけねーだろ? オレは騒がしくて、みっともない真似をするクラスメイトを注意しただけだよ。一応オレ、学級委員長だからな」


 ハヤタは顔を顰めて窘めている。

 以前は悪ノリして火に油を注いでいたのに、奴も随分と落ち着いたものだ。


「チッ!」


 好敵手ライバル視していた奴の冷めた態度に、アルドは舌打ちして離れて行った。


 周囲、特に女子達から「ハヤタくん、超クールゥ!」とか「前より素敵かも~!」と囁く声が聞かれている。

 モテぶりは相変わらずのようだ。別にどうでもいい。


 ハヤタは無言で離れて行く。何故かポケットからウェアラブル端末を取り出し、何かを打っていた。


 ピッ


 俺の左手首に巻かれる腕時計型のウェアラブル端末が鳴った。

 さりげなく唇を近づける。


「……どうした、ホタル?」


000トリプルゼロ-11イレブンからメッセージが届いてイマス』


「ん? トリプル? イレブン? なんだそれ? 新しいコンビニか?」


『失礼、マスターを影で支える工作員スパイデス。先日オーナーより、既に知られている一部の者について情報を解禁しても良いとお達しがありマシタ』


 なんだって? 俺を支える工作員だと?

 てことは、シズ先生や桜夢みたいなポジか……そういや、密かに俺を監視して、イリーナにチクっている奴もいるんだよな(半ギレ)!


「んで、そのイレブンって奴は誰よ?」


『ハヤタ・セバスキーデス』


「はぁ?」


 俺は顔を上げ、ハヤタに視線を向ける。

 奴は自分席に座り他の女子に囲まれながら、何度もこちらをチラ見していた。


「……んで、何だって?」


『イエス――昼食、一緒に食わね? 勿論こっそりでいいからよぉ~。デス』


 昼食の誘いか? ハヤタが? この俺に?

 なんだろ……あれから奴に気に入られ好かれてしまっているのか?

 

 う~ん、どうしょうかな。

 ハヤタあいつもろ目立つキャラだし、万一誰かに見られたら面倒くさそうだ。


 しかし初めて同級生の男子に誘われたのも事実だ。そこは素直に嬉しい。

 まぁ、俺もハヤタのことを見直した部分もあるし……別にいいか。


「わかった。じゃあ、昼休みになったら芸能科の教室ってことで……あそこなら他の生徒は近づかないからな」


『COPY。そのように返信いたします』


 

 ホタルが俺からのメッセージを送信した途端、ハヤタは自分のウェアラブル端末を眺め「うしっ!」とガッツポーズしている。


 う、嬉しいの? 俺が了承したことが?

 なんだろ……男同士だってのに、こっちが照れてしまう。



 間もなくして担任の教師が入ってきた。

 制服を着た、二人の男女が後ろについて来ている。


 あれが噂の転校生か?


「既に周知されているかと思うが、今日から同じクラスメイトになる二人だ。各々、自己紹介するように」


 担任教師の指示で、二人の男女は教卓の前に立った」


「ソフィ・ローレライ。フランス人です。皆さん、よろしくね」


 ソフィという女子から真っ先に名乗ってきた。

 小柄で華奢な女子で、パッと見は年下と見間違えるほど、幼く可愛らしい顔立ちをしている。セミロングのブラウン髪で、ぱっちりと大きな碧瞳が印象的だ。


「加賀 キリヤです。日本人です。どうかよろしく……」


 キリヤという男子の方は、すらりとした背が高く痩せている。顔はまぁ整っているほうだと思う。長めの黒髪に、黒縁眼鏡を掛けている。そのレンズ越しには、瞼を閉じているのかと疑うほどの細長い双眸を覗かせていた。

 どこか暗く見え、なんか俺とキャラが被っているように見えてしまう。


「二人共、地球から上がってきた生徒であり、専修科目は操縦訓練科を選択している。皆も知っての通り、現在の国連宇宙軍は有為の人材が必要であり――」


 それから担任教師の長ったらしい説明が終わった直後、ホームルームが終わる。

 おかげで、アルド達も可愛い系のソフィを前にはしゃぐにはしゃげない状況だった。



 午前の授業が終わり、昼休み。


 転校生のソフィは、桜夢が学園内を案内することになった。

 同じ地球上がりであり、女子ということらしい。


 同じ転校生であるキリヤは、何故かアルドとユッケが案内することを買って出る。

 基本、見知らぬ男子生徒を親切心で関わることのない連中がどういう風の吹き回しだろうか?



「――きっと、カッズの後釜で取り入れようとしてんじゃね?」


 芸能科の教室にて。

 俺はハヤタと合流し、一緒に昼食を食べていた。


 そんなハヤタの言葉に、俺は首を傾げる。


「加賀君のことかい? 彼を取り入れてどうすんの?」


「弐織も知ってるだろ? あいつら最近ぎくしゃくしてんだよ。原因はカッズが死んじまったことだろうな。アルドも一緒にいた仲間が死んだってのに、オレが引きこもったこともあってか、開き直ってしばらくイキってたろ? それでアルドも周囲から反感を受けているんだ」


「それで、セシリアと桜夢に頻繁に誘っていたのか? 人気のある二人が来れば、自分の立場も少しは見直してもらえるって感じで?」


「……だろうぜ。素直に仲間の死を悲しみ、頭の一つも下げればいいのにな。まぁ、オレも少し前まで、弐織からそう見られていたんだろうな……悪かったな」


「何もハヤタ君が俺に謝ることは……別に何かされたわけでもないから、気にしないでくれ」


 俺も正直、最初の頃はハヤタも同じ穴のムジナだと思っていたからな。

 寧ろこっちが謝りたいよ……(笑)



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