2bit ITって……!

 駄菓子屋から家に帰る途中、電車の中で糸はスマホをぼんやりと眺めていた。


 電車に乗っている人のほとんどは同じようにスマホをいじっている。


 『政治家の汚職を明らかにする文書がネットに大量流出! 政界大混乱!』


 『SNSいじめ相談件数増加の一途を辿る。 匿名を盾に、気軽に誹謗中傷』


 『AIによる自動コーディネートで、毎日のお出かけをもっとラクに!』


 すごいなぁ……、ITって。


 糸はニュースアプリに記載されているタイトルを読みながらそう感じた。


 いまやITはどの分野においても活用され、もはや切っても切れない存在となっている。


 ぼやっとしている間に、電子決済でしか買い物をすることができない駄菓子屋も誕生していた。


 でも、ITってゼッタイ難しいだろうし……。


 糸はスマホから目をらす。


 車窓からは、夕焼けに染まる柔らかな雲を望むことができた。


 今までパソコンでさえろくに触ったことのない糸にとって、ITはいわば雲のようなものだった。


 目に見えるけれど、決して掴むことができない、ような。


 興味はあるんだけれど……、あっ。


 指の力が抜けたせいで、糸はスマホの画面をタップしてしまった。


 すかさずスマホの画面に視線を戻すと、どうやらニュースアプリに表示されていたバナー広告をタップしていたらしい。


 やがて、画面にはある広告が映し出された。


 『ITを知りたければ、MANIACへ!!』


 マニアック……? 

 

 ITを学べるセミナー……。


 あ、うちの近所で受講できるんだ。


 え、講師に気に入られれば受講料無料…?


 あ、怪しい……。


 そう思いながらも、なぜか糸はその広告を消すことができなかった。


 今日、晩ご飯を食べながらそれとなく話してみようかな。


 糸の降りる駅の名前を告げるアナウンスが、電車に揺られながら流れた。

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