第25話 教官からの告白
前回の戦闘が理由なのか不明だが、忽然とレクシーに呼び出された俺。
放課後となり、彼女から指定を受けた場所へと向かった。
専用の高速モノレールに乗れば5分程度で到着できる場所だ。
駐屯基地がある
確かセシリア艦長など上級士官も、この地区で暮らしている筈だ。
だけどレクシーは士官を目指せる優秀な准尉とはいえ、まだ学徒兵である。
あまり縁のなさそうな所だけどな。
さらに、
「……ここって、喫茶店?」
俺は煉瓦調の建物前に立ち呟いた。
ここが待ち合わせ場所だって? 意外すぎて拍子抜けしてしまう。
てっきり人気のない裏校舎的な空き地とか廃墟地だと思ったからな。
誰も見てないところで、ヤキ入れてやるぞ的な。
まぁ、あの潔いレクシー教官に限ってだけど……。
しかし、随分とアンティークっぽく小洒落た店じゃないか。
恐る恐る店内へと入る。
お洒落なBGMが流れており、レトロで落ち着いた空間だ。
如何にも俺の脳に優しい店なのは確かだ。
結構、流行っているのか平日の割には客が多い。
おそらくは非番の軍人達だろうか。
「ここだ、弐織!」
「あっ、はい」
窓際の席で、学生服姿のレクシーが手を振っている。
俺は特に警戒することなく近づいた。
「よく来てくれた、まずは座ってくれ」
レクシーに勧められるまま、向かい側の席に座る。
その明るい表情と口調から怒っている様子は見られない。
どうやら杞憂だったようだ。
ったく、クラスの連中が煽りやがるから……。
だとしたら俺に一体何の話があるんだろう?
「弐織、何か飲むか?」
「じゃあ、ココアで……」
脳を落ち着かせるためによく愛用している飲み物である。
なんでもリラックス効果を生むテオブロミンや、食物繊維のリグニン、カルシウム、マグネシウムなどの微量ミネラル類が含まれるらしい。
テーブルにコーヒーとココアが置かれた。
俺は「いただきます」と言いながら、カップに口をつける。
ちらりと向かい側の先輩を見つめてみた。
レクシーは普段見られないほど、落ち着かずそわそわしている。
こちらをチラ見しながら切れ長の瞳を泳がせいるじゃないか。
やっぱり様子が変だぞ。
でもヤキ入るとか怒られるとかの雰囲気じゃないのは確かだな。
「すまんな、弐織。急に呼び出して……」
「い、いえ……それで教官、僕になんの用でしょうか?」
「……あの時と口調が違うな。私は素であるキミの方が良いと思うがな」
!?
まさか、この女……俺を呼び出した理由って。
「きょ、教官の仰っている意味がわかりませんが……?」
「レクシーだ。そう呼んでほしい」
「はい、レクシー先輩」
「先輩か……まぁ、いいだろう。率直に言うと、私は以前からキミとこうしてじっくり話してみたいと思っていたのだ」
「僕とですか?」
レクシーは頷く。
そして他席ではBGMに消されて聞こえないであろう、そんな小声で彼女はこう言ってくる。
「――弐織、キミが黒いAG、いや“サンダルフォン”のパイロットなんだろ?」
キタわ、これ。
ついにバレちまった。
しかしこんなことで動揺するほど、俺のメンタルはやわじゃない。
ストレスは溜まりやすいが、こういう探り合いでは強い方だと自負している。
でないと、極秘裏で“サンダルフォン”のパイロットなんてやってられないからな。
「……まさか。だとしたら昨日の戦闘で僕が二人いるってことになるじゃないですか?」
「確かにな。キミが乗っていた“エクシア”の記録も見させてもらったが、機械トラブルを起こし戦線離脱した後も、回収されたヘルメス社のドックまで操縦席に座っていた映像がある。星月と共にな」
きっとイリーナが施してくれた
実際に操縦席にいたのは、桜夢だけだったからな。
その映像は記録ごと書き換えられたに違いない。
「だったら……」
「しかしヘルメス社なら細工することなど造作もないだろう。あの“サンダルフォン”がヘルメス社製で造られた試作AGなら機密情報目的で改竄されていても頷ける」
ズバリ言い当てる、レクシー。
どうやら俺はこの女子を侮っていたかもしれない。
エースパイロットになる器があるのか、読みが鋭すぎる。
だが、ここでぶっちゃけるわけにはいかない。
俺だけの問題じゃない、イリーナにも迷惑を掛けてしまうからだ。
再びカップを唇につけ、ココアを口に含ませる。
まずは脳を落ち着かせようと試みた。
「……よくわかりません。仮にそうだとして、レクシー先輩は僕をどうしたいんです?」
「私とつきあってほしい」
「ブーッ!」
思わずココアを吐き出してしまった。
つーか、いきなり何を言い出すんだよ、この先輩は!?
「つ、付き合う!? お、俺……いや、僕と!?」
「そうだ。私はキミのことが知りたい。どうしてあんなオーバースペックな機体をあそこまで乗りこなせるのか……それにあの操縦技術、特に回避能力が素晴らしい! どうしたら、あんなことが可能なのか知りたいんだ!」
レクシーは幼女のように瞳を輝かせる。
まるで憧れのヒーローを見るような眼差しだ。
んなこと言ったって……半分以上は病気の副作用でやっているようなもんだしな。
半壊した脳を再生したって、誰もが同じ状態になれるわけじゃない。
俺は偶然のたまたまで、そうなってしまったんだ。
だから、イリーナの親父さんことヴィクトリアさんから「キミは奇跡の産物だが、軍や民には追及しようとバカな人間も多い。あえて同じ状態で人体実験する輩も出るに違いない。キミの存在は明るみにしない方がいいだろう」って話していたんだ。
下手をすれば俺もモルモット扱い受けるかもしれない。
そうならないよう、こうして極秘パイロット扱いとなった背景がある。
だからこそ、迂闊にバレるわけには……。
ふとレクシーは身を乗り出し、両手で俺の手を握ってきた。
きめ細かな柔らかい指がふわっと包み、俺の指に絡む。
「せ、先輩!?」
「弐織……返事を聞かせてほしい! どうか私とつきあってくれないか!?」
潤んだ瞳で懇願してくる、レクシー先輩。次第に声も大きくなっている。
この美人顔で、この表情と攻め方は絶対に卑怯だと思う。
おまけの大きくて柔らかそうな両胸がテーブルの上に乗って、制服越しでもくっきりと艶めかしい形がわかる。
おかげで余計もやもやしてしまうじゃないか。
俺の心臓ばバクバクと飛び跳ね上がる。
クソッ!
いっそ、胸ぐら掴んで「正直に吐けよ、コラァ!」と武力行使してくれた方がどんなに楽なことか。
そんな頬を染めた泣きそうな表情……無下に断れないじゃないか。
もう反則だっつーの!
あ、頭が……脳が熱い。
ストレスじゃなく、別な作用が働いているような気がする。
これってピンチと言えるのかわからない。
でも困る……いや困っているのか?
顔中が火照り耳元まで赤くなっているのがわかる。
心臓が躍るように、より早く跳ね上がる。
血液が加速して、このまま心臓が破裂してしまうのではないだろうか。
は、初めて女子に告白されてしまった……クラスで陰キャぼっちと言われているこの俺が。
よりよって教官で先輩である、レクシー・ガルシアに……。
こんな綺麗な女子に……俺が。
やばい……どうしょう。
なんて返事したらいいんだ?
「お、俺は……」
ガタン!
俺が何か言おうとした瞬間、後ろの席で座っていた誰かが勢いよく立ち上がった。
あまりにも凄い物音に、誰もが注目してしまう。
「ちょっと待ったーっ! ガルシア准尉! 貴女、さっきから何言ってんのよぉ!?」
凄く聞き覚えのある声だった。
俺は振り向くと、そこには『
てか、なんで艦長がこんな所にいるんだよぉ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます