第3話 仮想訓練装置
保健室を出た俺は、午後の専修科目である操縦訓練科の教室へと向かった。
既に正規のパイロット以上に戦えるのに、わざわざ操縦訓練科を選択したのには、ただ他に選びようがなかったからだ。
他の専修科目には、整備機械科、情報総合科、士官養成科(士官学校へ進学するための準備教育)、医療衛生科、今年度から導入された芸能科があるがどれもぱっとしない。
芸能科以外、結局は卒業までは軍所属してしまう。
それに自分の正体を隠すなら、操縦訓練科の方が手を抜きやすく成績も調整しやすいだろうという考えで選んだところもある。
今の所、成績は真ん中からちょい下だからな。
微妙に落ちこぼれじゃありませんって感じだろ?
操縦訓練科の教室へと入る。
ドーム型の大きな箱が幾つも並んでおり、既に何名かの生徒達が集まっている。
訓練生達は皆、ここで
正規パイロットを目指して。
「皆、集まっているか?」
数分後、張りのある凛とした声を発した女子生徒が入ってくる。
俺達、訓練生全員が整列し、彼女を迎い入れた。
黄金色の長い絹髪を後頭部で一つにまとめて垂らした総髪、ポニーテール。
整った容貌に切れ長の青い瞳。
清潔感のある凛とした雰囲気を醸し出す毅然とした美少女だ。
スタイル抜群で制服越しからも胸が大きいことが十分にわかる。
彼女は『レクシー・ガルシア』、17歳。
俺達、第102期より一つ上である、第101期パイロット訓練生だ。
同時に成績上位のため、『学徒兵』として准尉の階級を持つ軍人であり、人員不足の際には何度か出撃経験を持っている。
優秀な学徒兵は
「レクシー、みんな集まっているようですよ」
レクシーの隣に立つ、優男風の生徒が手に持っているタブレットで出席を確認していた。
彼の名は『キーレンス・ブリストル』、17歳。
レクシーと同期であり、俺達の一つ先輩になる学徒兵だ。
長めの金髪で紳士風であり、普段から眼鏡を掛けた知的な雰囲気を持つ。
すらりとした高い身長に容姿も良く、柔らかい物腰の話し方から女子に人気があるとか。
だが俺の見解だが、
普段こそ紳士ぶっているキーレンスも、ハヤタやアルドと同様に俺など歯牙にかけず、時には陰キャぼっちとして見下すような言動も聞かれていた。
なんでも、レクシーとは「互いに背中を預け合える間柄」と周囲に言いふらしているようだが、俺としてはキーレンスの独り相撲っぽい感じが否めない。
たまたま同期で同じ学徒兵と教官の立場から一緒にいるだけで、実際にレクシーはキーレンスを同僚のパイロットとしてしか見ておらず、とても異性とし意識しているようには見えないからだ。
寧ろ彼女の方から一定の距離を保っているようにも感じられる。
まぁ、他人事だからどうでもいいのだが……。
「それではこれより、各自順番に
レクシーの説明で訓練生から「おおっ」と声が漏れる。
「
ハヤタは背筋を伸ばし敬礼しながら聞いた。
こいつが彼女を「姐さん」と、さも特別な仲っぽく呼ぶには理由がある。
第102期の訓練生で唯一実践経験があるとされるハヤタは、教師や軍の上官からの評価が高く目を掛けられており、先輩であるレクシーが奴の教育係として担っているからだ。
真面目なレクシーとしては、上官命令でやむを得ずって感じのようだが、他所から見れば「あれ、もしかして?」と思われても仕方がないかもしれない。
ぱっと見は家庭教師と教え子みたいな関係だからな。
「ハヤタ、それはやってみてのお楽しみだ。ちなみに今回のシミュレーターには、レアリティの高い
何、バルバトスだって?
「うぉお! あの『灰色の
中性的な見た目の割に熱血漢であるハヤタは拳を振り翳してはしゃいでいる。
気楽でいいな、こいつ……。
決して皮肉で言っているんじゃない。
俺にとって、“バルバトス”って
それから、
各自の訓練生は順番に
データー上の疑似体とはいえ、本物さながらに動き個々の攻撃パターンや特殊能力を再現した非常にリアリティのある訓練装置だ。
だからこそ、ここで好成績を残せる者はエリートとして評価されるわけなのだが。
「よっしゃあー! ハイスコアだぜー!」
ハヤタがガッツポーズで訓練装置から出てきた。
その総合点数に訓練生達から感嘆の声と拍手が巻き起こる。
「凄いよ、ハヤタ! 初めてのステージなのに!」
「きゃー、カッコイイ!」
「ヒュー! ハヤタくん、ガチでエースパイロットだわー!」
ハヤタも相変わらず大した人気だな。
流石はカースト一位様ってか。
次は、アルドが訓練装置から出て来た。
「くそっ! ハヤタと僅差で負けちまった~!」
「でも、アルちゃんもステージクリアして凄げーよぉ!」
「ああ! 俺らも含めて、ほとんどの奴が“バルバトス”に遠距離から撃ち落されているからな! もう天才じゃね!?」
取り巻きのユッケとガッズが担ぎ、アルドを褒め称えている。
確かに、このステージをクリアした訓練生は、この二人だけのようだ。
「ハヤタ君とアルド君……なるほど、これは期待できるパイロットですね」
教官であるキーレンスも二人を称賛している。
准尉階級の学徒兵からの言葉に、より周囲は「すげー!」と盛り上がりを見せた。
「――しかしだ! 実戦はこうはいかないぞ!
凛とした口調で、レクシーは異常なテンションで舞い上がる訓練生に釘を刺す。
実戦経験だけでなく、幾つも撃破経験もある彼女の言葉に周囲は一気に沈黙する。
毅然とした迫力だけでなく、確かな実績もある分、凄く説得力があると思う。
「では次の訓練生に交替して開始すること!」
レクシーの指示で、次々と訓練生達が
そして俺の順番となった。
当然、俺が本気を出すことはない。
ガチでやってしまったら、ハヤタとアルドの点数なんて簡単に超えてしまうからな。
かとって、手を抜き過ぎて補習を受けさせられても
ここは丁度いい程度で力を抜く必要がある。
正直それが一番難しいんだけどな……。
俺は
「ぼっちくんの腕前かくに~ん!」
「やめたれ~、あんなの確認するまでもねーしょ」
「いや、どれだけ圏外か見るのもおもろくね? ぎゃははは!」
密閉された
俺の聴力が異常なばかりに……ったく、うっせーっての。
さっきシズ先生から処方してもらった内服薬は飲んでいる筈なのにな。
どうやら
アストロスーツを着用していれば、ある程度ナノマシンで抑制はできるのだけど。
「貴様ら黙れ! 訓練中だぞ、無駄話をするな!」
教官であるレクシーは、アルド達を叱っている。
彼女は外見が綺麗なだけでなく、内面も相当な人格者だと思う。
俺は少し気を良くし、迫ってくる10体の
「しょぼっ! ほとんど逃げているだけじゃん!」
またアルド達の野次が飛び交う。
悪かったな。
わかっていてやってんだよ。
「黙れと言っている! 次は許さんぞ!」
レクシーは毅然とした態度で、アルド達を窘めていた。
何事にも偏見を持たず平等に接する器量を彼女は持っている。
パイロットとして有能な証拠だ。
その時だ。
超
「――“バルバトス”か!?」
ドックン――!
刹那
胸の鼓動が高鳴ったと同時に、俺の脳内でアドレナリンやドーパミンが異常レベルまで活性化されていく。
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