第81話 ツルギ・ムラマサ
“ツルギ・ムラマサ”という
赤をメインとしたパーソナルカラーの機体。
装甲の背面や裏面側の装甲が無くフレームが剥き出しに見えるため、すらりとした細身で軽量化がなされているように見える。
明らかに耐弾性能は低そうな反面、運動性が高いと思われ、それを表すかのように腰元には日本刀を模した鞘に収められる『
また最新鋭らしく
兜を模した頭部には、U字型のツインアンテナが取り付けられ、フルフェイスのマスクにデュアルアイが青く煌々と光を発していた。
おそらく、ヘルメス社以外の企業で
果たして、その性能は如何に――。
「せっかく招待されたから仕方なく来てみたけど……随分とむさ苦しい所ね。それに油臭いわ」
イリーナは悪態をつきながら集団の中に近づく。
これもスターリナ家流の戦術だ。決してライバル企業に弱味を見せないための。
まぁ、半分は持ち前の性格もある。
チェルシーは舌打ちし、セシリアは「げぇ! 悪役令嬢ッ!」と叫んでいる。
「これはヘルメス社の社長、イリーナ様……ようそこおいでくださいましたわ」
「久しぶりね、チェルシー・ガルシア。貴女の兄、レディオはいないの?」
「生憎お兄様はエウロス艦隊方におりますわ。理由はご存知ですわよね?」
「――行方不明だった“サンダルフォン”6号機の出没でしょ? 確か
「……レディオお兄様は、ヘルメス社が過去に犯した失敗の尻拭いをしておりますの。貴女、社長としてなんとも思わないのですか?」
「思わないわ。だって四年前の話でしょ? 私が社長に就任する以前のね。それに実験に失敗したのは、当時ヘルメス社でAG開発主任をしていた『ジョージ・コバタケ』じゃない。確か、
あの作戦会議後。
実験機体である“サンダルフォン”6号機に関して、俺はイリーナからこう聞かされていた。
――かれこれ四年前の話だ。
“サンダルフォン”6号機は宇宙空間での稼働実験中に暴走し行方不明となってしまった。
当時のテストパイロットは死亡扱いとされ、一年後に今の7号機の開発に踏み込むことになる。
以前、イリーナがちらっと言った通り、“サンダルフォン”は今の1機しか存在しない。
したがって1号機から5号機までは、
だが6号機だけは異なっている。
あれは“サンダルフォン”の生体機能部分を培養しコピーしたレプリカである。
なんでも、より実戦データを獲得するために本機に近づけた試験機だったようだ。
だが実験は失敗し、機体は暴走してパイロットと共に行方不明。
そして、四年後の現在――。
第三艦隊ことエウロス艦隊が巡航する絶対防衛宙域で、“サンダルフォン”6号機は再び姿を見せることになる。
しかしその姿は当時の機体ではなく、
エウロス艦隊の
中でも最強の特戦隊こと『ガーゴイル隊』を率いる隊長、『ルドガー・ヴィンセル大尉』が乗る“エクシア”は原形を留めていないほど魔改造されているとか。
そして今もエウロス艦隊は、その“サンダルフォン”6号機を斃すため奮闘しているようだ。
本来なら、この俺が……ヘルメス社が始末するべき事案かもしれないのだが……。
「――関係ないわ。お給料貰っているんだから、自分達でやりなさい」
っと、イリーナはそう決め込んでいる。
その背景にはグノーシス社とレディオ・ガルシアと関わりたくないという思いが強いみたいだ。
これは俺の直感だが……きっとレディオって奴はイリーナの姿勢に不満を持ち、フェデリック准将に彼女の個人情報をそれとなく伝えて暗殺を煽ったのかもしれない。
失敗することを見越した上で――つまり金持ちの過激な苦情と嫌がらせだ。
「世界、いえ、宇宙最大の軍需産業を支配するヘルメス社の代表取締役とは思えない度量の小さきお言葉……あら? 見た目も小さいですわね。特にお胸の方がお寂しいですわ」
「無駄に物量があればいいってものじゃないわね。強欲な一族は雑種性のようだから、醜くぶくぶくと肥えてしまうようだけどね」
「誰が雑種性ですって! この年下の小娘がぁ!」
「フン! 社長代行如きが私と張り合うなんて十年早いわ! 悔しかったら、ご自慢のお兄様を呼べっての!」
気がつくと、チェルシーとイリーナが対峙し睨み合いながら舌戦を繰り広げている。
下手に関わると自分達が巻き込まれてしまうため、周囲は誰も止めに入る者はいない。
勿論、俺も嫌だ。したがって傍観していることに決め込む。
そんな中だ。
「――二人共、いい加減にせんか! 皆が見ている前で何をやっている!? まったくみっともない!」
遅れて
「……お姉様。仕方ないですわ、姉の顔に免じて一度引きましょう」
「フン! 別にどうでもいいわ。にしても、レクシーさん。遅刻とは随分といい度胸ね?」
「うむ。すまない、イリーナ。ちょっとしたハプニングがあってな……ハヤタ、彼を連れて来てくれ」
レクシーが指示すると、ハヤタが一人の男と共に
ドクターコートを羽織った中年風の痩せた男。
面長で無精髭が生えており、四角眼鏡の奥から細長い双眸を覗かせている。
「……ジョージ・コバタケ?」
イリーナが真っ先に男の名を口にした。
そう。この男こそ、嘗て“サンダルフォン”の制作に携わっていた研究者、コバタケ博士だ。
「お久しぶりですね……イリーナ嬢。随分と大きくなられまして、ハイ」
コバタケはニヤッと口角を吊り上げて微笑む。
「フッ、ガルシア家も物好きね。そんな破滅願望の男をわざわざ地球から拾い上げるなんて……」
「寛大と言って頂きたいですわ。ガルシア家は才能重視ですの。有為の人材を求めるのは企業として当然じゃありません? そんなワンマン経営だから、他社に出し抜かれて唯一
「はぁ? 誰が衰退しているって? たった1機の紛い物造ったくらいでマウント取ったつもり? お気楽思考こそ、身を滅ぼすわよ」
「やっぱり、この女だけは許しませんわ!」
「喧嘩なら買うわよ!」
「コラァ! チェルシーもイリーナもやめんか! こちらのコバタケ博士が男子トイレで彷徨っていたところをハヤタが見つけてくれてな。事情を聴きながら道案内していたら、遅れてしまったというわけだ」
「……そういえば、その男。極度の方向オンチだったわね」
「よく覚えていらっしゃる。光栄です、イリーナ嬢……ハイ」
「バカじゃない。トイレと廊下の区別くらいつきなさいよ」
イリーナは口が悪いが最もだと思う。
コバタケはニヤついたまま、何故かハヤタに手を振っていた。
「では、ハヤタ君。また後で……ハイ」
「ああ、博士。またね」
そのフレンドリーなやり取りに、チェルシーは顔を顰める。
「……ドクター・コバタケ。随分、彼と仲良くなりましたわね?」
「ええ、ハヤタ君もAG好きのモデラーで意気投合したんです、ハイ。今度、新作の高機動型“デュナミス”を買いに行く約束をしてくれたのです、ハイ」
モデラ―? 模型のことか?
そういやハヤタの部屋に
「そ、それは良かったですわね……ごほん! では皆様が揃ったところで、我がグノーシス社がキリシマ重工と共同開発した
チェルシーは咳払いをし、両手を広げて華々しく開催宣言した。
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《設定資料》
〇ツルギ・ムラマサ
型式番号:GXP-02(テスト用2号機)
平均全高:16,5m(頭部の
平均重量:本体重量10,5t
全備重量:19t~(追加外装、装備により異なる)
主武装/
グノーシス社とキリシマ重工が共同開発したとされる、ヘルメス社以外の初
開発者であり主任を務める「ジョージ・コバタケ」は嘗て“サンダルフォン”の試作実験機を6号機まで手掛けた実績があり、その技術を“ツルギ・ムラマサ”にも注ぎ込み反映させている。
重装でありながら高機動を誇る“サンダルフォン”と異なり、戦況や作戦あるいは屠るべく
それも相俟って人間に近く高い運動性と柔軟性を持ち、格闘兵装として日本刀に模した
日本の重工が携わっているだけあり、お国柄上OS設定もミリ単位まで調整が可能らしい。
またグノーシス社自体もAG兵装開発に関して定評があり、戦局に応じた多様性の高い換装パーツや武装ユニットと装備ユニットを開発し提供している。
但し現時点では高コストとハイスペックすぎる機体のため、量産化には向かない模様。
また現時点で3機の
G=グノーシス社
X=未所属機
P=試作機
02=2号機
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