第105話 許しのBBQ大会
あれからクラスメイト達が次々とやって来る。
「よぉ、星月に古鷹艦長!」
「ハヤタくん、こんにちは」
「ようやく名前を覚えたわ、ハヤタ・セバスキーくん。誘ってくれてありがとね~」
「いや。忙しい中、わざわざ来てくれて嬉しいっす」
「ねぇ、カムイくんはぁ?」
「弐織なら、そこで肉焼いているっすよ。
ハヤタが指を差した場所に、俺は立っていた。
BBQコンロの前で、色々な食材を焼き調理している。
そんな俺の左右には、アルドとユッケも同じように別のコンロで肉を焼いていた。
「弐織……どうしてアルド君とユッケが一緒に調理しているんだ?」
クラスメイトのマックが近づき聞いてきた。
三バカトリオ時代、こいつらが俺を小バカにしていたことは、クラス中が知っていることだからな。
それを含めての孤立化と言える。
だからマックだけでなく、他のみんなにとって不思議な光景に見えてしまうのかもしれない。
けど、もういいだろう……。
「ん? ああ、二人共、今までのことで色々反省しているみたいだよ。僕に謝りながら、みんなのために何かしたいって言うから……こうして一緒にね」
「ふ~ん。弐織が許しているんならいいんじゃないか? けど、やっぱり弐織はいい奴だな。ガチで見方変わったわ……そういう意味じゃ、俺もアルド君達と同じだったと思う。ごめんな……」
何を思ったのか、マックが頭を下げてくる。
「おいおい、勘弁してよぉ。どうしてキミが謝るんだい? いいから、ほら肉食べてくれ。炭火焼だから美味しいよ~!」
俺は普段見せることのない陽気な声で、マックに焼いた物を皿に盛って手渡した。
彼は「ああ、ありがとう」と笑顔になり、他の輪へと入っていく。
しかし、なんで俺が気を遣うんだろう……次第にそう思えてしまう。
「……弐織
アルドは小声でチラ見しながら聞いてくる。
「やめてくれよ、『さん』付けなんて。頼むから普通に呼んでくれ」
「けど、俺ら舎弟だし……なぁ、ユッケ」
「そうっす。弐織さん、実は鬼強っす」
「あれは言葉の綾というか、勢いで言っただけだし……もう気にしないでよ」
この二人には、このBBQ大会の間だけでも俺と行動を共にするよう条件をつけた。
そうすることで、さっきのマックのように「弐織と分かち合った」という構図を演出したかったからだ。
今まで散々陰口を言われ小バカにされ続けていた俺がこいつらを許したんだ。
だからみんなも許してやってくれ……そう意味合いを込めて。
そして共に裏方に回ることで、クラスのみんなからの見方や評価も変わるだろうと思った。
マックの様子から、今のところは順調のようだ。
って、あれ?
確かこのBBQ大会って、俺のリフレッシュが目的だよな?
なんか違わね? まぁどうでもいいや。意外と調理楽しいし……変に気を遣われるより、こっちの方が性に合っている。
「とにかくだ。アルド君とユッケ君も、さっきのことは秘密にしておいてくれよ。僕とはクラスメイトとして普通に接してくれればいい」
「ハヤタは? あいつも見てたっすよ」
「だからユッケ君、敬語はやめてくれ。彼はいいよ、口が硬いからね」
今じゃ、もろヘルメス社に雇われた工作員だし。
最近じゃ、イリーナに評価され時給上がったらしい。
それに男子で唯一身の上を話せる間柄だからな。
「……そっか、弐織さん、いや弐織は実は裏でハヤタもシメてたんだな。どうりで、あのプライドの塊野郎がやたら親しげに気を遣っていると思ったら……ようやく理解したよ」
アルドの奴、俺を裏番長扱いし始めている。
確かにさっきは少々本気を出した部分は認めよう。
しかし俺もヘルメス社から戦闘訓練を受けているとは口が裂けても言えない。
「とにかくだ。今日は僕と一緒に、みんなを招く気持ちで奉仕してもらうからな。それでこれまでの件は全てチャラだ。いいな?」
「うぃす、弐織くん」
「あのよぉ、弐織……」
「なんだよ、アルド君。まだ何かあるのか?」
「俺のことは呼び捨てでいいよ……そのぅ。今まで悪かったよ、ごめん」
「……了解。ほらアルド、早く裏返さないと、せっかくの肉が焦げちゃうぞ」
俺は無愛想に頷き指摘した。
アルドは「うわぁ、いけねぇ!」とテンションを上げて自分の作業に専念する。
そんなおどける姿を見て、俺は表情を緩めた。
ふとヴィクトルさんの言葉を思い出しながら――。
『――カムイ君、人間はどうしょうもない生き物だよ。立場が悪くなると、すぐ自分の保身に入るし、場合によっては親や恋人だろうと平気で裏切る。非情で酷い存在だと思わないかね?』
『は、はぁ……(人間不信か、この真っ白な爺さん。てか10歳の俺に言われてもな)』
『だが中にはそうでない人間がいる。誰かを守るため、時には自分の命を投げ出しても大義を成し得ようとする勇敢なる者……光と闇の表裏一体。実に不安定で面白い。その不安定さが、私は好きなんだ』
『ごめんなさい、ヴィクトルさん。子供の僕には何を言っているのかわかりません……』
『フフフ、ごめんよ。だからね、カムイ君。人間は少し見方を変えるだけで、多様な存在として見ることができるのだよ。しかし人間は個であるが、集団性こそ人間の本質だ。それら不安定な力の集まりこそが、これまで社会を築き文化を繁栄させる極みとなっている……歌や音楽、絵画などの芸術もその一環と言えよう。たとえ個は脆弱だろうと集まれし力は、いずれ「超越者」さえ凌ぐ無限の可能性を秘めていると言ってもいいだろう』
結局ヴィクトルさんは何を言いたかったのか、今となっても俺にはわからない。
彼の正体が “アダム
その上で、人類側の味方となった動機を俺に話してくれたのか。
だから俺もヴィクトルさんの真似事をするつもりで、アルドとユッケを別の角度で見ることにしたんだ。
これから共に
細かいことを気にすんなよって感じ。
「カムイく~ん、癒して~」
などと考えていたら、早速セシリアが癒しを求めてきた。
後ろで桜夢が呆れながら微笑を浮かべている。
「やぁ、セシリア。癒せるかわからないけど、肉なら焼いてあげるよ」
「えへへへ、じゃあ貰おうかな~。楽しそうだね、カムイくん」
「ん? まぁね……裏方やっていた方が性に合っているのかな?」
「そぉ? キミなら表舞台でも……いや、なんでもない(これ以上、カムイくんが目立ってライバル増えても嫌だしね)」
セシリアは俺から皿を受け取り、「美味しそう!」と喜んでいる。
何か言いたそうだったけど、まぁいいだろう。
「桜夢……いや星月さんはお肉どうだい?」
「ごめんね、わたしはこれから色々あって……社長にも言われているし」
「イリーナ?」
桜夢は口と閉ざして頷きつつ、チラっと肉を頬張るセシリアの背中を見つめている。
そういや、この後から宇宙アイドル『
さらにイリーナは、セシリアに対して何かしようと目論んでいるらしい。
きっと桜夢の様子から、その見張り役として一緒にいるよう指示を受けたのだろう。
彼女も親友のソフィそっちのけで使われて可哀想に……。
そういや、そのイリーナの姿は見えないな?
リズやシャオもいないようだ。まだ来てないだけか。
「カムイくん。セシリアさんじゃないけど、とてもいい感じだね」
桜夢は俺の隣で作業している、アルドとユッケに視線を向けた。
二人は照れくさそうに、彼女に向けて軽く頭を下げて見せている。
少し前まで、彼女を見るなりはしゃいでいたのに、こいつらもすっかり落ち着いたようだ。
「ありがとう。色々あってね……これから
「うん、ありがと。えへへへ」
優しい笑みを浮かべる、桜夢。
アルド達の前だから深い話はできないけど、AGパイロットと宇宙アイドルを兼務して成立させている、彼女の努力は大したものだ。
などと、ちょっぴりいい雰囲気を醸し出している中、
「――ちょっと、ハヤタ! お姉様は見ませんでした!?」
レクシーの妹であり、グノーシス社の社長代行であるチェルシーが何やら騒いでいる。
後ろにはAG開発研究者のジョージ・コバタケもいた。
つーかマジで来たのか、あの二人……ハヤタの人脈結構ヤバくね?
「レクシー姐さんっすか? いやぁ、オレは見てないっすよ」
「可笑しいですわ……さっきまで一緒だったのに、急に誰かに呼び出されたみたいで……ご自身の端末を眺めながら血相を変えて何処かへ行ってしまわれたの。シャオさんもいらっしゃいませんわ」
なんだって? レクシーがいなくなった?
一体誰に呼び出されたってんだ?
しかしチェルシーもどういうわけか、同じ中等部のシャオを気に入っているらしい。
「……それはそうと、ハヤタ君。ついに限定発売の“デュナミスJBカスタム”も、ようやく手に入れましたよ、ハイ」
「マジっすか、博士ッ! 凄ぇ!」
モデラー仲間であるコバタケのおっさんとハヤタがはしゃいでいる。
年齢を超えた実に妙な交友関係だ……どうでもいいけど(笑)。
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