第115話 セフィロト文化祭の開催
ぱっと見誰かわからなかったけど、映像でちゃんとアイドルしていたアラン大尉で間違いない。
前に会った時は猫背で根暗そうだったのに、今は背筋を伸ばした涼しそうなイケメンだ。
仲間である筈の彼に横槍を入れられた、マッケン提督は顔を顰める。
「アラン大尉……どうしてここに? 貴官はオリバー中佐と控室にいたのではないのかね?」
「いえね……なんだか空気が悪いので脱出してきました。オリバー副艦長、爽やかに何度も話しかけてくるんで……なんか面倒臭くなって、つい。上官とはいえ、陽キャが苦手なものでして」
容貌は抜群のアイドル風なのに、言動はやっぱりネガティブな大尉だ。
「……にしても大人気ないとは心外ではないかね、アラン大尉。これは立派な戦略的交渉だよ。ショーとは最後のトリを務めた方が心象に残り票を獲得されやすいものだろ?」
マッケン提督は先程のチャライ口調とは打って変わって渋みのある声で説いてくる。
どうやらこちらの方が本来の姿であるようだ。
「だとしてもです、マッケン提督。こんな学生達相手にやることじゃないでしょ? パワハラは艦隊だけにしてください」
あれ? 何だろう……アイドルの格好をしているからか、きっぱり言い切るアラン大尉がカッコ良く見えてきたぞ。
「ぐぬぅ……アラン大尉。ワシに向かって、ただで済むと思っているのか?」
「おっ、降格あるいは解雇ですか? 嬉しいですね。今すぐにでもどうぞ。僕は元々
塩顔系のアイドルフェイスとは裏腹に、不敵に微笑むアラン大尉。
ネガティブを通り越して病んでいると思う。
マッケン提督は口を閉ざし、「ぐぬぅ……」と唸り声を発した。
仮にも相手は『影のエース』また『回避王』と称されるパイロット。
人手不足を抱えるゼピュロス艦隊の事情において、大した理由もなく有能なパイロットを無闇に辞めさせるわけにもいかない。
それこそ他艦隊から示しがつかないだろう。
「……いいだろう、アラン大尉。ならばワシの『オリバー&アラン』は先手必勝で行こうじゃないか。その代わり、最高のパフォーマンスを見せてくれよ!」
「言われなくてもです。『お祭り好き』のしょーもない上官とはいえ命令である以上、従うのが軍人。なんとも因果な職業ですが今の時代やむを得ないでしょう……ちなみに僕は提督のモノではないですからね」
アラン大尉に気持ちいいほどバッサリ斬られ、マッケン提督は厳しい表情を浮かべたまま踵返し足早に去って行った。
「あ~あ、背中が痛い……早く矯正ベルトを外したいですよ、ったく」
舌打ちしながら、アラン大尉は自分の背中を擦っている。
どうやら猫背を矯正させるようにベルトを装着させられているようだ。
「あのぅ、アラン大尉。譲って頂きありがとうございます!」
俺は敬礼しながらお礼を伝える。
彼のおかげで『
アラン大尉は俺に視線を向けるなり、ニコッと爽やかに微笑む。
イケメンなので、ついドキっとしてしまう。
男同士なのに、俺って大丈夫だろうか?
「気にしないでください。こちらが大人気なかったのは事実ですから……それに一目見て、キミのことが気になったものでしてね、黒縁眼鏡君」
「ぼ、僕のことですか?」
なんだろ……まさか、この人って実はそっち系なのか!?
疑惑のアラン大尉は嬉しそうに頷く。
「ええ……なんか僕と同じ匂いがしましてね。あの『黒騎士』さんと同様に孤独を愛するロンリー的な。その気持ち、どうか忘れないでくださいね」
いや、別に俺、孤独を愛してねーし。
独りでいるのが多いのはストレスが溜まりやすい脳の障害からで、今はぼっちじゃねーし。
その気持ちを忘れないでねって、何、孤独を心の支えっぽくしようとしてんの?
結局二度も同類と見なされ気に入られてしまった、俺。
実は偽りじゃなく本当に陰キャぼっち性質があるのかな……?
アラン大尉は「それじゃ」と軽く手を振って颯爽とどこかへ行ってしまった。
結構カッコいい去り際なのに、素直に認めたくない自分がいるのは何故だろう……。
「弐織……オレぇ、アラン大尉の見る目が変わったかもしれない」
「う、うん……まぁね」
ハヤタの感想に一応は納得する。
きっとネガティブで投げ遣りな分、出世欲もないからある意味で無敵キャラなのだろう。
でなければいくら優秀なパイロットだろうと縦社会である軍隊において、普通は提督相手にあそこまで言えないからな……。
まぁ、とりあえずライブのトリをゲットしたことだし、イリーナ達のところに戻ることにしょう。
「……そう、アラン大尉ってそういうところもあるのね。とにかくご苦労だったわ、二人共ありがと」
控室にて、さっき件をイリーナに報告する。
宇宙アイドル『
そんなイリーナから感謝の言葉が述べられ、俺は微笑み頷いて見せる。
「ああ、変わり者だけど悪い人じゃないってことだけはわかったよ。結構まともなこと言ってたし」
「確かにアラン大尉は人間不信なところがあるが、真っすぐで優しいところもある。特に子供にはな……なんでも彼は地球育ちの孤児院出身らしい。時折、育った施設に寄付していると聞いたことがある」
「本当ですか、レクシー先輩? 誰から?」
「ああ、今は亡きロート少佐からだ。アラン大尉のパイロットセンスに逸早く気づき、操縦訓練科に引っ張ったのはロート少佐だと話されていた。ちなみにエウロス艦隊のルドガー大尉とも同期だったそうだ」
そういえば本人もそんなこと言っていたな。
だとしたら、めちゃくちゃ善人じゃないか。
なんか変人扱いして悪かったな……いや、藁人形所持してたしやっぱり変人か。
「どちらにせよ、アラン大尉に借りができたのには変わりないわね。けど、この勝負だけは譲れないわ……お祭り男のマッケン提督の好きなようにはさせないためにもね!」
「イリーナ社長の言う通りよ! ここであたし達が負けたら、あのマッケン提督のこと……調子に乗って『マッケン・カーニバル』を前面に押し出してくるに決まっているんだから!」
上司の性格を良く知る、セシリアが拳を握りしめ断言する。
「ワタシィも嫌ネ! あんな曲に救われても嬉しくないヨ! 寧ろ語り継げない恥ネ!」
「……あれはないよね。みんなの、いえ人類の輝く音楽史のために頑張るわ!」
シャオとリズが珍しく気合いを入れている。
余程、『マッケン・カーニバル』が嫌なのだろう。気持ちは痛いほどわかる。
「私も乗り掛かった舟だ! あれから皆の足手まといにならぬよう必死で練習もしてきた! やるからには必ず勝つ! それがガルシア家だ!」
「はい、レクシー中尉ッ! それじゃ、みんなで円陣を組んで一致団結しましょう!」
桜夢の呼び掛けにより、メンバー全員が互いの肩を組み一つの輪となり始める。
「「「「「「
気合いを入れ一体となった、その華やかな姿はまさに天使達。
と、尊い……。
グループ結成する前から関わってきた分、そう思った。
彼女達のこれまでの苦労というか頑張りが走馬灯のように過り、つい感傷的となり目頭が熱くさせてしまう。
――彼女達なら、きっと大丈夫だ。
俺はそう確信した。
そして、ついに『セフィロト文化祭』が開催される。
前評判もあり、アリーナ会場は満杯となり大勢の人達で賑わっていた。
会場に入りきれない人は、野外に設置された立体映像でリアルタイムに観賞することができる。
派手なレーザー光線と爆発による演出と共に、先陣を務める宇宙アイドルの男性デュオ、『オリバー&アレン』がステージに登場した。
熱唱するのは彼らのデビュー曲――
息の合ったダンスとデュエット、見事なパフォーマンスを披露する。
とても不仲説(実際に不仲だけど)があるとは思えない。
特にアラン大尉は普段のネガティブさを微塵も感じさせないキレキレのアイドルぶりだ。
優秀なパイロットだけに運動神経が良いらしい。
会場は一気に湧き上がり歓声が湧き上がる。
俺とハヤタは次に歌うため出番待ちする『
曲が終わり、割れんばかりの大歓声と拍手喝采が湧き上がる。
特に女子達から黄色い声援が多いと思えた。
……やべぇじゃん。もしかして先に歌った方が良かったか?
自分が歌うわけじゃないのにプレッシャーで圧倒されそうだ。
ステージから『オリバー&アラン』の二人がファンに向けて手を振りながら、裏側へと戻ってきた。
「――キミは、弐織 カムイか!?」
たまたまオリバー副艦長と目が合ってしまった。
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