第62話 奇態FESM




 俺が駆る“デュナミスJBカスタム”は虚空へと飛び立つ。


「……通常の“デュナミス”とは別モノか。よくカスタマイズされている」


 アクセルペダルを踏み込み、噴かしたバーニアの振動を感じながら呟いた。

 当然ながら、“サンダルフォン”に比べれば見劣りしてしまうが、単機でなく部隊を組んで戦う分なら十分だろう。


 セシリアの戦術が功を奏し、残る敵も200体くらいだ。

 数はこちらの方が勝っているし、掃討戦と思ってもいいかもしれない。


『マスター。背部にマウントされている試作武装、ジャイアント・ガトリングがデッドウェイトになってイマス。機動性は勿論、《EXMエクストリームモード》発動にも影響するので注意してくだサイ』


「油断するなってことだろ? わかっている」


 俺はさらにアクセルを踏み込み、同じように前方と飛ぶAGアークギア部隊の本隊と合流する。

 すると一機の白銀色パール塗装を施された“デュナミス”が、こちらに近づいてきた。よく見ると左肩に「039」という型式番号と赤い二本の線がペイントされている。



『その黒い“デュナミス”は、ヘルメス社の黒騎士殿か?』


 無線から聞き覚えのある女性の声が響いた。

 ちなみに俺はAG乗りの間で、「黒騎士」と呼ばれているようだ。


『マスター。レクシー機デス』


 ホタルが教えてくれる。


「レクシー? そうか彼女も同じ戦場に……まぁ正規パイロットだから当然か」


 おまけにパイロット不足だ。


 俺は個人回線で話すよう、レクシー機に促した。

 彼女は了承し、こちらが指定したチャンネル回線に合わせてくれる。


『やはり、カムイだったか……“サンダルフォン”でないにせよ、キミと一緒だと安心するよ』


 なんとも照れくさいことを言ってくれる。

 宇宙そらで一緒に飛ぶのは護衛任務時以来だな。


「レクシー先輩、俺に近づいて大丈夫ですか? 隊列から離れてますよ」


『心配ない。中隊長からキミの支援とコミュニケーション役を命じられた上で近づいている。ほら、“ベリアル”で率先して私を助けてくれたろ? だから意思疎通が図りやすいんじゃないかという配慮のようだ』


「そうですか……俺のことで誰かから妙なこと言われたりしていません?」


『いや大丈夫だ。一応、ガルシア家の人間だからな。私のことを無闇に詮索するような輩はそうはいない。その意味では普段は疎ましく感じる家の名も、悪くないと思う時がある』


「家の名が疎ましい?」


『ああ……私はAGパイロットだからな。プライベートならまだしも戦場は平等だと思っている。ここは私にとって忖度のない実力のみの世界だからだ』


 よくわからないけど、レクシーも貴族の名家として何かしらの確執と葛藤があるのだろうか。

 どの道、今は深く語り合っている場合じゃない。


 俺は「そうですか。お互いベストを尽くしましょう」と告げ無線を終わらせた。


『マスター、前方部隊がFESMフェスムと接触し交戦に入りました。こちらも間もなく敵との有効射程距離に入ります』


「このまま直進して迎撃するぞ。レクシー先輩も一緒にどうっすか?」


『ああ、是非にお供しょう。こうして現実リアルでキミと共闘できるとは嬉しい限りだ』


 また照れ臭いことを……あまり戦いに集中できなくなるからやめてくれ。


 俺は気恥ずかしいを払拭するかのように操縦桿を強く握り直し、アクセルを踏み込んだ。

 自機の“デュナミス”を加速させ一直線に突っ込んでいく。


「――《EXMエクストリームモード》!」


『COPY』


 漆黒の“デュナミス”はカスタマイズされた推進力を最大まで活かし有効射程距離に入る。

 高速でこちらに突進してくる小型FESMインプ級の攻撃を躱し、すれ違い様で霊粒子刀剣セイバーブレードで斬りつけ、真っ二つに両断した。

 すぐさま武器を切り替え霊粒子小銃エーテルライフルを放ち、味方のAGアークギアに襲い掛かる中型FESMサタネル級を撃ち抜き撃破する。


『あ、ありがとう、黒騎士ッ!』


「ノープロブレム」


 俺は素っ気なく応答し、貪欲に次の敵を求めた。


 “サンダルフォン”には及ばないが、俺使用にカスタマイズされた新型機だけあり、霊粒子動力炉エーテルリアクターの出力も高く、霊粒子エーテル系武器の威力が量産機の“エクシア”よりも威力がある。

 ほぼ一撃で、FESMフェスムの永久機関である『星幽魂アストラル』を貫通させ破壊することが可能であった。

 

 それからも俺は敵を駆逐していく。

 機敏に縦横無尽に動き、味方AGアークギア機を支援しつつ、確実に撃墜数を稼いだ。


『……流石だ、カムイ。まさに一騎当千だな』


 レクシーは呟きながら、自身も数体のFESMフェスムを斃している。

 しっかりと離れず、俺の動きについてくるとは、やはり彼女は優秀なパイロットだ。



『マスター、もうじき《EXMエクストリームモード》が解除されマス』


「皆も奮闘してくれたおかげで、もう半分以上は片づけたかな? 残りは100体もいない。味方もほぼ墜とされてないようだし、このまま行けば快勝だな。セシリア艦長の見事な作戦のおかげだ。」


 AGアークギアが日々進化していくように、それに沿って人類側の戦いも巧妙となっていくようだ。

 今回の戦闘で対FESM《フェスム》戦における艦隊運用にも、大きな一変をもたらせたかもしれない。


 てか新装備のジャイアント・ガトリングは使わないで済みそうだ。


 そう考えていた時だ。



『――なんだ、あれは!? 様子が可笑しいぞ!』


 ふとパイロット達が驚愕する声が響いた。

 ここから少し離れた戦線ポイントで何かが発生したようだ。


「ホタル、向こうで何が起こっている?」


『イエス、一体の中型FESMサタネル級を中心に、複数の小型FESMインプ級が寄せ集まり融合しておりマス』


「融合だと!? FESMフェスム同士が合体しているってのか!?」


 そんなの聞いたことがないぞ。


『敵、霊粒子エーテル膨張! 外装だけでなく、内部の『星幽魂アストラル』も融合し、別の個体に変化しようとしてイマス……大きさ大型FESMマラーク級と断定!』


「まったく、よくわからん連中だ! ここはもう大丈夫だ! 騒ぎのあるポイントへ向かうぞ! 燃料はまだ大丈夫か!?」


『COPY。オールグリーン、問題ありまセン』


 俺はスラスターを吹かし、そのポイントへ向かう。その後ろをレクシー機がついて来ている。

 通り過ぎていく敵を斬りつつ、他AGアークギア機の間を縫うように飛び続ける。



 間もなくして、煌々と赤い光輝を発する何かが、メインモニターに映し出された。


「――あれか? うわっ、キモ……」


 俺はその光景を見て、生理的な嫌悪感を滲ませる。


 赤い光を宿らせた戦艦並みの大きさであり、何かの集合体と呼べる存在であった。

 非情に形容し難い醜悪な形状をしており、全体から幾つも腫脹のような隆起が見られ、無数の触手が生えてうねり泳いでいる。

 統一性のない不規則で歪な体躯だが、白い双翼だけは高々と掲げられていた。

 見たことのない『奇態のFESMフェスム』だ。


 奇態FESMフェスムは幾つも束ねられた鞭といえる触手を取り囲んでいる各AGアークギアへと向け始める。

 隆々とした触手の先端部が花弁のように開かれ咲き乱れていく。

それは攻撃端末であり、先端部から高出力の霊粒子エーテルエネルギーを一斉に発射させた。


『ぐわっ!』


『な、なんだこいつ!?』


『やばい、ギャァァァ!』


 それは霊粒子破壊砲エーテルブラストだった。

 無数の触手から、戦艦の主砲といえる攻撃を四方八方に乱射したのである。


 猛烈な強襲に、囲んでいたAGアークギア部隊は次々と被弾し撃墜されていく。


『ひ、怯むなァ、撃てぇぇぇ!』


 AGアークギア部隊は果敢に応戦し霊粒子小銃エーテルライフルで迎撃するも、身体の隆起部分を削るので精一杯であり、反撃を受けている。


 クソォッ! せっかくセシリアが頑張ったのに、これ以上味方を失うわけにはいかない!


「各機に告ぐ! そのFESMフェスムは俺が仕留める! 今すぐ退け! これは特務大尉としての命令だ!」


 あの奇態FESMフェスムは、ここで俺が屠らなければならない。

 瞬時にそう思った。





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《設定資料》


〇奇態FESM


 中型FESMサタネル級を中心に、複数の小型FESMインプ級が集合し合体した姿。外装だけでなく永久機関『星幽魂アストラル』も同様に一つに融合されている。

 外見は醜悪で異形そのものであり、無数の突起物と隆々とした鞭のような触手が束ねる形で生えている。さらにFESMの特徴である白い両翼も存在した。


 触手は大よそ50本ほど存在しているとされ、有機体の如く稼働し攻防に渡り本体を守ることができる。

 また触手の先端部は花弁状の攻撃システムとなっており、広い可動域から戦艦の主砲並みの威力を誇る霊粒子破壊砲エーテルブラストを撃つという凶悪な能力を誇示している。


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