第51話 戦闘中の違和感




『本艦はこれより絶対防衛宙域に入ります。ホワイトホールより出現したFESMフェスムは、およそ300体の群体タイプ。既に地球圏へと侵攻を始めています――“サンダルフォン”は先陣を務め敵の出鼻を挫いて下さい。AGアークギア部隊と合流を見計らい撤退をお願いします』


 愛機、“サンダルフォン”の操縦席コックピット中。


 俺は既にスタンバイを完了している。現在はサブモニターに映し出されている、セシリア艦長の指示を聞いていた。

 前回やり取りした時と同様、艦橋ブリッジからは俺の姿や声がわからないよう処理されている。


 太陽系に展開された『絶対防衛宙域』を抜けてしまうと、そのまま地球圏に雪崩れ込まれてしまう。

 それだけは断固として阻止しなければならない。

 絶対防衛宙域を死守こそが国連宇宙軍の存在意義であり、ゼピュロス艦隊の使命である。


「了解した艦長。こちらも余裕があれば共に戦おう、その方が被害も最小に食い止められるだろ?」


『はい……助かります。それと、あのぅ』


「なんだ?」


『い、いえ……それでは御健闘を祈ります!』


 モニター越しでセシリアは綺麗な敬礼を見せ通信を切った。

 艦長モードに入っている彼女は、普段学園では見られない毅然さが見受けられる。

 まぁ、あのノリで艦隊を指揮されたら大変なことになるからな……最後は素に戻りかけたように見えるが。


「ホタル、出撃準備に入る」


COPYコピー――"サンダルフォン"機動シーケンス、オールクリア。これよりカタパルトへ移動シマス』


 同時に格納庫ハンガーが動き、射出機カタパルトデッキに機体が運ばれた。

 後は艦長の許可次第で、単機出撃となる。


『マスター、オーナーから通信がありマス』


「繋げてくれ。イリーナ、どうした?」


『忠告よ。やることやったら、《ヴァイロン・システム》でとっとと帰還しなさい』


「どうして急かす?」


『シズに言われているでしょ? 脳内物質に変化が見られるって……感覚も以前より研ぎ澄まされた反面、それだけ負担が強いられる筈よ。きっと今の"サンダルフォン"じゃ、貴方の反応コマンドについていけないでしょうね』


「確かに“ベリアル”戦でもそれ・ ・を感じたな……わかったよ。ホタルと相談しながら引き際としよう。けど任務は全うする。ヘルメス社の看板に泥を塗るような真似はしない……イリーナに迷惑をかけないからな」


『……迷惑じゃないわ。寧ろカムイを失う方が余程……』


 彼女は瞳を反らして首を横に振るう。


「イリーナ?」


『なんもない。頑張りなさい、私のエースパイロット』


 プチッと通信が切られる。


 なんだか様子が変だな……あっ、いつも変か。

 頭が良すぎて何を考えているのか読めない子だ。


 私のエースパイロットか……悪くない。


『マスター、出撃許可が下りマシタ』


「よし! “サンダルフォン”出るぞ!」


 点滅された出撃ランプのゼロカウントと同時に機体は射出される。

 デッキ内の風景が急速に後方へと流れ、澄んだ闇へと放り出された。


 六枚の両翼を高々と広げる漆黒のAGアークギア、“サンダルフォン”は背部の霊粒子推進機関エーテルエンジンのスラスターから鮮やかに散りばめる蒼白い粒子を噴射させ、さらに加速していく。


「ホタル、監視船の観測データをハッキングして敵の位置を割り出してくれ。セオリー通り、出会い頭で《レギオン・アタック》を食らわせる」


『COPY。FESMフェスムとの距離、約250km。およそ3分後の遭遇となりマス。座標ポイント、配置マップにデータ転送――』


 俺はホタルの報告に耳を傾けながらアクセルペダルを踏み込み、さらに機体を加速させる。


 視界いっぱいに流れていく星々。だが真空の世界では星は瞬かない。光の粒として幾万も広がり、そこに存在する。


 だからある程度近づけば、目視からでもFESMフェスムを確認できる。

 問題は距離感だが、ホタルのデータと俺の直観力に空間認識力が合わされば問題ない。

 斥候や索敵も容易であった。


『マスター、あと5秒で敵との遭遇ポイントに差し掛かりマス』


「了解、《レギオン・アタック》GO――」


 俺はタイミングを見計らい、操縦桿のトリガーを引いた。


 両肩部の補助可動肢サブアームに取り付けられた双翼が大きく開かれ、40基のドリル状に模られた小型ミサイル弾が発射される。



 ドドドドドゥ――……!!!



 全基の突撃型誘導ミサイルは侵攻するFESMフェスムを追い確実に着弾する。

 回転しながら体内に侵入し、爆破と共に『星幽魂アストラル』を破壊した。


『全弾命中――ALERTアラート! 爆発に紛れ、2体のFESMフェスムが高速に急接近して来マス!』


「ん? この感じ……爵位FESM級ロイヤルか!?」


 俺は危険察知能力を発揮し、後方に回避する。


 刹那



 ――ギュン!



 蒼白く輝く二つの流星が“サンダルフォン”の左右を通り過ぎた。


「うおっ、危ねぇ! 後退しなかったら、もろ直撃を受けていたぞ! にしても早い! 俺の動体視力を持っても、ほぼ残像しか見えなかった……まさか、また“ベリアル”か!?」


 しかも2体だよな……流石にあんなのを2体も相手にするのはやばいぞ。


『イイエ、違いマス。爵位FESM級ロイヤル堕天使グレゴリルではありますが――二体とも“マルファス”デス』


「“マルファス”? カミカゼか……」


 堕天使グレゴリルとして識別される、“マルファス”というFESMフェスム

 見た目は戦闘機、また軟骨魚類の「マンタ」に似た形をしている。

 但し胸ビレが真っ白な両翼となっており、羽ばたくように宙域を高速に移動できた。


 おそらく直線状の推進力なら、“ベリアル”と互角の速さではないだろうか。

 身体の前方側に位置し左右に分かれた、「頭鰭とうき」を彷彿させる器官の中心部から口のような空洞が開かれ、そこから霊粒子破壊砲エーテルブラストを放つことができる。また霊粒子刀剣ソードブレードを出現させ、スピアーのように目標へと突撃することが可能だ。


 その特攻するような戦いぶりから、AGパイロット達の間で嘗て日本の特攻隊「カミカゼ」と皮肉を込められつつ、同時に恐れていた。



『“マルファス”2体、互いに連動しながら“サンダルフォン”の周辺を大きく旋回しておりマス。おそらく自分達に注意を引き付けさせ、他のFESMフェスムに侵攻させようとしているのかと予想されマス』


「珍しく仲間意識というか、連携しているのか? 仲間を隠れ蓑にしていた“ベリアル”とは違うってわけか……」


『“サンダルフォン”の機動力なら、強引に突破することも可能。こちらもAGアークギア隊と合流し共闘することができマスが、如何いたしまショウ?』


「いや寧ろ逆だな。わざわざ“サンダルフォン”を引き付けているってことは、それ以上の敵は現れないってことだ。通常のFESMフェスムなら正規パイロット達で問題ないだろう。数も相当減らしているからな――俺達で二体の“マルファス”を撃破する!」


『COPY。全てマイ・マスターの意志のままに』


 忠実なホタルは俺の判断に委ねた。



 途端、旋回を繰り返していた“マルファス”の1体が軌道を変え、こちらに突進してくる。


 槍状スピアーに変化させた霊粒子刀剣ソードブレードを向けて特攻を仕掛けてきたのだ。


 俺は洗練された反射神経を駆使し、機体を操作し難なく回避した。


 が、


(ぐっ、なんだ……このズレたような重い感じ?)


 ふと機体操縦に違和感を覚える。

 以前は一心同体のように動かしていたのに何かが可笑しい。

 まるで、自分の意志からワンテンポ遅れたような操作感覚。


 そうだ……この感じ、“ベリアル”と戦った時と同じだ。

 


 ――俺の反応速度に“サンダルフォン”が追従できていないのか?






───────────────────


《設定資料》


〇マルファス


 爵位FESMロイヤル級のエース、『堕天使グレゴリル』に識別される外敵宇宙怪獣。

 戦闘機あるいは軟骨魚類のマンタに似た形状を持つ。

 前方に開かれた空洞から霊粒子破壊砲エーテルブラストを放射し、また霊粒子刀剣ソードブレードを出現させて突撃する習性がある。

 その突進力は超高速の域であり、突進力であれば“ベリアル”と互角のスピードとされる。

 AGパイロット達から「カミカゼ(神風)」と呼ばれ恐れられていた。



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