第29話 ご立腹の社長と新装備
無窮の
虚空の世界。
超大型のセラフ級主力戦艦"ミカエル"に連結された『ゼピュロス艦隊』の裏側で、漆黒の愛機である
まるで意識のない俺をコックピットに乗せたまま、宇宙に放り投げられたかのようだ。
いや、きっとそうだろう。
そして俺を罠にはめた主犯格は、メインモニターのウィンドウに浮かび映し出されている、真っ白な美少女。
「――イリーナ。これはどういうことだ? 説明を求む」
『これから新兵器と新機能のテストを行うわ』
モニター越しで、鋭く吊り上がった目つきで俺を凝視してくる。
明らかに不機嫌であり、ご立腹な様子だ。
しかし、こっちだって言いたいことは山ほどあるぞ。
「そういうことを聞いているんじゃない。何故、俺は"サンダルフォン"に乗せられている? シズ先生はどうしたと聞いているんだ」
『私がシズに指示したのよ。カムイ、貴方を拉致するようにね』
「いや、いつもどおり普通に呼び出せよ。拉致される意味がわからん」
『カムイが悪いんだからね! あんな「ガルシア家」に心を惑わされるなんて!』
「ガルシア家? レクシー先輩のことを言っているのか?」
『そうよ! しかもデートの約束までしていたじゃない!』
なんで知ってんの、こいつ。
つーかデートじゃないし。
そんな頬を膨らませて怒られてもなぁ。
「誤解だ。俺はただ今度の休日に開催される『セフィロト祭』の『AG
『鈍い男……それをデートだと言うんですぅ!』
つまりこれは俺への当てつけの嫌がらせじゃないか?
ったくイリーナの奴、何をイラついてんだ?
「別にイリーナが思っているようなことじゃない。俺の正体がバレそうだった上で仕方なくだ……逆に無碍に断るとかえって怪しまれるだろ? それに、わざわざシズ先生を使って拉致される覚えもないからな。俺はイリーナを裏切らない、ずっと傍にいる」
俺は強めの口調で窘めてみる。
途端、イリーナは頬を染めて、「んぐっ……」と口を一文字にして閉ざした。
なんとなくだが俺の主張が理解してくれたように感じる。
今でこそ、『美少女敏腕社長』と『雇われ極秘パイロット』の関係だけど、それ以前は兄妹として共に過ごした間柄でもあるからな。
周囲から「悪役令嬢」と言われているし実際に我儘なお姫様だけど、本当は思いやりがあって寂しがり屋の性格なのは誰よりも知っているつもりだ。
恩人であるヴィクトルさんとの約束もあるし、俺はイリーナを守ると誓っている。
そのイリーナは頬を染め、上半身をもじもじとくねらせて見せる。
しかし、どこか不満そうに唇を尖らせていた。
『……そ、そうね。私も少し大人げなかったわ。ただカムイ、これだけは覚えて頂戴。今後、不用意にガルシア家には近づかないこと、いいわね!』
あくまでイリーナはレクシーを毛嫌いしている様子だ。
「ガルシア家ね……確かスターリナ家とは母方の親戚で、キミの親父さんとは険悪の間柄だったと聞く。けどレクシー先輩はいい人だと思うぞ。パイロットとしても素質も高いし見込みもある」
最初から偏見を持たずに俺に接してくれたからな。
大体、家柄で人を遠ざけたり偏見を持つのは好きじゃない。
ましてや俺の交友関係まで意見されるなんてまっぴらだ。
……交友関係か。
自分で思っておいて滑稽だ。
ぼっちの俺なんかに?
けど悪い気はしない……。
なんて言うか、お互い認め合えるというか。
レクシーだけじゃなく、桜夢やセシリアも共通する部分があると思う。
そういや、俺……普段から彼女達のことどう思っているんだ?
『……そうね。悪かったわ、ごめんなさい』
俺の意図を察したのか急にしおらしくなる、イリーナ。
わがままお嬢様のようで、俺のために案外色々と考えてくれる良いところもある。
だから俺も義理立てながらも彼女の傍にいるのだと思う。
「わかってくれたならいいよ。仲直りしよう」
『ええ……(カムイを拉致して気も晴れたし、ずっと傍にいてくれると言ってくれたし……物事には引き際も肝心よ、フフフ)』
彼女の本心は定かじゃないが、なんとか鞘に納めることができたようだ。
俺は気を取り直して任務に集中することにする。
アストロスーツを纏っているおかげで、脳の状態はナノマシン調整でばっちり安定だ。
「――それで、イリーナ。新兵器と新機能のテストだっけ? 了解した。どんなモノか教えてほしい」
『ホタル、説明を』
『イエス、オーナー。まずは《ミラージュ・エフェクト》デス』
「ミラージュ・エフェクト?」
『射出させマス――』
ホタルは言うと、"サンダルフォン"は自動で右腕を掲げた。
前腕部のギミックが作動し、装甲の一部がスライドされると共に10体の機器が射出される。
何か小型の鉄球みたいな形状だが、実際は人間の半分ほどのサイズだ。
鉄球は回転しながら蒼白く発光し、瞬く間に"サンダルフォン"を模した立体的な
しかもホタルの意志なのか、それぞれ独立した動きを見せた。
まるで『分身の術』のようで、忍者になった気分だ。
「随分とリアルな動きをする……あの光、
『イエス、マスター。射出された
「なるほど……攪乱だけじゃなく地雷のような攻撃として使えるわけか。ドッグファイトに有利だな。それで他には?」
『《
「リミッター解除だと? なんか危なそうだな……一時的ってどれくらいの間なんだ?」
『機体のコンディションにもよりマス。最長で5分間程度デス。タイムリミット・カウントは、その都度ワタシが表示いたしマス』
少なくても機体が破損することはないってことか。
どうやら疑似的に暴走させ、機動性を大幅に向上させるシステムのようだ。
「"サンダルフォン"の限界を知るいい機会だ。やってみよう」
『今は不可能デス。外部装甲を
「60秒か……戦闘時だと長いな。おまけに装甲を捨てるとなると『諸刃の剣』ってところか。覚えておこう」
こうして新兵器と新機能のテストが終わった。
特に《ヴァイロン・システム》に関しては
これなら、わざわざ"サンダルフォン"に乗らなくても別に良かったんじゃね?
そう思ったが、せっかく機嫌が戻ったイリーナの手前、俺から口に出すことはなかった。
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《設定資料》
〇ミラージュ・エフェクト(Mirage Effect)
両腕部に搭載された計10機の
射出された幻影はそれぞれ異なった動きを見せることが可能(幻影を操作するのはAIのホタル)であり、
また
〇ヴァイロン・システム(VAIRON SYSTEM)
機体のリミッター解除システム。
サンダルフォンに搭載された
但し外部装甲を切り離し軽装させた状態でないと発動することができない。
また使用時間は最長で約5分間、使用後は60秒間の強制冷却モードとなり、機体を動かすことができない。事実上の「切り札」であり「諸刃の剣」と言える。
由来:ヴァイローチャナ(Vairocana)は、インドを起源とする仏の名で、日本名を
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