143bit 盤上の黒白
「真衣ちゃんってばもう始めちゃっているし……ってKoiは自動的に石を置いてくれるはずだけど」
雛乃が言い終えたと同時に白い石がフィールド上にパシリと置かれた。
黒い石が一つだけひっくり返る。
「やっぱりね。 Koiの判断処理は早ければすぐだし、遅くても十秒かからないくらいだよ」
「うーむ……」
真衣は画面を見つめながら首を
しばらくの後、黒い石が白い石の斜めに置かれる。
その白い石は暗い
しかし、次に投入された白い石が
「さっきの捕捉だけど、Koiは過去開催されたオセロ大会の対戦記録を大量に読み込ませて、勝てそうな石の配置を学習している。 さらに、Koiは自分のゴーストと仮想的に何万回もの対戦を繰り返したから、より勝てそうな手を瞬時に選ぶ、いわば直観力も磨かれているんだよ」
新規の黒い石が、既存の白い石を
既存の黒い石が、新規の白い石により寝返る。
「真衣ちゃんにビギナーズラックの可能性もなくはないけど、果たしてプロオセロプレイヤーを軽々と打ち負かす力があるKoiに通用するかな」
「……」
オセロをしているわけではない雛乃の余裕げな言動に引き換え、真衣はだんだんと口数が減り、とうとうパソコンの画面からほとんど目も逸らさなくなっていた。
「真衣ちゃん……」
草原にせめぎ合う光と闇。
オセロにそこまで詳しくない糸は、どちらが優勢か劣勢かもわからぬままその行方をただ見届けることしかできない。
その時点である色の方が多かったとしても。
少し時間が経てば、違う色の方が多くなっていたりして。
ちょっとしたことがきっかけでコロッと変わってしまう。
まるで、人の心みたいだ。
「心配無用だよ、糸」
声を掛けられた糸はハッとして横に視線をずらした。
「私を誰だと思っているの」
糸の目に映るのは、才色兼備で奇天烈ないつもの姿。
真っ直ぐ長い黒髪は、恐怖すらも感じさせるほどに、麗しかった。
攻防が繰り広げられる盤上で、スペースは残りわずか。
オセロはその性質上、終盤に差し掛かるともう結末がわかりきってしまう場合と、まだまだわからない場合の二通りがある。
今回は、前者だった。
彼女の唇が弧を描く。
一方で、彼女の瞳は絶句する。
最後の正方形に、円が重なって。
白黒はっきりした瞬間が訪れた。
「……私、負けたの……?」
「やったぁ! 勝った! 勝ったよ雛乃!」
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