Episode:16 デュナミスGカスタム
翌日、事態は急転した。
エウロス艦隊にとっては悪い方向ではなく、寧ろ良い方向である。
まずガーゴイル部隊に新型
――型式番号:HUC-002 、“デュナミス
ヘルメス社のイリーナ社長の配慮で、わざわざガーゴイル隊用にカスタマイズされた新型機を回してくれたらしい。
実際あの『黒騎士』が同タイプの機体で大きな戦果を上げており、その性能は折り紙つきのようだ。
またレディオより、
「イリーナ嬢も口調こそ相変わらず最悪でしたが、“シンギュラリティ”に関しては彼女なりに思うところもあったのでしょう。こちらも模擬戦闘ではあちら側に迷惑を掛けてしまったので、合理的な判断下これ以上は追及しないことにしました」
と語っていた。
詳しい説明はなかったが、なんでも“ツルギ・ムラマサ”2号機が大破するほどの重大な事件が起こったらしい。
だがそのおかげで、貴重な戦闘データを得ることができたとも語っていた。
軍需企業はポジティブで羨ましい……。
そして夜。
2号機から獲得した戦闘データが転送され、3号機へと転換される形で調整作業に入る。
しかしそれとほぼ同時のことであった。
絶対防衛宙域を監視する巡視船より、ホワイトホール反応が確認されたと知らせが入る。
やはり想定した通り、今回はスパンが短い。
「備えあればだな……おそらく“シンギュラリティ”も何かしらの形で修復されたに違いない。今度こそ決着をつける……ティアのためにも――」
俺はそう考えながら、戦艦“ウリエル”に乗り込んだ。
その“ウリエル”の艦底には特殊ワイヤーで固定された例の外殻ユニット“ドラグーン”が運搬されている。
主力戦艦ほどでないにせよ、あまりにも巨躯故に
「――ルドガー大尉、“ツルギ・ムラマサ”の調整にもう少し掛かります。今しばらくお待ちください」
運航中の
最新型かつ未知の機体だけに艦の整備班では取り扱いが慣れてない部分もあり、峯風艦長の配慮で特別に任せることにした。
ちなみに“デュナミスGカスタム”の整備も彼らが担当している。
「了解した。できるだけ早く頼む」
俺は既にアストロスーツを着用しており、整備員からナノマシンの注射パックを受け取った。
これも最新型のナノマシンであり、“ドラグーン”の空間認識制御用や《キシン・システム》と連動する際に不可欠な代物らしい。
「うっひょーっ! 新型だぜぇ、カッコイイ~!」
「ルドガー隊長ぉ! この“デュナミス”って
新しく提供された“デュナミスGカスタム”のコックピットで大きな声ではしゃぐ、リックとエルザ。
俺はサングラス越しで双眸を細め、「若いな……」と呟く(実年齢22歳)。
「……ルドガー殿」
ユイバンが近づいてきた。
普段は「隊長」なのに「殿」と敬称をつけた上で。
「どうした、ユイバン中尉? 新型機の機体チェックは終わったのか?」
「……はい。私のことは既に、レディオ坊ちゃまから聞いていると思いますが……」
普段と口調が異なる、ユイバン。
凛とした表情で背筋を伸ばし、やたらと畏まっている。これが本来の姿なのだろう。
「坊ちゃまね……ああ、彼から全て聞いている。ガルシア家に仕える執事で、俺を見定めるために派遣された
「はい、その通りです。私の使命は貴方に“ツルギ・ムラマサ”を託す人物に値するかを見定めるだけでなく、実はもう一つの役割がございました」
「もう一つ? なんだ、それは?」
「貴方が“アダムFESM”ではないかという疑いです」
「なんだって? この髪と瞳の色でか?」
「ええ、さらに時折見せる人間離れした狂暴性と身体能力……反して常に冷静な判断と思考力など。貴方は以前より『賢者会』からマークされていました」
「賢者会?」
「詳しくは説明できませんが、事実上宇宙を支配する有力者達で構成された秘密結社と言いましょうか。こうして話しているのは、レディオ坊ちゃまから許可を頂いた上で話しております。エウロス艦隊の活躍で、あの方も『賢者』入りを果たしたので……」
「……そうか。それで俺の疑惑は晴れたのか?」
「レディオ坊ちゃまが貴方に“ツルギ・ムラマサ”を託された時点で既に……私は貴方に偽っていたことを謝罪したく、こうして出撃前にと……申し訳ございませんでした」
「なるほどね……実は俺も自分のことはよくわかっていない。幼少期の記憶がないんだ……」
俺はユイバンに自分の生い立ち全て話した。
今更隠しても仕方ないと思ったからだ。
俺の生い立ちを聞いたユイバンは瞳を閉じて溜息を漏らした。
「……そうでしたか。まったく地球はおぞましいところです」
宇宙育ちらしい感想だ。
反面、地球に住む者とっては貧困問題から、自分らは宇宙船民から支配を受けていると思っている輩も多い。
おそらく俺はそんな連中から生み出された徒花なのかもしれない……。
「まぁ地球というより人間だと思うが……したがって、この髪と目は生まれつきというより、その『反政府勢力』で遺伝子をいじられたかもしれない。案外、その“アダムFESM”に模した失敗作かもしれん……何を目的としたのか知る由もないがな」
「貴方は自分のことである筈なのに、よく客観的に言い切れますね?」
「12歳までの記憶がないからか、無感情だとよく言われる。時折、自分でも呆れるほどな……特に今回は嫌というほど自覚しているよ」
「ティア・ローレライですか? 4年前に失踪したテストパイロット……今は“イヴFESM”化した人類の敵ですね? 貴方とも親交があった……」
「そうだ。たとえひと時にせよ、想いを交わし合った相手だってのに、俺は躊躇なく彼女に銃口を向けようとしている。無論、乗っ取った
「ええ、確かに情があれば尚のことでしょうな……しかし、私はそんな貴方を心から尊敬しています」
「一応ありがとうと言っておく。軍人の心構えとしては満点だろうが、人間としてはどうなのかという疑念もある。そう思えば、俺も実は人間とは異なる存在なのかもしれない」
「ルドガー殿……」
「それでも俺は
「ルドガー隊長、貴方という方は……無感情は嘘ですね。貴方ほどの情が深くお優しい方はおりますまい。エルザが好意を寄せ、あのレディオ坊ちゃまに気に入られるのも頷けますぞ」
エルザはともかく、レディオの気に入られ方は少し引っ掛かるけどな。
まぁいい……。
「話は以上だ、ユイバン中尉。持ち場に戻れ、余裕があればリック少尉とエルザ少尉の調整を手伝ってやれ」
「ハッ、隊長! では、これにて!」
ユイバンはビシッと敬礼して見せ、俺から離れて行った。
ようやくお互いが秘めていた疑念が解消されたってところか。
にしても、
「……情が深いか、ティア」
本当に彼女は消えてしまったのか……あれだけ現実を見せられたにもかかわらず、何故かそう思えてしまう。
間もなくして、エウロス艦隊は
『本艦隊はこれより戦闘宙域に入ります。ホワイトホール、尚も広範囲の展開を確認。前回と同様の群体規模と予想されます。各
オペレーターであるヨナの声が響き渡る。
俺達パイロットは指示に従い、各々機体に乗り込んだ。
「ルドガー大尉、“ツルギ・ムラマサ”の調整はまだ終わっていません! 申し訳ありません!」
コックピットのシートに座った途端、グノーシス社の整備員がハッチから顔を出して謝罪してくる。
「……間に合わないか、仕方ない。了解した、早急に作業を終わらせてくれ。俺はいつでも出撃できるよう、ここで待機している」
『ルドガー隊長、あたし達は?』
メインモニターのウィンドから、エルザの顔が小さく映し出された。
「少尉達は先に出撃し各個撃破だ。いいか、新型機とはいえ過信するな。常に3機で行動すること。俺が向かうまで僚機部隊のフォローに当たってくれ。各隊の隊長機にも、そう伝えてある」
『『『了解ッ!』』』
――それから間もなくして戦闘が始まった。
各戦艦から
ガーゴイル隊が搭乗する“デュナミスGカスタム”も
「流石は新型機……大したパワーだ」
俺はサブモニター越しで、部下達の勇姿を見守るしか術はない。
カスタマイズされているとはいえ、明らかに“エクシア”を上回る高性能だ。
「ホワイトホールから出現した
あの群体に“シンギュラリティ”がいるだけに余計にな。
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