第104話 優しき復讐
最新型のAG“カマエルヴァイス”の専属パイロットとして、レクシーが担うことになった。
それは彼女もヘルメス社の工作員として雇われたことを意味する。
なんでも「
シズ先生や桜夢、それにハヤタみたいに影で俺を支えるのが主な任務らしいけど。
イリーナが後ろ盾するとはいえ、レクシーは正規パイロットでもあるからな。
他のパイロット達と上手くいってないようだし、どうなることやら……。
「それとレクシー。“カマエルヴァイス”は貴女に預けるけど、《
イリーナは首を傾げながら聞いている。
「ああ、さっき長門先生が言ってくれた通りだろ? ホタル殿がいなければ単独で扱うのは危険すぎるシステムだとな。よく身に染みて理解したつもりだ」
「ええ、その通りよ。まぁ今回の戦闘でデータが取れたから、近いうちになんとかしてみせるわ」
「わかった自粛しよう。それとカムイに星月、こんな私だがどうかよろしく頼む」
レクシーはこちらに視線を向けて柔らかく微笑む。
「勿論です、レクシー先輩。俺は嬉しいですよ……」
これから一緒に戦えると思うと特にね。
勿論、頼ってばかりもいられない。
俺自身も万全にベストの状態で戦えるようにならないと……そのための支援機だ。
「わたしの方こそです。今回共に戦えて良かったです」
桜夢も堂々と笑顔を浮かべている。
彼女も自分専用機と言ってもいいくらい、強力な最新鋭の
「私もだよ、星月。キミもすっかり自分の戦闘スタイルを確立して……大したモノだ」
「そんなことは……レクシー少尉こそ」
うむ、美少女同士が互いの実力を認め合い労わる姿は絵になる。
俺もつい顔がにやけてしまう。別に変な意味はないのだけど……。
今回の出撃を休んだことで、ヘルメス社だけじゃなくゼピュロス艦隊全体のレベルが上がっていることを理解した。
正直、肩の荷が軽くなった気がしてならない。
ここまでお膳立てしてくれた、イリーナには心から感謝している。
っと思ったけど、
「フフフ……後は古鷹艦長ね。これで手駒が全て揃うわ。もうあの『プロジェクト』で、マッケン提督に負ける要素はないわ」
独り狡猾な笑みを浮かべる、イリーナ社長。
小声で呟いたようだが、聴力の良い俺にはばっちり聞こえたぞ。
セシリアをどうするつもりだ? あの『プロジェクト』ってなんだ?
マッケン提督に負ける要素はないって……来月の『セフィロト文化祭』のことか?
どうやら、また何か意図し企んでいるようだ。
ぶっちゃけ嫌な予感しかしない。
最も頼もしい味方の筈なのに、いつも黒幕っぽい美少女だけに――。
週末の休日。
コロニー船“セフィロト”の
ここは山林と緑化地区、人工湖など海水浴が楽しめる大規模な自然公園だ。
普段は
個人で来る分には特に許可は不要だが、団体で行く際は予め申請が必要だ。
特に脱衣場が必要とする海水浴や火を取り扱う
今回は不幸にも海水浴はNGとなってしまったが、BBQの方は許可が下りたらしい。
まだ誰も来ていない昼前。
俺は言い出しっぺの幹事こと、ハヤタを手伝うため指定された見晴らしの良い人口の河原で、数台のBBQコンロを用意し火越しをしていた。
「弐織、火越し上手いなぁ……一体何者だよぉ?」
ハヤタは俺の手際に感服していた。
今の時代では色々な便利グッズや機材があるけど、やはり肉はオーソドックスで焼くのが一番だ。網に乗せて炭で焼くから美味いという拘りがある。
「親父に教わったんだ。幼少まで地球で育ったからな……」
「え? ガチで!? 宇宙船民じゃなかったのか?」
「……親父は宇宙輸送船の船長だったんだ。その親父に連れられる形で、よく
「へ~え、そっか……人には色々と複雑な事情があるんだな」
ハヤタは頷きながら別のコンロで慣れない手際で、火を起こそうと奮闘している。
俺はフッと柔らかく微笑み、彼の手伝いをした。
まさか俺がハヤタに自分の身の上を話すほど気を許してしまうとはな……少し前なら想像もつかない。
今じゃ学園でも俺達がこうして親身に話しても、クラスのみんなは別に違和感を抱かず普通に接し気さくに話し掛けてくれる。
――もう俺は陰キャぼっちじゃない。
かと言ってリア充になったつもりはないが、みんなの自然体が嬉しく感じている。
だからみんなと向き合えるように、少しだけ前に進んで見方を変えるようにしたんだ。
こんな俺が、ここまでクラスに馴染めるようになったんだ……だったら、あいつらとだって……。
俺はチラッと川辺の方を見る。
アルドとユッケの二人が、周囲から背を向ける形でぼーっと川を眺めている。
ハヤタが嫌がる連中を半ば強引で連れてきてくれのはいいが、すっかり蚊帳の外だ。
元三バカトリオのカッズが戦死し、アルドとユッケの間でぎくしゃくするようになってから奴らの歯車が狂い始めた。
アルドもその時点で仲間を失ったことを悲しみ、ユッケと二人で立て直す努力をすれば、まだ良かったかもしれない。
だが奴はそれを怠り、ハヤタが引き籠ったことをいい事に調子に乗りすぎて周りから不評を買ってしまった。
そして、地球から来た
ユッケもとっくの前にアルドに愛想を尽かしているようだが、新しく別の誰かとつるむ気もないらしい。
はっきり言って自業自得だ。救いようがないと思う。
そもそも連中には、これまで散々小バカにされストレスの原因にもなっていたんだ。
今更なんだよという気持ちも当然あるが、俺達は
確かに人間性を疑う部分はあるが、それを言うなら「クラスの連中なんて……」とやさぐれていた俺だってそうだし、大抵の奴なんてそういう部分は多かれ少なかれ持っている。
アルドは調子に乗りすぎた――だったら、そこを反省させればいい。
友達だったカッズの死を無駄にせず、
なので、これは哀れみでも優しさでもないぞ。
こんな俺が変われたんだ。
だったらテメーらも変われよ。
いつまでも、ウジウジしている奴を見るは好きじゃないんだ。
俺は孤島のように切り離されたアルドとユッケに近づいた。
ちょっぴり緊張するが、こんなの戦場に比べれば屁でもない。
――まずは俺がこいつらを許す。だから、みんなも許してやってくれ。
俺は心の中でそう念じ、息を強く吸い込み深呼吸をした。
「おい、アルドにユッケ。みんなが来る前に、お前らも火起こし手伝えよ。どうせ暇だろ?」
俺は伊達眼鏡を外し素の口調で言い放つ。
アルドとユッケは意外な人物の襲来に、瞳を丸くし「はぁ?」と口を大きく開けた。
「に、弐織……なんだよ、急によぉ?」
「なんで……なんで俺らがそんなことしなきゃいけないんだよぉ!」
案の定。安っぽいプライドが邪魔して拒否する、アルドとユッケ。
その反応に、俺は「チッ」と舌打ちをする。
「お前ら今じゃ孤立してWぼっちだろ? これまで俺を散々小バカにしてきた礼もある。復讐にコキ使ってやるから、こっちに来いって言ってんだよ」
「ア、 アルちゃん……こいつ、本当に弐織か? 急にキャラ変わってんぞ?」
「立場が逆転したからイキってんのか!? 言っとくが俺らは、お前に従うほど落ちぶれちゃいねーんだよぉ!」
「少しは落ちぶれたって自覚してんじゃねぇか。なら、今ここで俺と勝負しろ。一発でも殴れたら、俺はお前らの舎弟になってやる。但し負けたら、お前らが俺の舎弟だからな」
俺は羽織っていた上着を脱ぎすて、拳をバキバキと鳴らして見せる。
さも戦闘準備万端だと演出した。
アルドとユッケは俺の勢いにびびったのか、後退りしようとするも背後はすぐ川辺なので逃げるに逃げられない。
「うっ、うぐぅ! に、弐織テメェ!」
「来いよ、アルド・ヴァロガーキ。カースト二位の実力見せてみろ」
「うぅ、うるせぇぇぇ、弐織がぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁぁ!!!」
アルドとユッケの二人は、ほぼ同時に俺に殴り掛かってきた。
「フッ、そうこなくちゃな」
俺は口角を吊り上げ、迫り来る二つの拳を両手であっさりと受け止める。
素早く親指を掴み、腕全体を捻りながら二人の間を潜り背後に回った。
「なっ!? 」
「嘘ッ!?」
アルドとユッケは驚愕し戦慄する。
気がつけば背後から片腕全体の関節を極められる形となったからだ。
俺が腕を掴んだまま加重を与え、二人の背中を押して倒した。
土下座するかのように這いつくばる、アルドとユッケの姿は滑稽そのモノだと言える。
「い、痛でぇぇぇ! なんだよぉ、こいつぅ!?」
「ぎゃあ! つ、強ぇぇぇ!」
「はい、俺の勝ちーっ。今からお前らは、俺の舎弟だからな。火を越し手伝えよ」
これで今までのことはチャラにしてやるよ――。
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