第92話 ツルギ・ムラマサ捕獲作戦




『――っと、まぁ。《キシン・システム》そんな恐ろしい一面があり、“ツルギ・ムラマサ”1号機は実験中に自爆により大破した経緯があります。幸い、レディオ社長が地球で既に死刑寸前の犯罪者を司法取引で買収して、テストパイロットに仕立てた上での実験でしたから、グノーシス社は『事故』で割り切っていますけどね』


 コバタケはマッドサイエンティストらしく淡々とした早口で説明してくる。

 失敗を想定して死刑寸前の犯罪者をテストパイロットとして使う辺りは、如何にも合理的思考を持つ、レディオ・ガルシアらしいやり方だ。

 どの道、倫理に反しているけどな。


 コバタケは尚も話を続けた。


『本来なら、2号機に《キシン・システム》を搭載させる予定はなかったのですが……例の“サンダルフォン6号機”こと“シンギュラリティ”のおかげで、早急な対応が求められましてねぇ。今回の実験には使用はないと思っていたんですが……ヨハン中尉の身体を乗っ取った、“アダムFESMフェスム”のボケが勝手に封印した認証コードを解除したようですね……どうやら奴はヨハン中尉の記憶は継承されているようです、ハイ』


「コバタケのおっさん! 話、長げーよ! 今、戦闘中なんですけど! 空気読めよなぁ!」


 俺は長々とした解説を聞きながら、“ツルギ・ムラマサ”の猛撃を躱し、時には霊粒子刀剣セイバーブレードで弾いていく。

 その“ツルギ・ムラマサ”とて、左腕が破損され装甲の損傷も酷い筈なのに、一向にスピードとパワーが衰えることはない。より攻撃性が増しているような気がしてくる。


 まさに正気を失った、狂戦士バーサーカー状態だ。


『カムイ、一旦退け! 私が替わる!』


 待機していた、レクシーが乗る純白のAGアークギア“カマエルヴァイス”が飛び出してきた。

 彼女とは予め「俺がピンチになったら支援する」ように打ち合わせをしている。

 まだ戦えなくもないが、相手が相手だけに本気を出しきれないストレスを感じていた。


 レクシーが駆るAGアークギアは最新鋭の新型機だし、“サンダルフォン”の兄弟機だ。彼女の技量も加えて問題ないだろう。

 俺はそう判断し「お願いします!」と入れ替わる形で、“サンダルフォンMk-Ⅱ”

を後退させる。


 だがしかし、“ツルギ・ムラマサ”は異常だった。


 前に現れた“カマエルヴァイス”を無視し、飛び越える形でこちら側に斬り掛かってきたのだ。


『なんだと!?』


 レクシーが驚愕の声を荒げる。


『《キシン・システム》発動時は、予め設定した任務に沿った最適解で行動を起こします。おそらく今の“ツルギ・ムラマサ”は“サンダルフォンMk-Ⅱ”を斃すことのみで戦っているのでしょう。したがって他のAGアークギアには見向きもしません。ガン無視です、ハイ』


 コバタケがしれっと言ってきた。


「ハイじゃないよ、おっさん! だったら自動操縦ってことなのか!? パイロットはどんな状態なんだよ!?」


『いいえ、自動ではありません。AGアークギアを動かすのは、あくまでパイロットなので、きっとアダムFESMフェスムはシステムに取り込まれた状態ですね、ハイ。これぞ、ミイラ取りがミイラになったってところでしょうか?』


 悪いがちっとも上手くない。つーか、酷くムカつくシステムだ。

 これだからイリーナに「マッド」と言われるんだ。


「だったら、どうやったらこいつを止められる!? システム止める方法はないのか!?」


『リミッターはパイロット自身です。一度、システムに取り込まれてしまったのなら、抜け出すのは容易ではありません……いっそキルしちゃうか、燃料切れを待つしかないでしょうねぇ、ハイ』


 一度、発動したら外部からシステムを止める手立てはないようだ。


 ならば――。


「俺で、こいつ自体を止めてやる! レクシー先輩ッ!」


『了解した!』


 俺は“ツルギ・ムラマサ”が攻撃する寸前を見極め、操縦する“サンダルフォンMk-Ⅱ”を突撃させた。


 迫り来る実体刀剣リアル・ブレードの斬撃を重装盾シールドを翳して右腕ごと防ぎ、“ツルギ・ムラマサ”を抑え込んだ。


 その隙に“カマエルヴァイス”が高速に疾走し、背部ユニットの推力噴射装置スラスターを目掛けて、パイルバンカーを打ち出して破壊した。


「よし! 離れてください――」


 俺の掛け声で、“サンダルフォンMk-Ⅱ”と“カマエルヴァイス”は高機動力を活かし、その場から後退する。


 “ツルギ・ムラマサ”が孤立したのを見越して、“サンダルフォンMk-Ⅱ”は霊粒子小銃エーテルライフルを構えた。


「ホタル! 擲弾発射器グレネードランチャー切り替えシフト!」


『COPY!』


 霊粒子小銃エーテルライフルの銃身下部に装着した、擲弾発射器グレネードランチャーから、単発の霊粒子擲弾グレネードが発射される。


 “ツルギ・ムラマサ”の右肩部に接触し爆破した。

 右腕部は実体刀剣リアル・ブレードごと破壊され、機体ごと吹き飛ばされていく。


「――桜夢、トドメを頼む!」


『了解しました!』


 遠くで狙い撃つため、ずっと待機していた支援機“ガルガリン”の機首ヘッド部分の霊粒子破壊砲台エーテルブラスト・キャノンから、超高出力を宿したエネルギーが放出された。



 ドォォォウ――ッ!



 見事“ツルギ・ムラマサ”の両脚部に触れ、桁外れの熱量により瞬く間に溶解した。

 威力も凄まじいが、桜夢の狙撃センスは抜群だ。いや、より磨かれ精度が増したような感じもする。


 俺達の連携攻撃により、コックピットを含む胴体部分だけとなった“ツルギ・ムラマサ”。

 完全に身動きが取れない状態となり、ようやく制圧すること成功した。


「このまま“ツルギ・ムラマサ”を確保してミッション完了とする!」


『COPY。お疲れ様デス、マスター。それに皆サンも』


『見事な作戦だったぞ、カムイ。それに星月も成長したな』


『いえ、レクシー教官。わたしとしては、“プリンシパリティ”の方が色々な意味で勉強になましたけど……ねっ、カムイくん』


「ん? ああ、まぁ、そうだな……桜夢」


 確かに良かったな。複座型、最高だと思ったわ。


『なんだ? 地味にムカっとするのだが……まぁ、いい。しかし、この“カマエルヴァイス”は実にいい機体だ。このまま譲ってくれないだろうか……』


「あくまでイリーナ次第ですけど、どうですかね……早いとこ、“ツルギ・ムラマサ”を捕獲して終わりにしましょう」


 正直、疲れた。特に脳が……早く帰りたい。


 “サンダルフォンMk-Ⅱ”と“カマエルヴァイス”のマニピュレーターが胴体部分をがっしりと抑え込む。

 この状態では流石に抵抗できないこともあり、すっかり沈黙している。


 逆に不気味すぎるくらいだ。


「……しかし、ヨハン中尉……いや、もう別人なのか? とにかくパイロットは生きているだろうな?」


『イエス、“ツルギ・ムラマサ”のコックピット内で生命反応を感じマス。気を失っている模様デス』


「《キシン・システム》の反作用ってか? “カマエルヴァイス”に密かに搭載された《KABRAカブラシステム》といい……最近のAGアークギア開発は、機体だけじゃなくパイロットを強化する方向で進んでいる感じだ」


 まるで、俺自身の量産化を目指している気分で複雑だ。

 いくらFESMフェスムの侵攻が過激になってきているとはいえ……。




 戦艦“ミカエル”に増設された格納庫ハンガーに帰還した、俺達は各々の機体から降りて、ある光景を目の当たりにしていた。


 丁度、回収された“ツルギ・ムラマサ”の胴体部分のコックピット・ハッチが開かれている現場であった。


 近くには、イリーナを初め、チェルシーやコバタケのおっさんにハヤタ、そして立体映像のレディオが一緒に眺めている。

 さらに携わる整備員達から、屈強なボディーガードの「アギョウ」と「ウギョウ」に至るまで、全員が自動小銃ライフルを構え、“ツルギ・ムラマサ”に向けて銃口を向けていた。


 とても厳重で重々しい雰囲気だった。


 そして「アギョウ」と「ウギョウ」の二人はコックピット内に入り、操縦席からアストロスーツ姿の男性を担いで連れてくる。


 ヨハン中尉、いや“アダムFESMフェスム”と呼ぶべきか。


 ヘルメットを被っていることもあり、シルエット上は普通の人間と変わらない。

 どうやら本当に気を失っている様子で、用意された担架に乗せられていた。


「――そいつのヘルメットを外して頂戴」


 イリーナが離れた場所から指示を下している。


 アギョウは頷き、丁寧な動作で男のヘルメットを外していく。

 俺達にとっては未知と言える存在に、周囲の緊張が一気に高まっていく。


 が、


 あれ?


『おい、どういうことだ? ヨハン副教官……いや中尉の顔……皮膚から髪の毛に掛けて……』


 俺は専用のヘルメット被った状態で、その晒された素顔を見て驚愕する。

 きっと事情の知らない誰もが戦慄したことだろう。


『――イリーナみたいに真っ白じゃないか?』



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