第61話 新たな機体と戦術
あれから三日ほど経過した頃。
俺は瞳を閉じ、自身の心音に耳を澄ませ鼓動を確認していた。
――特に問題ない。
高く速く波を打つも、これから戦場に赴くのであれば程よい緊張感だ。
ホタルのチェックからも脳内に目立った異常は見られない。
『監視船よりホワイトホールの前兆を確認。各AG隊は持ち場にて待機せよ。繰り返す――』
前回の“マルファス”戦から、まだ三日経った程度なのに、最近
特にゼピュロス艦隊が航行する巡回路に対して……まさか狙われているのか?
『――カムイ。“デュナミス”の感触はどう? 貴方専用にカスタムしたんだけど』
メインモニターの片隅にウィンドウが開かれ、イリーナの顔が浮かび上がる。
「三日前の模擬戦で通常機に乗っていたからな。違和感なく乗れているよ」
『そう。でも、その機体は別モノと捉えていいわ。ジェネレーター出力の強化に加え、スラスターの増設も施している。運動性、機動性共に通常機のプラス40%向上しているからね』
「凄いレベルアップじゃないか……まぁ元々は量産機前提で造られているからな。乗りこなせないならカスタムの意味もないか」
『そうね。だからカムイ仕様機なのよ。当然、“サンダルフォン”に比べれば見劣りするけど、今回の出撃はそれで我慢しなさい。それと試作武装である「ジャイアント・ガトリング」は癖のある兵器だから使用には注意してね』
「了解した。念のため聞くが、今回は先陣を切らなくていいんだよな? 正規パイロット達と連携を取れって指示だったけど」
『ええ、もうじき古鷹艦長から直に指示が降りる筈よ。じゃあ、頑張ってね、カムイ』
ピッとイリーナはウィンドウを閉じ、入れ替わる形で別のウィンドウが開かれようとしている。
『マスター、古鷹艦長デス。既に音声、映像にスモーク処理済ミ』
「繋げてくれ」
俺の指示で、セシリアの顔が映し出される。
普段の締まらりがない表情とは違い、キリっとした「艦長モード」だ。
『“サンダルフォン”のパイロット……いえ今回は“デュナミス”機でしたね、特務大尉』
「……まぁ色々あってね。強化改修のため所有者であるヘルメス社に戻しているんだ。今回はこいつで出撃する。心もとないと思うが、おたくらの足を引っ張るつもりはないから安心してくれ」
『いえ、特務大尉にはいつもご協力感謝いたします。既にご存知かと思いますが、先々の戦いで只今ピュロス艦隊はパイロット不足に悩まされている現状がございます。この「絶対防衛宙域」を死守するためにも、たとえどのような所属だろうと、
「わかっている。敵は俺達の事情になんて知ったことじゃないからな。こうして頻繁に現れるところを垣間見ると、俺達を殲滅する
『はい、今回は対
戦艦が先陣を切るってのか?
また随分と大胆な作戦を……。
確かに戦艦は高火力を保有するが、通常なら
特に
したがって各戦艦は後方で陣を張り、
そのためにも
セシリアがやろうとしていることは従来の戦い方、
よく上層部から許可が降りたと思う。
だけどセシリアは飛び級で士官学校を首席で卒業する程の才女。おまけに、これまでの多大な戦果も誇る。
きっとパイロット不足を補うための奇策なのかもしれない。
信頼する俺は当然ながら彼女の作戦に乗っかるつもりだ。
『そして特務大尉が搭乗する“デュナミス”機は、本艦のAG中隊と連携を取り、残った
「了解した。出撃のタイミングは艦長に一任する」
『はい、ありがとうございます。それと……』
「なんだ?」
『決して無理だけはなさらないでください。貴方は私達人類の希望なのですから……』
セシリア……まるで亡きヴィクトルさんみたいな言い方をする。
なるほど、イリーナが彼女を気に入るわけだ。
彼女の優しさに俺の胸がぎゅっと絞られていく。
けど今の俺は
常に
アストロスーツを通して注入したナノマシンもいい感じで作用している。
「了解した。セシリア艦長を信じよう」
『はい、お任せください。どうかご武運を』
俺の返答に、セシリアは瞳を細め柔らかく微笑み通信を切った。
ウィンドウが閉じる瞬間、周囲に聞かれないよう唇だけを動かし「ありがと、カムイくん」と言っていたのがわかった。
「セシリア……そういや、まだご飯行くの、誘ってなかったな」
普段がああだから何かと声が掛けにくい。
変に周囲から誤解を生みそうだしな……特にオリバー副艦長から。
それから間もなくして、絶対防衛宙域の時空が歪められ、ホワイトホールが発生したという報告が入る。
ゼピュロス艦隊は目標宙域へと進軍した。
前回と異なり、その中に
主力戦艦“ミカエル”を中心に、他の巡洋艦と駆逐艦が一列に並び陣形を整える。
『各艦、
ホタルに密かにハッキングさせた
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――――………!!!
特に主力戦艦“ミカエル”に搭載されている主砲は、「
直撃すれば大抵の
ただし命中率が悪く、おまけに
『各艦の
『油断しないで! 全艦隊、このまま後退!
どうやら作戦通りに、敵の主力と半数を失わせる大打撃を与えたようだ。
『マスター、古鷹艦長より出撃要請デス。これよりカタパルトへ機体を移動しマス。出撃予定時間まで、残り150セカンド。正規AG部隊の出撃後となりマス』
「了解した」
専用の
本来なら愛機“サンダルフォン”に搭乗して見える光景だが今は異なっている。
だが関係ない。
俺は俺の戦いをするだけだ。
射出ランプが順次に点灯し、最後の一つが眩しく赤く輝いた。
戦の時が訪れる。
「“デュナミス”JBカスタム”、弐織カムイ出るぞ!」
俺が駆る、全身に漆黒のカラーリングが施された“デュミナス”機が戦場に放り出された。
見た目は通常の“デュナミス”と変わらないが、両肩や脚部に増設された
背部に搭載された
冒頭でイリーナが説明していた、試作型武装ユニット。
ジャイアント・ガトリングであった。
───────────────────
《設定資料》
〇デュナミスJBカスタム(弐織カムイ専用機)
型式番号:HXC-001JB
平均全高:15,8m(頭部の
平均重量:本体重量7,8t
全備重量:19t~(追加外装、推進ユニット、その他装備により異なる)
メインカラー:漆黒(ジェット・ブラック)
武装(固定)/
武装(手持ち)/
HXP-007“サンダルフォン”が改修されたことで、弐織 カムイ専用機としてカスタマイズされた機体。
通常より冷却機構やジェネレーター出力向上が図られ、またスラスター類が増設されたことで運動性と機動性が約40%向上している。
《
そして大型兵器の携行として「ジャイアント・ガトリング」を装備している。
6本の砲身が束ねられ、
尚この武装は射撃時の反動が大きいため、安定した姿勢での射撃とサブグリップを持つ必要がある。(つまり停止した状態での射撃と両手が塞がってしまうというデメリットがある)
また長砲から重量があるため、デッドウェイトとなり機動性能の妨げになる様子。
H=ヘルメス社製
X=所属不明
C=カスタム機
JB=漆黒(ジェットブラック)
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