Episode:4 サンダルフォン襲来
緊急の呼び出しにより俺はエルザと合流し、バイクで主力戦艦“ウリエル”と連結されている
既にリックとユイバンが到着している。
「隊長、ちぃーす。あれ? エルザとデート中じゃなかったんすか?」
リックがチャライ言葉使いで妙な勘繰りを入れてくる。
風の噂によると以前からエルザのことが気になっているらしい。
「いや、起きた途端にエマージェンシーだ。それどころじゃない」
「マジ、
「しかし隊長、今回は妙ですなぁ。普通、群体タイプの
ユイバンの見解に、俺も同調し頷いた。
「言えてるな。ゼピュロス艦隊の方でも最近じゃ、それで振り回されている傾向があるらしい。大抵、周期を無視して現れる
「野良っすか? んじゃ俺らの出番なくねっすか?」
「いやリック少尉、今の野良の大抵は
前回の
野良とて決して軽視できない。
「ガーゴイル隊のパイロット達は直ちに乗船して下さい!」
戦艦の乗務員に声を掛けられ、俺達は“ウリエル”艦に乗り込んだ。
間もなくしてエウロス艦隊はコロニー船との連結を解除する。
宇宙という海原へ航行した。
アストロスーツに着替えた俺は、峯風艦長に呼ばれて
広々とした前方側には精密機械に囲まれた操艦らの乗組員と左右には通信士が座っており、中央にはレーダー席と後方側には艦長席が配置されていた。
緊張感が漂う重々しい雰囲気を感じる。
作戦行動中に、AGパイロットで気軽に入れるのは俺くらいなものだろう。
「ルドガーです。失礼します」
「大尉、呼び出してすまない。貴官の見解が聞きたくてな。ヨナ軍曹、例の映像を彼に見せてやってくれ」
「了解しました、艦長。ルドガー大尉、レーダー席のモニターを観てください」
俺は促されるまま、モニターを確認した。
これから向かう宙域に、真っ白な渦が発生し少しずつ大きくなっている。
監視船が捉えた
白い渦はある程度の範囲で拡張が止まる。
表示された数値上は小規模だ。
「群体規模にしては小さすぎる。野良ですか?」
「そうだ。たった1体だが未確認の
「新種ですね。1体ってことは
「そうなのだが問題はここからだ。ヨナ軍曹、映像を早めてくれ」
「了解しました」
映像が進められ、
話通り、1体のようだが妙だった。
敵影の背部から青白い閃光を放射させている。
あれは
まるで
「ここから通常の速度に戻します。巡視船が最後に捉えた映像となります」
「最後だと?」
オペレーターであるヨナからの報告に、俺はサングラス越しで目を細める。
「この
峯風艦長が説明したと途端、その
「!?」
俺はくっきりと最新型の光学航法カメラに映し出された敵の形貌に驚愕した。
明らかに見覚えがあったからだ。
その姿は六枚の翼を広げる漆黒の
「――サ、“サンダルフォン”!?」
声を震わせながら、その名を叫ぶ。
身を震わし戦慄していることを自覚しながら……。
だがしかし……間違いない。
あれは“サンダルフォン”だ。
しかし、あの機体はゼピュロス艦隊で活躍している筈だ。
ヘルメス社が極秘で用意した「黒騎士」という謎のパイロットによって……。
俺は直接会ったことはないが生前のヴィクトル氏から、愛娘のイリーナが身近に置くほど気に入られている少年だと聞く。
何故、“サンダルフォン”がこの宙域にいるんだ?
いや、そもそもだ。
ホワイトホールを潜り抜け、巡視船を襲う時点で可笑しい。
レーダー反応といい、やっていること全て
俺が考察しながら見入っている中、急接近した“サンダルフォン”の頭部で画角がいっぱいになる。
赤く染まったデュアルアイが不気味に発光した直後、モニターの映像が大きく揺さぶられた。激しいノイズでいっぱいになり、プッと途切れた。
オペレーターのヨナがこちらを振り向く。
「巡視船が撮った映像はここまでです」
「どう思う、大尉? 私はこれが『本物』だとは到底思えないのだが……」
「もう一度、見せてもらっていいですか?」
俺の要望に、ヨナは頷き再度映像が流れる。
「ん? 軍曹、一端止めてくれ」
俺はサングラス越しである事に気づく。
ヨナは「はい」と返事して映像は
「どうした、大尉?」
「はい、艦長。この機体は本物の“サンダルフォン”ではありません。おそらくレプリカかと」
「レプリカ? つまり偽物だと言うのかね? 誰かが意図的に造ったとでも?」
「はい。私が知る限り、“サンダルフォン”は2機存在します。現在、ゼピュロス艦隊で話題となっている
「なるほど……確か貴官は学徒兵時代、ゼピュロス艦隊方面でヘルメス社の要請で
「ええ、昔ヘルメス社には世話になったくちで……AG開発の協力を少々」
俺は言葉を選び、少しばかりはぐらかした言い方をする。
峯風艦長が、わざわざ俺をブリッジに招いた理由がわかってきた。
“サンダルフォン”はヘルメス社の超重要機密事項だ。
ここ第三艦隊であるエウロス艦隊はライバル企業であるグノーシス社の息が掛かっている。
忖度すればヘルメス社に直接問い合わせるより、まずは関与していた俺に聞いた方が無難なのだろう。
しかも、“サンダルフォン”絡みとなれば尚の事だ。
本来なら艦隊にとって俺は腫れ物扱いなのかもしれない。
だが俺がAGパイロットとして築き上げてきた実績は、エウロス艦隊にとって都合の良いプロパガンダであり、ヘルメス社の恩恵を直に受けているゼピュロス艦隊が戦果を上げている以上、ヒーローとして祭り上げる必要があった。
この厚遇もただ気に入られているだけでなく、道化を演じさせる上で都合の良い手駒なのかもしれない。
別にそれならそれで構わない。軍に属している以上、兵士高揚が目的なら当然のことだ。
誰が何を意図し目論もうと俺には関係ない。やるべきことはただ一つ。
――人類の敵である
ただそれだけだ。
その為に、俺は戦場にいるのだからな。
「大尉の言う通りなら、この
「はい艦長、おそらく……6号機は4年前の稼働実験で機能が暴走し、そのまま消息を絶っております。当時、もう一人のテストパイロットを乗せたまま……」
「4年前だと!? それが今になって現れたというのか!?
峯風艦長が驚くのも無理はない。
そもそも
だが、それよりも――
「6号機のテストパイロット……ティア・ローレライ」
彼女が生きているかもしれない。
俺はそのことに一番驚愕している。
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