第101話 超大型FESM




 桜夢が駆る最新型AGアークギア“アナーヒターSP”の先制攻撃により、敵FESMフェスムの2割を消滅させた。

 たった1機がもたらしたとは思えない、凄まじい戦果だと言える。


 しかも、まだ敵影すら見えない位置からだ。

 これが“アナーヒターSP”に搭載された《SASシステム》の賜物だと言うのか。


「どうやら今のサクラじゃ、2機の《サリエル・スポッター》しか扱えないみたいね……仕方ないけど」


 イリーナは戦果よりも、桜夢の技量レベルについて懸念している様子だ。


「2機? 俺には3体の大型FESM級マラークを中心に撃ったように見えるが……」


「実際に照準を捉えたのは2体よ。最後の一撃は山勘でしょうね。一応、あの長距離型霊粒子狙撃銃ロングレンジ・エーテルライフルは通常モードで最大6発までは連続して撃てるからね。威力もご覧の通り、戦艦の主砲である霊粒子破壊砲エーテルブラスト並みの威力よ。但し全て撃ち尽くしたら、30秒の冷却期間に入るわ」


AGアークギア単機で戦艦並みの火力だと? “サンダルフォンMk-Ⅱ”でさえ、そこまでの出力は得られないぞ? あの華奢な機体でどうやって……」


「機体のリアスカート部分に外付けの霊粒子動力炉エーテルリアクターが搭載されているわ。だからあんな突起した形になっているのよ。そこから直接供給する方式で、好きなタイミングで狙撃することができるわ」


 す、凄いアイデアだ。これもダアト知識区域エリアの“パンドラ”で得た《知恵の実》の恩恵なのか……。


 それに山勘とはいえ、1体の大型FESM級マラークを撃破した、桜夢の狙撃センスもかなりのハイレベルだと思う。

 イリーナじゃないが、桜夢と“アナーヒターSP”の相性が抜群ってことだな。



『よくやった、星月。一旦退いてくれ! 今度は我らが鉄槌を与えてやろう!』


『了解ッ!』


 “アナーヒターSP”が後退すると同時に、“デュナミス”を搭載した10機のエアバイク型支援機“ガルガリン”が合流し、レクシーが乗る“カマエルヴァイス”と横向一列に並び陣形を組み始める。


 “カマエルヴァイス”は背部ユニットである4枚の翼のうち、副翼の一枚が《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》を撃つことができる大砲カノンへと変形した。


『――間もなく有効射程距離に入りマス。発射タイミングは、レクシー少尉へ』


『あいわかった、ホタル殿ッ! 全機、撃てぇファイア――ッ!!!』


 レクシーの号令と共に、“カマエルヴァイス”と“ガルガリン”は一斉に火を噴く。

 漆黒の宇宙に蒼白く高出力エネルギーが数条の奔流となり疾走した。


 遥か彼方から眩い閃光が弾け飛び大きな広がりを見せている。


『全弾命中ッ! 敵の損失拡大しておりマス! 初弾の先制攻撃を含め、200体以上の撃沈に成功しまシタ!』


『うむ……予想以上の戦果だ。これなら“サンダルフォン”がいなくてもいけるな!』


 ホタルの報告に、レクシーは微笑みそう確信した。


 彼女の言う通りだ。

 少し前と比較し、大幅に戦力が増強されていると感じる。

 FESMフェスムが何かしらの進化しつつあるにせよ、人類側とて決して遅れを取ることはない。寧ろ、その先を超えていると理解した。

 

 今回ばかりは、俺が休んで正解だったかもしれない。

 見せ場を奪われた感じで、ちょっぴり複雑な心境もあるけどね。


 それから、他のAGアークギア隊が合流し、残った敵の掃討戦が開始される。


 既に勢いづいている友軍は危なげのない、安定した戦いぶりを見せていた。

 次々と小型FESM級インプ中型FESM級サタネルが撃ち墜とされ数を減らしている。


 13体いたとされる、大型FESM級マラークは桜夢とレクシー達の活躍で、既に半分ほど数を減らしていた。

 それ以降も“アナーヒターSP”と“カマエルヴァイス”、“ガルガリン”隊の連携と集中攻撃で次々と撃破した。



 大型FESM級マラークが残り1体となった頃。


『ん? あれは――』


 レクシーが逸早く何かに気づく。


 FESMフェスム達の動きが変わっていた。

 まるで餌を求める小魚のように、小型FESM級インプ中型FESM級サタネル大型FESM級マラークを中心に集まり身を寄せ始めている。

 さらに互いの肉体が重なり合い融合し始める。複数存在した敵数が一つの個体へと変貌を遂げようとしていた。


『な、なんなの……一体?』


 桜夢を含む、他のAGアークギア機は何が始まろうとしているのか理解できないでいる。



「あれは……そうか――“奇態FESMフェスム”だ」


 モニター越しで眺めている俺は、その異様な現象の正体に気づく。

 仮面メイドの操作で映像は拡大され、よりそうだと確信した。


 以前は中型FESM級サタネルを中心としていたが、今回は大型FESM級マラークが主体だ。

 したがって、その大きさはあの時の比ではない。


 煌々と紅く光る巨躯、おそらく戦艦“ミカエル”を有に超えるだろう。

 全体が幾つも腫脹のような隆起で覆われている醜悪さは前回と変わらず、いやより歪さを増している。

 無数に生えた触手をくねらせ、顕現した進化を誇示するかのように見えた。



『怯むな、撃てぇ!』


 “ガルガリン”に跨る“デュナミス”の隊長機が叫び鼓舞する。

 全機が一斉に《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》を放つ。


 “奇態FESMフェスム”の全身を覆う触手に命中し、砕き破損させるも肝心の肉体には届かない。

 しかも霊粒子エーテル系の一撃にもかかわらず、異常な再生能力ですぐに生えてしまっている。


『だ、駄目だ! 攻撃が通じない!』


『しかも弾切れだ! クソォッ!』


『各機退けぇ! ここから離れろ!』


 隊長機が指示した。

 すると、“奇態FESMフェスム”守っていた触手の先端部分が花弁の如く開かれ、レクシー達AGアークギアへと向けられる。


『不味い! 《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》だ! 散らばれぇぇぇ!!!』


 レクシーが叫んだ瞬間、無数の触手から超高出力のエネルギーが放射された。

 その熱量と威力は間違いなく、主力戦艦の《超巨大霊粒子破壊砲ハイメガ・エーテルブラスト》並みだと予想される。


 レクシーと桜夢が駆るAGアークギアは最新鋭の機体だけあり、本人たちの技能も重なり、ギリギリだか回避することができた。


 “ガルガリン”隊も高機動性を活かし、各機が散らばりながら射程から離れて退避する。


『ぐわぁっ!』


『駄目だ――!』


 しかし周りにいた通常の“エクシア”と“デュナミス”は躱しきれず、その出鱈目な凶砲に巻き込まれ、儚く散っていった。


 より巨大になった分、放出されるエネルギーの破壊力が増した印象を受ける。

 唯一の欠点らしき部分は、戦艦“ミカエル”に比べ射程距離が短く攻撃範囲が狭いことだ。

 おそらく、触手同士が巻き添えにならないよう何かしらの制御が施されているのだろう。


『おのれぇ! このまま好きにやらせんぞ――ホタル殿、例の《KABRAカブラシステム》を使う!』


『NO。レクシー少尉、現状で《KABRAカブラシステム》を発動させても、単機で“奇態FESMフェスム”を撃破できる確率は低いデス。お勧めいたしまセン……“サンダルフォンMk-Ⅱ”なら《レギオンアタック》で突破口を開けそうデスガ……』


 “カマエルヴァイス”は“サンダルフォン”の兄弟機とはいえ、超高性能電脳AIであるホタルを必要とされる機能はカットされた機体だ。

 まだ使用したことのない《KABRAカブラシステム》といい、未知なる敵の存在も合わせ、不安要素が多すぎる。

 ホタルが懸念する気持ちもわからなくもない。


『大丈夫だ、ホタル殿! 私は一人じゃない! 星月、フォローを頼む。その機体なら、まだ《霊粒子破壊砲エーテルブラスト》が撃てる筈だ!』


『はい、少尉! こちらは問題ありません! ライフルの冷却モードも終わり、6発撃つことができます!』


 “アナーヒターSP”は実質、“サンダルフォン”と同じ霊粒子動力炉エーテルリアクターを2基も搭載し、1基は狙撃ライフル用のカートリッジ的な役割として独立しているため、銃砲身さえ冷却すればほぼ無尽蔵に射撃することができる万能ぶりだ。


『よし! 後は“ガルガリン”隊にお願いがあるのですが……』


 レクシーは隊長機に作戦内容を伝えている。


 その内容を聞いた直後――。



「なぁ、なんですってぇぇぇ!!!?」


 真っ先に驚愕したのは現場のパイロット達じゃない。


 俺の隣で観賞していた、イリーナがソファーから立ち上がり叫んでいた。



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