第87話 乗っ取られたAG
「な、なんだ、あれは……?」
俺はある異変に気づいた。
斃して分解されていく、“シャックス”の頭部辺りから別の小さな
丁度、人の頭部と同じくらいの大きさだろうか。
真っ白色で人間の脳髄を模したグロテスクな物体。
脳幹と思われる部分から、クラゲのような触手が幾つも生えており、どこか寄生虫にも見えた。
微かにだが頭頂部辺りに両翼が見られている。
俺は目視した後、サブモニターでその物体を拡大化して確認した。
『……カムイくん。何、あれ……
見事に歌い切った、桜夢は素に戻り疑念の声を上げている。
「わからない……俺も初めて見る。ん? なんだ……“ツルギ・ムラマサ”の方に向かって行くぞ?」
『――カムイ、サクラ!
無線から、イリーナが切迫した声で指示が入る。
「“メフィストフェレス”!? あれが
俺は眉を顰めるも、敵だと判断した。
放たれた
「なんなんだ、奴は!?」
俺は
ちなみに《ナイトゴースト》は一度使用してしまうと、背部ユニットに強制収納されて一定のチャージが必要となり、しばらく使えない。
“メフィストフェレス”と呼ばれた謎の
それからさらに形を変え、機体胸部の僅かな溝部分に溶け込むように内部へ潜入した。
「なんだと!?」
『カムイ、ああなったら手遅れよ!
「イリーナ! 何を言っている!? ヨハン中尉が乗っているんだぞ!」
『だから言っているんじゃない! もうじき彼は“アダム
“アダムFESM”? ヨハン中尉が?
イリーナの奴、一体何を言っているんだ?
刹那、“ツルギ・ムラマサ”のデュアルアイが発光し再起動する。
「ヨハン中尉!?」
俺は“プリンシパリティ”を近づかせ、彼の安否を気遣おうとする。
だが、同時に直感的な何かを感じた。
――“ツルギ・ムラマサ”から迸る『殺気』だ。
ヴォォォン――!
突如、マニピュレーターに握られた
俺は咄嗟に反応し、“プリンシパリティ”後退させ回避するも、“ツルギ・ムラマサ”はさらに前進して刃を振るってくる。
やむを得ず
両機体が激しく鍔迫り合う形となるが――。
「だぁ、駄目だ!
白兵戦では明らかに、“ツルギ・ムラマサ”の方が分があるようだ。
「やめろぉ、ヨハン中尉ッ! クソォ、聞こえないのか!?」
俺は呼び掛けながら、出撃前にイリーナが説明したことを思い出す。
――
きっと、さっきの“メフィストフェレス”がそいつなんだ。
そして寄生された人間は“アダムFESM”と呼ばれる存在となるか。
なら、ヨハン中尉はもう……。
しかし、イリーナが言っていた「どっちに転ぶかわかったもんじゃない」ってどういう意味だ?
『マスター、
ホタルはAIらしくドライな口調で進言してくる。
だが適切な判断だ。
「了解した! 《ナイトゴースト》使用する! 但し狙うのは、手足と背部ユニットのみに限る! 決してコックピットを狙うな!」
『COPY。
『い、いえ……大丈夫です。わたしがやります――《ナイトゴースト》射出ッ!』
桜夢も覚悟を持って操作し始める。
ホタルは「そうデスカ……」と、不貞腐れた顔でそっぽを向いてモニターの中に消えていった。
どうやらすっかりヘソを曲げてしまったようだ。
“プリンシパリティ”の背部ユニットが放出された、6機の《ナイトゴースト》が機敏な動きで素早く“ツルギ・ムラマサ”を取り囲む。
そのままコックピットを避けて、一斉に攻撃しようとした。
瞬間、
“ツルギ・ムラマサ”は後方へと退き素早く旋回する。
頭部に装備された
「――ならば!」
俺はアクセルペダルを蹴り突撃し、
コックピット以外を狙って無力化を試みようとした。
――斬ッ!
“ツルギ・ムラマサ”に素早く切り返され、斬撃を受けてしまったのだ。
「くっ! やはり白兵戦じゃ敵わないか!?」
愛機“サンダルフォン”なら戦えなくもない相手だが、やはりこの機体だと荷が重かった。
それからも、“ツルギ・ムラマサ”の猛撃は続く。
まるで妖刀に操られた狂人の如く、縦横無尽に斬撃を繰り出してきた。
俺は得意の直感力をフル回転させ、回避運動を試みる。
それ以上の推進力と加速力で斬り込み、着々と“プリンシパリティ”に損傷を与えていく。
「こいつ、まるで“ベリアル”のような戦い方をしてくる! 本当にヨハン中尉が動かしているのか!?」
いや、きっとヨハンの身体を乗っ取った
クソォッ! エースパイロット並みの腕前じゃないか!?
その時だ。
『――黒騎士ッ!』
無線越しに聞き覚えのある女性の声が響く。
イリーナじゃない。この凛とした力強さは……。
「レクシー!?」
そう、“デュナミス”機に乗った、レクシー・ガルシアであった。
彼女の機体だけじゃなく、他の
どうやら、ゼピュロス艦隊が到着したようだ。
各機は移動しながら暴走した“ツルギ・ムラマサ”に対して、威嚇の射撃を繰り出した。
“ツルギ・ムラマサ”は俊敏に機動を変え、“プリンシパリティ”から離れる。
背部の
「て、撤退したのか? 一体……どこに?」
俺は呟きながら、メインモニターに映る蒼白い直線状の残光を見入った。
「……カムイくん、機体の損傷が激しいよ。一端、“ミカエル”に戻らないと……」
桜夢がヘルメットのバイザーを上げ、状況を説明してくれる。
機体状況をチェックすると、もう少し攻撃を受けていたら撃墜もあり得る損傷範囲だ。
危なかった……。
「ああ、よく持ち堪えてくれたと思う……桜夢もありがとう、助かったよ」
「ううん……こうして難を逃れたのはカムイくんの実力だよ。でも役に立てたのなら嬉しいかな」
どこまでも謙虚な子だよな。
だからつい肩入れをしてしまうかもしれない。同じ日本人として。
ふと、レクシーの“デュナミス”が近づいて来る。
そっと片腕を伸ばして、マニピュレーターが傷ついた“プリンシパリティ”に接触してきた
『……こうして触れれば、他の者達に聞かれることはないだろう。カムイ、星月、二人とも無事なのか?』
レクシーの声がコックピット内に響く。
ウィンドウが開かないところを見ると、接触回線で繋いでいるようだ。
「ええ、ボロボロですけどなんとか……先輩、助かりました」
『いや、このような結果だ……“シャックス”を斃したのもキミ達だしな。しかし、ヨハン中尉は……』
「はい……イリーナの話だと“メフィストフェレス”という
『……よくわからんな。人間の身体を乗っ取る
「セシリア、艦長ですか……はい。了解しました」
とりあえず、俺達たけ帰還することになった。
これまでなかった思わぬ展開に胸騒ぎを覚えながら――。
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