第99話 美しき乙女アナーヒターSP
イリーナ専用の待機室に招かれた、俺とシズ先生。
待機室とかいうから、狭い小屋っぽいイメージを勝手に浮かべていたが、そこはやはりヘルメス社の社長様だ。
やたら広々とした空間に、ぽつんと長いソファーが置いてあった。
壁の向こう側が特殊ガラスで覆われ、壮大な宇宙が広がっている。
「まずは座りましょう。カムイは真ん中だからね」
イリーナに進められ、俺とシズ先生は設置されたソファーに腰を降ろした。
うむ、身体が沈むほどのふかふかな
三人が座った直後、仮面をつけた赤毛のメイドが「失礼します」と入室してきた。
いつもの専属メイドだ。いつも置物かと思うくらい、やたら気配を消すのが上手い。
「さっそく、戦況を見せて頂戴」
「かしこまりました」
イリーナが指示をすると、仮面のメイドは手にしていた携帯端末を操作し始める。
すると、強化ガラス越しに各宙域の映像が立体的に映し出された。
「ここでは、ゼピュロス艦隊が防衛する全宙域状況をリアルタイムの中継として観ることができるわ」
まるで映画館さながらの光景だ。
「いつもイリーナは、こうして俺の戦闘を観ていたのか?」
「そうよ。ここで直接指示を送るだけじゃなく、貴方の体調や機体の状況なども全てわかるようにしているわ」
イリーナが説明すると、大画面から小枠のウインドウが開かれる。レクシーが搭乗する純白の
凄ぇな……けど、普段の当事者としては少し複雑だ……まぁ、彼女の立場じゃ当然か。
それに、ここならシズ先生もレクシーの状態を常に確認できるだろう。
「フフフ、いい場所ね。気に入ったわ……」
シズ先生は微笑みながら、やたら隣の俺に密着してくる。
しかも二の腕に豊満で柔らかい胸をぷにゅっと挟むように押し付けてきた。
おまけに、俺の耳元と首筋に彼女の吐息が生温かく心地よく当たっている。
背筋から、ぞくっとなんとも言えない感覚が襲う。
「ちょっ、シズ先生! 近すぎ! これだけ広いソファーなんだから、そんなにくっつく必要なくね!?」
「いいじゃない別に……こうしてカムイ君と密着する機会なんて、そうないんだもの。それにちゃんと医師としての仕事はするつもりよ。たまにはいいでしょ?」
「え、ええ……いや、恥ずかしいし困るよ……それに、みんなが戦っているのに不謹慎じゃね? なぁ、イリーナからも何とか言ってやってくれ」
俺は唯一シズ先生が言う事を聞きそうな社長に助けを求めた。
ふわっ
今度はイリーナが俺の身体に凭れ掛かってくる。
さらに彼女の頭は膝元へと乗せてきて、膝枕状態となった。
心地よい加重に、真っ白な絹髪と高質なシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
「イ、 イリーナ!?」
「今回は特別に私が許可したのよ……カムイがいけないんだからね。私の気持ちを無視して、勝手に乗船したんだから……これは戒めだと思って頂戴」
彼女は言いながら、睨むように俺を見上げてくる。
だけど真っ白な頬を耳元まで染めて、赤い瞳を潤ませていた。
大胆なことをする割には、やたらいじらしく可愛い表情。
そんな、無茶苦茶な……。
「いいわね、イリーナちゃん。それ、私もしたかったのに……後で交代してくれる?」
「駄目よ、シズ。ここは私の指定席よ。昔から嫌なことがある度にカムイに、こうして慰めてもらったんだから……懐かしい」
やめてくれ……もろ子供の頃の話じゃないか。
まさか一人で甘えるのが恥ずかしいから、痴女であるシズ先生を巻き込ませたんじゃないだろうな?
そのシズ先生もここぞとばかりに、俺の手を握って顔を摺り寄せてくる。
きめ細かな指先が絡み、おまけに大人の色気。
つい顔が熱くなり、頭がくらくらしてしまう。
まるで、鎖から解き放たれた美魔獣に見えてしまうのは俺だけだろうか。
ところで、どんな状況だよ、これ?
何かの罰を受けているのか、俺……にしては、ハーレム的な。
ホタルがいないから、今の自分がどうなっているのかわからない。
『――“カマエルヴァイス”、レクシー・ガルシア、出る!』
ヘルメス社専用の
今回のレクシーは相当意気込みと気合が入っているようだ。
けど、一方の俺がこんなハーレム状態だと知ったら、彼女はなんて思うだろうか?
「カムイ、よく見なさい――あれがサクラに与えた、ヘルメス社最新鋭の試作機、“アナーヒターSP”よ」
イリーナは腕を伸ばし、あるウインドウ画面に映し出された
真面目な口調の割には、随分と膝枕を満喫しているけどな。
俺は表情だけでも真剣にして、ウインドウ越しの機体に集中した。
「あ、あれが……
目にした機体は
全体が薄いピンク色のベビーピンクで統一されており、必要最低限にしか装甲が施されていない。それもあって、手足が細く胴体が小型に見えてしまう。
鮮やかな独特の流線形フォルムといい、非常に華奢でスマートな機体だ。
頭部には突出された額部分に二本のアンテナが備えられ、小さく吊り上がったデュアルアイが眩い輝きを放っている。
背部上段に2基のコンテナが装備され、背部下のリアスカート部分は盛り上がった形状となり昆虫の腹部を想起させた。
さらに脚部は2基の大型
そして機体の右腕部に専用と思われる、
こうして、どこか違和感を抱いてしまう
視点を変え
これが“アナーヒターSP”という
「見た目はああだけど、“カマエルヴァイス”と同様、“サンダルフォンMk-Ⅱ”の兄弟機よ。『妹』と言ってもいいかもね……華奢だけど、全体の装甲とフレームに『特殊強化軽装素材』を使用しているから、他の
イリーナは真面目な顔で説明してくれる。あくまで俺に膝枕をされた状態だけどな。
「確か重力下では、まともに立位は保てないんだよな?」
「そうね。でも宇宙空間なら関係ないでしょ? 基本装甲を最低限にしているのは、他の外付けパーツやユニットを増設して兵装しやすいように汎用性を持たせるためよ。ある意味、他の2機よりポテンシャルは抜群に高い
「そんな凄い新型機を、桜夢に……彼女、大丈夫なのか?」
「今のサクラなら問題ないわ。寧ろ、あの子と相性はいい機体よ。前回の“プリンシパリティ”や“ガルガリン”で、そう評価しているわ。宇宙アイドル女子としては不器用だけど、
イリーナの慧眼はヴィクトルさん譲りで抜群だからな。
俺も“プリンシパリティ”で同乗した際はそう思ったし、実際に桜夢に助けられた。
『――“アナーヒターSP”、星月 桜夢、行きます!』
出撃カウントがゼロになり、彼女が駆る“アナーヒターSP”が華麗に出撃した。
背部と両脚部の大型
あっという間に、レクシー機の“カマエルヴァイス”と並んだ。
なるほど……見た目よりハイパワーな機動力だ。
一方、モニターの別ウインドウでは、“ミカエル”本艦の
ん? あれは……。
複数の“デュナミス”が搭載さえ高速に飛行していく、エアバイクに視点を置く。
「……支援機の“ガルガリン”か? ついに量産化されたんだな?」
「ええ、とりあえず10機ほどね。あの機動性で戦艦並みの強力な火力だからね。量産しない手はないわ。早期にロールアウトできたのも、カムイが貴重な戦闘データを多く残してくれたおかげよ」
そうか……これまでの俺の働きは無駄じゃなかったようだ。
だけどさぁ。
「ウフフフ、カムイく~ん♡」
「シズ、あんまり揺らさないでよね。久しぶりに気分がいいんだから……ふぅん♡」
ごめんよ、二人とも……確かに男として凄く幸せな状況だと思う。
けどやっぱり、みんなが戦うって時に不謹慎だから、いい加減に離れてくれよぉ!
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《設定資料》
〇アナーヒターSP
型式番号:HXP-S002(SP)
平均全高:17,5m(頭部の双角、V型アンテナを除く)
平均重量:本体重量11,5t
全備重量:20t(外付けリアクターや装甲など取り除いた際、8,5t )
機体色:ベビーピンク(薄ピンク色)
“サンダルフォンMk-Ⅱ”を支援目的で造られた、“カマエルヴァイス”に続く2番目の
同じく装甲には『特殊強化軽装素材』を使用されており、基本フレームに必要最低限の装甲が施されているためか、見た目は他の
特に脚部は2基の大型
人型機動兵器としては若干機体バランスに不安を覚えるも、宇宙空間での機動性は高く各パーツを取り付け又増設することでプロトタイプとしては高い汎用性とポテンシャルを有した機体となっている。
またリアスカート部分に外付けの
H=ヘルメス社製
X=未知(どこにも属されていない)
P=プロトタイプ機
S=サンダルフォン兄弟機
002=2番目に製造
SP=狙撃仕様
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