第40話 訓練生の募兵とエースパイロット
「……辛いよぉ。知っている人達が死ぬのなんて……それを指揮するなんて……こんなのなら艦長なんて辞めたい……でも、この世界に逃げ場なんてどこにもあるわけじゃないし……えっく」
声を震わせ涙をぽろぽろと流している、セシリア。
相手は外敵宇宙怪獣の
人類にとって最大の敵だ。
もし『絶対防衛宙域』を抜けられてしまったら、連中は地球に降りて100年前みたいに地上の人間を滅亡させようと襲うだろう。
今度こそ徹底的に――
だからこそ、俺達は宇宙で『絶対防衛宙域』を死守しなければならない。
そのための国連宇宙軍なのだから。
セシリアは天才と呼ばれるだけあり艦長として才能に溢れている。
けど気持ちは普通で純粋な女の子だと思う。
それもあってクラスで陰キャぼっちの俺に優しくしてくれるのかもしれない。
だけど、俺は……。
「……
「……う、うん。そうだよね。わかっているんだぁ、カムイくん」
言いながら、セシリアは不意に俺の胸に飛び込んできた。
ふわっとした感触に包まれる。
女子の良い香りが鼻腔をくすぐった。
あまりにも唐突な出来事に、俺の全身が硬直してしまう。
「セ、セシリアさん!?」
「……お願い。少しでいいからこうしてもらっていい?」
「え? う、うん……わかったよ」
「それとね。あたしのことセシリアって呼んで……『さん』抜きで、ね?」
「う、うん……セシリア」
戸惑いながら返事をする。
密着する豊かな胸の感触と相俟って、セシリアの息使いと鼓動が身体越しに伝わってしまう。
や、やばい……やばいぞ、これ。
また頭がくらくらしてきた。
心臓がばくばくして破裂しそうだ。
この音……どうか彼女に聞かれませんように。
セシリアの両腕が背中に回される。
おかげでより密着度が増していく。
正直こういう場合どうしていいのかわからない。
と、とりあえず、頭を撫でてみるか。
艶のある絹髪の感触……柔らかくとても気持ちいいなぁ。
「嬉しい、カムイくん……やっぱ、癒されるよぉ。優しくしてくれてありがとね」
きゅん声でお礼を言ってくる、セシリア。
やめてくれ……ますます可笑しくなってしまう。
俺の脳が……脳が熱い。
もうオーバーヒート寸前だ。
こうして、しばらくセシリアに抱擁され、俺はようやく解放された。
「ありがとね、カムイく~ん! またね~!」
最後は元気に手を振って持ち場へと戻って行く、セシリア艦長。
気を取り戻してくれて良かったと言うべきか。
まぁその分、俺も色々な意味で、どっと疲れてしまったけどね。
けど彼女がいないと間違いなくゼピュロス艦隊は全滅してしまうからな。
そう、セシリアになら……。
俺は腕時計型のウェアラブル端末で、イリーナに連絡する。
『何?』
「イリーナ、頼みがある。次の戦いで“サンダルフォン”の出撃要請権をセシリア艦長に一任してほしいんだ」
『どうして?』
「前回のようなロスタイムを軽減したい……それにその方が戦死者の数も減少できるかもしれないし、セシリアだって少しは安心するだろ?」
『……そうね。どの道、あの“ベリアル”って
「ありがとう、イリーナ」
『それと、カムイ」
「ん?」
『……貴方、女の臭いがするわね。誰かとイチャコラしたでしょ?』
「はぁ!? んなことしてねーよ! だいたい通信越しでどうしてセシリアの臭いがわかるんだよ――ハッ!?」
しまった! 自分から墓穴掘っちまったぞ!
『……そういうことね。まぁ彼女ならいいわ』
「セ、セシリアならいいってどういう意味だよ?」
『秘密よ(日頃から飼い馴らしているあの女なら、私の手中でどうにでもなるって意味よ)』
「そ、そう?」
『あまり羽目を外さないことね。カムイの行動なんて直ぐにバレるんだから』
うっ、そういや常にどこかで監視スパイが潜入しているんだよな。
いくら“サンダルフォン”の専属パイロットだと知られないように隠すためとはいえ、俺のプライベートがまるでないのだが。
それにイリーナの奴……俺の正体よりも女子の交友関係に不満を抱いているような素振りを感じる。
気のせいか?
イリーナとの通信を切った後、俺は踵返し学生寮に戻ることにした。
“サンダルフォン”の状況は明日でも確認すればいい。
今日は色々なことがありすぎて疲れてしまった。
いやガチで……。
翌日。
コクマー学園の学園電子掲示板で、次の作戦に参加するAGパイロットの募兵が表示されていた。
学徒兵としてだが
尚、日頃から
そして応募者は本日の夕方に戦艦“ミカエル”に搭乗し出航すると記載されている。
にしても訓練生に新型とは……国連宇宙軍の上層部は気が確かだろうか。
「――オレは応募するぞ! ロート少佐達の仇を取ってやるんだ!」
ハヤタがいの一番に挙手した。
その潔い姿に周囲の女子から「キャーッ、ハヤタくん素敵ィ~ッ!」っと黄色い声援が飛び交う。
相変わらずのモテっぷりで癪に障るが、まぁ訓練生の中では腕は確だからな。
「ハヤタの野郎……カッコつけやがってぇ。お、俺もぉ! 俺も応募しまーす!」
アルドも目立つようにアピールしながら意思表明してきた。
気のせいか、両足が小刻みに震えてガクブルじゃないのか?
虚勢を張っているけどびびってんじゃねーの?
「ア、アルちゃん……大丈夫か?」
「流石に今回はやばくね?」
取り巻きのユッケとガッズがドン引きしながら聞いている。
普段は調子に乗った連中だがシャレになってないことを察したのだろう。
適切な判断だと言ってやりたい。
「んっ、んなことねーよ! そうだ、ユッケとガッズも応募しょーぜ! 三人でジェットストリーム・ア〇ック決めてやろうぜ、なぁ!?」
何よ、ジェットストリーム・ア〇ックって?
どっちにせよ、お前らできんのか?
「「う、うん……まぁ、いいけど」」
アルドの誘いに嫌々に了承するユッケとガッズ。
カラオケに行くとはわけが違うのだから無理にツルむ必要はないと思う。
他の生徒達も手上げする者もいれば、辞退する者もいる。
こればかりは任意だから個人の意志ってやつだ。
無論、俺は参加しない……っと言っても学徒兵としてだけどね。
そんな中だ――
「……わたし参加しようかな」
桜夢が意思表明してきた。
「お、おい!」
俺は思わず声を張り上げ、慌てて口を押さえた。
周囲が彼女に注目したからだ。
「星月……ガチかよ。いいぜ、一緒に戦おうぜ!」
「あ、ああ……星月ちゃんがいてくれりゃ、俺の力も百万倍よぉ!」
ハヤタは拳を握りしめながら歓迎を示し、アルドは得意のシャドウボクシングをして見せる。
だけど膝がガクブルなので動きに普段のキレがない。
「うん、頑張ろうね!」
桜夢は珍しく男共と同調している。
俺は伊達眼鏡の位置を指先で直しながら、彼女の横顔を見据えた。
ったく何を考えているんだ、桜夢は?
後で話を聞かないと……。
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