第31話 教官と白熱のAG杯
まさかクラスメイトの学年カースト一位と二位である、ハヤタとアルドが組んで『AG
それで一緒につるんで祭りに来ていたってわけか。
にしても意外だな……。
「そうか、ハヤタ達もか。学年成績優秀の二人が組むってことは優勝を目指しているということか?」
「まぁね。個人戦よりタッグマッチ戦の方が結構な賞金も出るみたいだし、出場するからにはってやつだよ。まぁ、アルドが足を引っ張らなければ優勝いけるんじゃね?」
「んだとぉ、オメェこそ俺の足を引っ張るんじゃねーぞ、コラァ!」
アルドは相変わらずシャドウボクシングをして、ハヤタを威嚇している。
仲が悪いのは普段通りのようだ。
「だからレクシー
なんだ、こいつ? 俺じゃ力不足だと言いたいのか?
あんな見た目だけの臆病野郎のキーレンスと比較されるのは癪だけど、こっちも最初っから本気出すつもりなんて微塵もないから、どうか好きに言ってくれ。
「そうかな? まぁ私達も余興で参加するつもりだからな。優勝は別かもしれん」
レクシーは控え目に答える。
彼女の目的は、俺が"サンダルフォン"のパイロットなのか。その正体を見極めることにある。
言葉通り、優勝を目指しているわけじゃない。
「んじゃ、俺らが優勝で間違いないわな~、ハヤタよぉ!」
アルドはニヤつきながら、俺の方をじっと見つめてくる。
大方、俺がレクシーの足を引っ張ると思っているんだろうぜ。
「やめろよ、アルド! 執事さんに失礼だろ!」
「おお、悪い。すんません……なんかアンタ、俺らのクラスにいる陰キャぼっちくんに雰囲気が似てたんで、つい」
「アルちゃんよぉ。弐織なんかと比べるなんて、それこそ執事さんに失礼じゃね?」
「言えてるわ~、もう謝罪動画レベルっすわ~! それでも炎上しちゃいますぅってよ~、ギャハハハ!」
アルドに続き取り巻きっぽいユッケとガッズまで、この場にいないと思っている俺を罵り嘲笑っている。
おまけにハヤタは口にこそ出さないが、俺をチラ見しながらニヤついてやがるし、他の女子達もくすくすと笑っている始末だ。
こいつらが普段、俺のことどう思っているのかよくわかったぞ。
もうムカつきすぎて涙すら出ないわ。
「それじゃ、レクシー姐さん。オレ達、先にエントリー会場で待ってるぜ」
「ああ、ハヤタ。先に行っててくれ」
ハヤタとアルド達は俺達の前から去って行く。
レクシーと俺はそいつらの背中を見送る形となっていた。
が、
ぎゅっ
「え!?」
思わず声を張り上げてしまう。
隣に立つレクシーが、いきなり俺の手を力強く握りしめたからだ。
「レ、レクシー先輩?」
「……弐織、絶対に優勝を目指すぞ! 共にあいつらの鼻を明かしてやろう!」
実は鋭い眼光で連中の背後を睨んでいた、レクシー。
やたらメラメラした闘志を感じてしまう。
まさか……俺のために怒ってくれているのか?
あのレクシー・ガルシアが?
間もなくして、俺とレクシーはコミュニティドームへ向かった。
そこにAG
出場のエントリー簿にはホタルに頼み嘘の名前と経歴を登録後、男女別の更衣室で模擬戦用の操縦士服ことアストロスーツに着替える。
更衣室には他の選手達に紛れて、既にハヤタとアルドもいる。何かイキりながらダベっていた。
絶対に正体を知られたくない俺は、隅っこでこっそりと着替える。
日頃から気配を消すことに長けた陰キャぼっちキャラを貫いていたこともあり、連中に気づかれることはなかった。
それから控え室で着替え終えたレクシーと合流する。
「準備を終えたか、弐織……って、何故ヘルメットを着用したままサングラスを付けているのだ? しかもバイザーまで
絶対に正体がバレたくないフル装備の俺に、アストロスーツに身を包んだレクシーが首を傾げる。
「これはそのぅ……なんて言うかぁ」
「まぁ、キミは普段から目立ちたくないよう、あえて身を潜めているようだからな……それともヘルメス社からそう指示を受けているのか?」
ぐぅ。半分くらい、こちらの事情がバレてる。
けど一番は目立つことでストレスを抱えたくないのが本当だけどな。
しかしなんて読みの鋭さだ。
学徒兵とはいえ、優秀なパイロットならではか……。
そうか、だからか……ハヤタ達の前でも、レクシーが俺を庇ってくれたのは。
でもそれって、俺が"サンダルフォン"のパイロットだと既に確信を得られてしまっていることに繋がる。
クソッ、どうする?
しばらく順番が来るまで、俺達は控室で待機した。
そして順番が回り、俺とレクシーはそれぞれ用意された模擬戦用の"エクシア"に乗り込んだ。
お祭り用の機体もあってか、どれもカラフルで目立つ配色が施されていた。
模擬戦のルールは以前触れられた通りだ。
射撃系の武器は使わず、
また勝敗を決めるのは、フェンシングのように制限時間内に相手の機体に武器が触れることでセンサー感知するポイント制か、頭部に一撃を入れることで戦闘不能にさせるかのどちらかだ。
ちなみにコックピットを狙ったら反則負けとなる。
そして今年度から二対二のタッグマッチ戦が種目として導入されたってわけだ。
危険が及ばないよう特殊ガラスで覆われた観客席に大勢の見物客がいる。
また浮遊型カメラにてリモート中継されているようだ。
俺達が搭乗する二機の
「……さぁて、どう戦うべきか」
そう俺が考えていた矢先――
『勝負あり! 勝者、ガルシアチーム!』
なんか知らないけど、あっさり勝ってしまった。
レクシー機が、二機の"エクシア"の頭部を刎ねて瞬殺したのだ。
「レ、レクシー先輩?」
『――言ったろ、優勝を目指すと』
いや確かに言ったけどさぁ。
俺の正体を見極める話どうなってんの?
それから破竹の勢いで勝利を収めていく、俺達。
気がつけば、決勝戦まで勝ち上がっていた。
ほとんど、レクシー先輩が単機で活躍しているんだけどね。
そして決勝戦の相手は案の定――
『やっぱ、レクシー姐さんが最後の相手か……思った通りだぜ!』
『けどよぉ、ハヤタ。レクシー教官しか戦ってねーじゃん。あの執事、何もしてねーぞ』
ハヤタとアルドのコンビだ。
奴らが乗る二機の"エクシア"から無線の声が入ってきた。
通常、互いの作戦が知られないように回線の
対戦者の俺を煽るためのわざとなのか、ただチャンネルを変え忘れているアホなのかは不明だ。
『大方、数合わせか。その辺の連中なら、姐さん一人でも十分ってやつだ』
『な~るほどね。だが俺ら第102期生が誇る上位組ならそうはいかねぇっすよぉ!』
ムカつくが、アルドの言う通りだ。
いくら教え子の間柄とはいえ、この二人が相手では流石のレクシーも分が悪い。
なんだかんだ、カースト上位の腕前は確かだ。
『これより決勝戦を行います――ファイト!』
司会アナウンスの号令と共に試合が始まった。
これまでと同様、レクシー機が
しかしハヤタ機は半歩後方に下がり
『やっぱりな姐さん! そうくると思ったぜ!』
ハヤタの奴、これまでの試合を見て、彼女の攻撃を読んでいたようだ。
すかさず、アルド機が割って入るように突進し、レクシー機の頭部を目掛けて攻撃を仕掛ける。
『狙い通りっすよ~、教官ッ!』
実戦だとテンパって足を引っ張るばかりの連中だが、成績が良いのは伊達じゃない。
いやに連携が取れている。
それにこいつらの狙いは最初からレクシー機のみだ。
大方、レクシーさえ押さえれば、俺などどうにでもなると高を括っているのだろう。
最初から、そういう人をナメた思考を持つ奴らなのはわかっていたが……。
どうする?
このままレクシーを見捨てるか?
俺の脳が活性化され、走馬灯の如く思考が急速に回転する。
フロー状態となり、ほんの瞬きする間の出来事で時間感覚が歪み無我の境地に陥った。
――弐織、絶対に優勝を目指すぞ!
共にあいつらの鼻を明かしてやろう!
脳裡にフラッシュバックしてくる、レクシーが言ってくれた言葉。
彼女は俺のために戦ってくれている。
目的はどうあれ、俺の尊厳を尊重してくれていることに変わりない。
なのに俺は、いつも自分のことばかり……。
ヘルメス社の……イリーナとの約束もあり、俺が"サンダルフォン"のパイロットだとバレるわけにはいかない。
だけど俺は……俺は、
「――レクシーを見捨てることはできない!」
操縦桿のグリップを強く握りしめ、全開にアクセルペダルを踏んだ。
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