第30話 セフィロト祭と浴衣
宇宙
娯楽施設や商業施設、自然公園や美術館、さらにコミュニティドームやコンベンションセンターなどが点在し、セフィロト全体で開催されるイベントは大抵この地区で行われることが多い。
そして『セフィロト祭』とは、毎年
住民達は
形式も順路に応じて出店屋台がびっしりと並び、どちらかと言えば日本形式に近いかもしれない。
したがって若い女子の間では浴衣を着て祭りを楽しむのが流行しているようだ。
また国連宇宙軍のゼピュロス艦隊が主催しているだけあり、屋台やイベントスタッフの大半は正規の軍人がボランティアとして運営を担っている。
全ては市民貢献の一環らしい。
しかし、このオープニングセレモニーが果たして市民貢献なのか。
それとも提督独自の趣向、あるいは自己満足なのかは定かではない。
『イェ~~~ッ、アレ~~~ッ、カーニバルゥゥゥ♪ ヘェェェイッ!!』
開放されたパブリックスペースにて、豪華絢爛なパレードが行われていた。
歌舞伎役者のような化粧をして、ど派手なカーニバル衣装を纏う高齢期の男性がセンターに立ち踊り歌っている。
七色に光るカラフルなタキシードを纏い、その臀部には鮮やかな鳥の羽を取り付け、腰を振る度に靡かせていた。
ゼピュロス艦隊の総司令官であり、大のお祭り男で有名な『マッケン提督』である。
マッケン提督の周りには、彼と似たような恰好をした男女がバックダンサーとして踊っていた。
その中に主力戦艦"ミカエル"の最年少艦長こと、『古鷹 セシリア』大佐がいたのは言うまでもない。
(う、うう~っ、胃が痛いよぉ、恥ずかしいよぉ、死にたいよ~~~! もうお嫁に行けないよ~~~! どうかカムイくんにだけは見られませんように~~~!)
鮮やかで華やかなカーニバル衣装に身を包む、セシリア。
露出度が高く、その若々しい抜群のスタイルの良さが浮き彫りとなり際立っている。
特に踊る度に揺れに揺れまくる豊満な胸部辺りは、この衣装を制作した者の嫌がらせかセクハラとしか言いようがない。
そんな晒しものにされているセシリアの近くに、副艦長の「オリバー・マーティン」も必死の形相で踊っている。
生真面目な彼は上官命令に従い全力で舞っている様子だ。
(……セシリア、恥ずかしいと思うと余計に恥ずかしいぞ!)
兄目線か、それとも片想い故か。
オリバーは時折セシリアの方をチラ見しながら、そう念じるしか術を持たない。
『――アレだよ、カーニバルゥゥゥゥゥッ!! オレイッ!!!』
最後はマッケン提督のドヤ顔の決めポーズでオープニングセレモニーは終了した。
ちなみにこの後、街頭パレードを含めて10曲ほどあるらしい。
(もう~、何が「オレイ」よぉ! うう、カムイくん、どうか見ないでぇぇぇ……もしどこかで見ているんなら、こんなあたしを殺して~~~ッ!!!)
最早、セシリアとて自暴自棄にならないとやってられなかった。
彼女達のような正規軍人、特に幹部クラスにとって「セフィロト祭」は生き地獄イベントなのかもしれない。
**********
俺は指定された広場で、レクシーが来るのを待っていた。
今日は休日なので学生服ではなく私服姿だ。
っと言っても特に飾り気のない長袖シャツにジーンズである。
また知った顔の連中に会った時の対策として、普段の伊達眼鏡の他にキャップ付きの帽子を被っていた。
さらに念のため、サングラスとマスクを所持している。
間もなくして、レクシーがやって来た。
だけど、あれ?
あれってレクシー先輩だよな?
「弐織、待たせたな」
「い、いえ……レクシー先輩、浴衣ですか?」
思わぬ彼女の服装に驚き聞いてしまった。
意外にも浴衣姿で登場した、レクシー・ガルシア。
青い花柄の鮮やかな浴衣を綺麗に着こなしている。
さらに黄金色の絹髪を後ろで結っており、色っぽくうなじが覗かせている。
普段の騎士道精神が溢れる麗人とは違う、お淑やかで和風な美少女。
「ああ、せっかくの祭りだからな。弐織は日本人だから良いかなっと思ったのだが……そのぅ、変か?」
「いえ、とても似合っています、はい」
「そうか、それは良かった……では行こうか」
「はい」
こうして俺はレクシーと二人並んで屋台へと向かった。
しかしながら、なんだこの展開?
俺達、確か『AG
どうしてレクシーは着飾ってんの?
なんかこれって……もろ。
――デートじゃね?
にしても、レクシー先輩……凄ぇ綺麗だな。
美人だと思っていたけど、普段と印象が全然違う。
ガチで浴衣が似合っている。
こうして歩いているだけで胸がドキドキしてきた。
「……考えてみれば初めてかもな」
「何がです?」
「キミとこうして二人きりで歩くことだよ」
やめてくれよ、そういう言い方。
なんか照れてしまう……頭が、脳が熱くなりそうだ。
一応、飲み薬も持参しているけど……でも、これはストレスじゃないよな。
「そ、そうですね……そのぅ、ハヤタ君やキーレンス教官とは?」
「ん? ああ、彼らか……付き合いで食事くらいかな。プライベートで会うことは、ほぼない」
そ、そうなのか……まぁ傍で見ていても、そんな雰囲気だけどな。
隙がないんだ、レクシーは。
普段から女騎士みたいに凛として常に高い志と強い意志を持っている。
だから男女問わず敬われファンが多い。
ん? 待てよ……。
じゃ、今の俺とはどうなんだ?
まさかレクシーも、同じ年頃の男子と二人っきりで歩くのって初めてなのか?
うっ! やばいぞ――
俺は本能的に伊達眼鏡を外し、サングラスを取り出して掛け直した。
照れもあったが、それだけじゃない。
卓越した俺の第六感とも言える「直観力」がそう囁いたからだ。
「――レクシー
やっぱりな、ハヤタだ。
クラスメイトの女子達と祭りに来てやがる。
相変わらずのモテ男ぶりのリア充様ってか。
「チィース、レクシー教官ッ!」
げぇっ! おまけにアルド率いる三バカトリオもいやがった。
だが普段はお互い仲悪い癖になんで一緒にいるんだ?
陽キャ同士だからつるんでいるのか?
まぁ、別にどうでもいいけど……。
「やぁ、ハヤタ。それにヴァロガーキ」
「アルドでいいっす。教官も祭りっすか? 浴衣似合っているっす」
「ああ、ありがとう……見ての通りだ」
浴衣に関しては同意だな。
流石のアルドも教官であるレクシーを口説くようなバカな真似はしない様子だ。
「姐さん。そこの人、誰?」
ハヤタは俺の方に視線を向けて聞いている。
あ、危ねぇ~! 帽子とサングラスしていて正解だった!
しかし問題はレクシーだ。彼女がうっかり口を滑らしたらバレてしまう。
「……この彼はガルシア家に仕える執事だ。ボディーガードとしてついて来てもらっている」
そう紹介され、俺は無言で頭だけを下げて見せる。
よ、よかった……なんか知らないけど上手く誤魔化してくれているぞ。
考えてみれば彼女だって、俺なんかと一緒にいることを知られて周囲から変な誤解を受けたくないだろうしな。
レクシーの説明に、ハヤタとアルド達は「ふ~ん」と鼻を鳴らし納得した。
う、うむ。一応は誰も俺だと気づいてないようだ。
このサングラスが功を奏したのか、さも護衛のボディガードっぽく見えているのだろうか。あるいは日頃から影が薄い存在なだけか。
どちらにせよ連中もまさか、クラスの陰キャぼっちの俺が誰もが憧れるレクシー先輩と二人で歩いているとは思わないだろう。
「良かったら、レクシー教官も俺らと一緒にどうっすか?」
いきなりアルドが図々しい提案をしてきた。
嫌だ! 断固として断る!
レクシーは隣に立つ俺の顔をチラっと見る。
「すまない。私達はこれから行くところがあってな」
「どこ行くの姐さん?」
ハヤタが聞いてくる。
「AG
「そこの執事さんも?」
「ああそうだ……彼も軍人ではないが
まぁ確かに俺って正規の
けど"サンダルフォン"に搭乗した際は、「特務大尉(中佐並みの発言権を得る)」扱いになるけどね。
「キーレンス先輩は?」
「知らん。そういえば声を掛けられた記憶もあるが……彼のことは忘れてしまった」
レクシーってば案外、興味のない相手には杜撰なんだな。
彼女に気があるキーレンスが可哀想に思えてきた。
「そうなんだ奇遇だねぇ、姐さん」
「どういう意味だ、ハヤタ?」
「だって、オレも『AG
な、なんだってぇ!?
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