第37話 悪天使ベリアル戦・異質
どうやら敵を見くびっていたのは俺の方だったようだ。
そして初めて戦慄を抱いている。
“ベリアル”という新種の
まさか俺が……“サンダルフォン”がここまで追い詰められるとは――
「ホタル! 例のシステムを使うぞ! ヴァイロン――うおっ!」
すかさず“ベリアル”が斬り込んでくる。
機体を後退させ、なんとか回避することができた。
ドゥッ!
「ぐぅ! クソォッ!」
また口っぽい砲台から放射された《
咄嗟に補助噴射のバーニアを吹かしたことで辛うじて直撃は免れてが、胸部の装甲に損傷を受けてしまった。
『
「なんだと! 仕方ない、このまま戦ってやるよぉ!」
俺は機体を立て直し、
当然、防御されるのは想定した上であり、実際に両腕の
しかし、
ふわっと風船のように、“ベリアル”は吹き飛んだ。
てっきり鍔迫り合いかと思ったのだが……。
「……あれ? なんだ、こいつ? やたら軽いぞ……そうか!」
見つけたぞ、こいつの弱点ッ!
“ベリアル”の戦い方は超高速機動による、ヒット&アウェイ。
あくまで、つかず離れずの戦法だ。
だからインファイトは得意じゃない。
スピードがバカ速い分、パワーは非力なんだ。
「そうとわかれば!」
俺はアクセルペダルを吹き込み、“ベリアル”に向けて突進した。
このままパワーで押し切り突貫してやろういう算段だ。
“サンダルフォン”も突進力なら“ベリアル”と互角だからな。
今度はこっちが離れず戦ってやる!
“ベリアル”は口から再び、《
その攻撃はもう見切っている! ナメるなよ!
――斬ッ!
ついに“サンダルフォン”が繰り出した
ようやく一撃を食らわせてやったぞ!
「もらった――」
『マスター、イケマセン! もう残りエネルギーがわずかデス!』
ビーッという
別のサブモニターで表示されるエネルギーパラメーターを確認すると、既に燃料が底を尽きかけている。
「クソォッ!
でなくても他の機体よりハイパワーを誇る
その分の燃料消費率も半端ない。
だからこそ普段から
それが“ベリアル”に破壊されたことで、機体内の燃料が一気に消費してしまったらしい。
せっかく打開策を見出して追い詰めたって時に……。
対して右腕を斬り落とされ見た目上では相当な深手を負っている“ベリアル”。
その断面は肉腫で覆われているも生物のように出血など見られない。
また
だが、そこは
いくら窮地に立たされようと、奴らが恐れることはない。
深手を負うも体勢を立て直して、“サンダルフォン”に突撃してきた。
「ぐぅ! こうなりゃカウンターだ! たとえ刺し違えても、奴の『
これ以上、こいつを野放しにするわけにはいかない。
俺はAGパイロットとしての決意を持って挑むことにした。
――しかし同時にある想いが過る。
イリーナのこと、レクシーのこと、セシリアのこと、シズ先生に、そして桜夢――。
なんだ……どうした? ここに来て何故、彼女達を想う?
俺は恐れているのか……死を。
刹那
『――“サンダルフォン”のパイロット! 直ちに後退しなさい!』
女性の声が響いた。
そして、
ドォォォォォォォォォ――……
目の前に超高密度の
その質量は戦艦級が撃った《
“ベリアル”は直撃する寸前で得意の運動性を持って翻し、後方へと退避する。
『マスター! 生きてくだサイ!』
ホタルの声で、俺はハッと完全に目が覚めた。
「――ミラージュ・エフェクト!」
“サンダルフォン”の腕部から、球体状の
球体は“サンダルフォン”の立体像と作り上げ、“ベリアル”に突進するよう演出した。
“ベリアル”は反射的に残された左腕で、それを斬り込んだ瞬間だ。
ドウッ!
攻撃を与えた“ベリアル”の左腕ごと破壊し損傷を与えた。
仕留めきれないも、半壊に近い大ダメージだ。
ギィィィイオォォォォォォォッ!!!
“ベリアル”は咆哮を上げた。
まるで金切り声のように鼓膜に突き刺さる異音。
俺でさえ、
すると背後の空間が歪み、そこから青紫色が混合したホワイトホールが発生する。
“ベリアル”は白い渦潮のような
その姿が消えたと思った瞬間、ホワイトホールは閉じられ虚無の真空状態に戻った。
「に、逃げたのか……いや逃げてくれたと言うのが正解か」
俺は燃料の残量を確認しながら呟いた。
ほんの僅かに残っている程度。
きっと30秒動けばよい方だろうか。
なんとか自力で帰還くらいはできるだろう。
「……ホタル、ありがとう。おかげで命を落とさずに済んだ」
『イエス、マイ・マスター。マスターの生存こそが、ワタシが存在する意義デス』
成長型の人工知能を持つとはいえ、いつも俺のことを最優先してくれる信頼できるパートナーだ。
この
それと、もう一人感謝しなければならない子がいる。
コンソールのキーボードを押し、メインモニターのウィンドウズが開く。
俺は悠然と映るその姿を確認した。
――主力戦艦“ミカエル”。
あの響いてきた女性の声といい……“ベリアル”に向けて放った《
通常は最後方で待機している主力戦艦をわざわざ前進させて撃ってくれたのだ。
つまり、セシリア艦長の采配による支援攻撃だった。
「セシリアか……彼女も不思議な子だよな。いつも俺に対して妙な癒しを求めてくれけど、気のいいとても優しい子だ」
今度ご飯くらい誘ってみるか。
――こうして、なんとか生き残ることがきた。
他の部隊が全ての敵
それだけ見れば無事に任務達成なのだが、実際はそうでもない。
あまりにも被害が大きかった。
特にゼピュロス艦隊は新型機
40機中、35機が全て“ベリアル”1体に墜とされたのだ。
しかも全員が艦隊を誇るエースパイロット達。
その中に、「
皆いいパイロットだったのに……クソ。
だが彼らが身を挺してくれたことで、戦艦が無傷だったのは幸いだった。
「――お疲れ様、カムイ」
戦艦"ミカエル"に帰還後、専用の
すっかりボロボロになってしまった愛機、“サンダルフォン”のコックピットから降りた俺に対して、イリーナが声を掛けてくれた。
社長である彼女自らがここに来るのは非常に珍しいことだ。
軍需産業のトップに立つ敏腕経営者の癖に、機械やオイルの臭いとか嫌っている部分があったりする。
見慣れぬ姿に整備兵達もびびってしまい、皆が立ち止まり作業に当たるか躊躇していた。
「……ああ、イリーナ。すまない、“サンダルフォン”を壊してしまって」
「別にいいわ。
相変わらずツンとした物言いだが、微かに赤い瞳が潤んでいる。
イリーナなりに俺のことを心配してくれたようだ。
だからわざわざ来てくれたのか……。
「ありがとう。次は負けないよ」
「そうね。貴方の
如何にも社長らしいドライで前向きな捉え方だ。
けど俺としては笑えない。
また近いうち復活した“ベリアル”と再戦する時が必ず来るだろう。
その時こそ、ロート少佐とパイロット達の仇を取ってやる!
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《設定資料》
〇ベリアル
新種のFESM。人型に近い形状をしており、背に白く大きな両翼を持つ。
他のFESMよりも圧倒する機動性と運動性に特化し、ヒット&アウェイである超高速機動戦闘を得意とする。
反面、パワーは極めて非力であり、インファイトが苦手らしい。
今回の戦闘後、国連宇宙軍より正式に
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