第15話 意図的な護衛任務班
なんてこった。
レクシーに、俺が“サンダルフォン”のパイロットだとバレているかもしれない。
今回の護衛任務、明らかに俺を意識しての繰り下げ選抜だ。
きっと、俺の操縦技術を見定めるつもりなのだろう。
ガチで大怪我をしてしまい、下手したら死んでしまう。
クソッ。
このまま、あの先輩の思惑通りに参加するのもしゃくだな……。
こうなりゃ、軍の上層部に精通している「イリーナ」にチクって、俺を無理矢理外してもらうか?
いや待て……それじゃ自分から「僕でーす!」と言っているようなものか。
まぁ、考えてみれば戦闘にでもならなきゃバレることもない筈だ。
確かキーレンスの話だと、20位から下の訓練生は遠くで見学扱いだったよな?
そこに期待しよう……。
などと思っていた、俺が甘かった。
「うっひょーっ! 今度のチーム、星月ちゃんと一緒だぁ!! ラッキー!!!」
アルドがシャドウボクシングをしながら舞い上がっている。
次の日の朝、学園廊下に設置されているディスプレイ式の掲示板に「護衛任務班の編成」が表示されていた。
第102期の訓練生達全員が掲示板の前に集まり、その内容に目を通している。
視力の良い俺は少し離れた場所から意識を集中して見入った。
なになに……。
〇護衛任務班、Aチーム。
班長、レクシー・ガルシア准尉
~班メンバー
・ハヤタ・セバスキー
・アルド・ヴァロガーキ
・星月 桜夢
・etc,
成績順に訓練生の名前が羅列されており、最後の方に……。
・弐織 カムイ
って、
しっかり俺、メンバー入りしてんいるんじゃないかーい!
嘘だろ、おい!
「けどよぉ。どうして30位の弐織がAチームに入ってんだ? 20位以下は見学だろ?」
間近で眺めている、ハヤタがボヤいている。
今回ばかりは疑問に抱くのも最もだ。
他の20位以下はしっかり見学ポジだからな。
「――私が推奨した」
レクシーが現れる。
黙っていても威厳を放っている教官の登場で、周囲の訓練生達は自然と道を開けていた。
しかしこの女、まずいタイミングで来やがったな。
まさか、こんな所で「弐織は“サンダルフォン”のパイロットの疑いがある」と、ぶちまけるんじゃないだろうな?
いくら証拠がなくても、一時でも周りの連中にそう思われてしまうだけでも厄介だ。
無闇やたら詮索され、結局ストレスになってしまう。
「どういうことだよ、レクシー姐さん」
ハヤタは、さも特別な仲っぽい馴れ馴れしい口調で聞いている。
実際は教師や上官の指示で担わされた、ただの教育係の関係だけどな。
訓練中じゃないから、ここぞとばかり親密アピールしているように見える。
レクシーは凛とした態度で、「うむ」と頷いた。
「弐織は成績こそ30位だが操縦技術自体は悪くない。寧ろトップに入るクラスだと、私は思っている。だからこそ、今回の任務を通して彼には経験が必要だと判断した」
「経験ね……まぁ、オレのような既に実戦を経験しているのならともかく、他の連中だって経験を積みたいと思っているんじゃね? 姐さん、なんだか……弐織だけ特別扱いしているように見えるんだけど」
ハヤタの言っていることは間違いじゃないが、常に上から目線なのがイラっとする。
俺から言わせれば、学徒兵でもないお前こそ、実戦じゃ遠くで見学扱いだったじゃねーかとツッコみたくなる。
「特別? 弐織だけ……」
レクシーの奴、なんだ?
急に切れ長の青い瞳を反らして頬を染めているぞ。
おい、何か変な捉え方してんじゃないか?
ハヤタの言う「特別」は、えこひいきとかの意味だからな!
「まぁ、ハヤタ君。あくまで安全宙域での護衛任務だからね。教官でもあるレクシーがここまで言うのなら、弐織君にも経験くらい積ませてあげてもいいんじゃないかい?」
キーレンスもレクシーへの点数稼ぎで、俺の参加に賛同している。
こいつも普段が普段だけに、俺はあの女のお情け扱いで参加してもいいんじゃないかと聞こえてしまうけどな。
「まぁ、別にいいけど……」
ハヤタは納得した素振りを見せる。
流石に主教官と副教官の二人に食いついてまで否定する話じゃないと考えたようだ。
参加したくない俺としては「負けてんじゃねーぞ、おい!」と加勢してやりたい。
もう一人文句を言いそうな、カースト2位のアルドは桜夢と同じチームということで舞い上がり、ひたすら取り巻き達をサンドバックにしてシャドウボクシングしながらはしゃいでいる。
俺のことなど歯牙にもかけないのは結構だが……こっちが全力否定してほしい時に使えない奴だ。
……やれやれ、仕方ない。
これ以上、大事にしたくないし、ここは黙って従うか。
戦闘にさえならなければ、レクシー以外ならいくらでも周りを誤魔化せるだろう。
そう考えを気持ちを切り替えていると、不意に視線を感じる。
桜夢が俺をじっと見つめていた。
何か話をしたいような素振りだ。
俺は頷き、さりげなく二人っきりで話せそうな場所へ移動する。
こっそり体育館の物品庫へと入った。
「……ごめんね、カムイくん」
タイミングをずらして、桜夢が入ってくる。
「いや、僕のほうこそ……ごめん、こんな所に呼び出して」
「ううん。でも、よくわたしが二人でお話ししたいって気づいたね?」
「……勘かな? 割といい方だと自負しているんだ」
なまじ脳が活性化している分、その辺の連中より観察力と察知能力に長けていると思う。
「うふふ。カムイくんって面白い」
柔らかく微笑む、桜夢。
俺の正体を知らないにもかかわらず、目立つことを嫌う事情を理解してくれている。
こうして配慮して気遣って、合わせてくれる優しさが嬉しかった。
だから俺も彼女を信頼し、ある程度は心を開いて接しているわけであり……。
でも、どこか彼女と密会しているような感じで、ドキドキしていたりもしていた。
いかん……冷静にならないと。
「そ、それで、桜夢さん。僕に何か話があるのかい?」
「うん、同じチームになれたこと。ハヤタくんはああ言っていたけど、わたしは嬉しいなって……カムイくんと一緒だからね」
なんとも嬉しいことを。
ストレートに言われると、なんだか恥ずかしいけど……。
「ありがとう……だけど演習じゃなく、ちゃんとした任務だからね。お互い緊張感を持って頑張ろうよ」
「えへへ、わかっている。でもなんか、何度も実戦経験を持つ熟練パイロットみたいな言い方だね、カムイくん?」
「ははは……まさか」
実際はその通りだけどな。
一応、特務大尉の階級もあるし……発言権は中佐レベルまであるし。
但し“サンダルフォン”に乗った時の限定だけどね。
「でもカムイくん大丈夫? 実際、
「ん? ああ……えっとないよ」
やばい、嘘もストレスが溜まるものだ。
特に桜夢のような純粋な子の前だと特に……罪悪感ってやつかな。
「そう、だったら何かあったら、わたしが守ってあげるからね」
「う、うん……ありがとう、ははは」
気持ちだけでも受け取っておくよ。
それから、桜夢と端末のアドレスを交換した。
これで、わざわざ隠れて会わなくても、ある程度のやり取りはできるだろう。
まぁ、人目を避けて二人で会うのも悪くないんだけど……逢引きっぽくて。
って、何を言っているんだ、俺は……?
ガチでらしくない。
こうして、第102期訓練生の初となる「護衛任務」が始まった――。
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