144bit オーマイゴッド

 

 真衣はスマホのカメラをディスプレイに向け、パシャリと写真を撮った。


 黒い水面の湖と、そこに揺蕩たゆたう白い泡。


 その景色は、真衣の勝利をたたえていた。


 「私が……、Koiが負けるなんて……。 きっとKoiは故障しているんだ、発言もでたらめになっている」


 Koiは敗戦したにもかかわらず、勝った勝ったと言っていた。


 糸も英美里もうまく状況を飲み込めていない。


 ことの全貌を把握しているのは今のところただ一人だけ。


 「Koiは壊れてなんかいないよ。 むしろ大健闘してくれた」


 真衣はマウスをちょこまかと動かす。


 悠然とたたずんでいた湖がディスプレイから消え、オセロはリセットされた。


 「真衣ちゃん……さてはKoiに何か仕込んだ?」


 雛乃の疑惑の目が真衣に向けられる。


 「そんなことはしていない。 というより、システム上できないよ。 それは雛乃が一番よくわかっているでしょ?」


 真衣の的を射た言葉に雛乃はぐうの音も出ない。


 「だけど『オセロゲーム』になら細工を仕掛けることが容易くできた。 雛乃、急ごしらえでゲームを作ったって言っていたものね」


 「まさか……Koiではなくゲームの方を改造したということ……?!」


 「大当たり」


 真衣は鷹揚に足を組んだ。


 「ポイントは二つ。 まずはKoiの操作をゲーム側で遅延させたこと。 そうすることで、Koiが石を置く場所を高速に決めたとしても、実際にKoiの入力がゲームに反映されて石が置かれるのは数十秒後になる」


 「……ん? ちょっと待って真衣ちゃん」


 真衣の語りに糸が割って入った。


 「さっきのゲーム、白い石はスパスパと置かれていたけど、真衣ちゃんの話が本当だとするなら、白い石はもっと遅れて置かれるんじゃないの?」


 「そうだよ糸。 糸の言うとおり白い石はゆっくり時間を使いながら置かれる。 もしもKoiが白い石を操作していたならね」


 「もしもも何も、Koiちゃんはずっと白い石を使ってい……」


 たはずだけど……?


 「ここでもう一つのポイント。 それは、白と黒の意味を逆転させたこと。 つまり、ゲームの中では白を"black"とし、黒を"white"にした。 ということは、今までKoiがホワイトだと命令されて動かしていたのは?」


 「白い石ではなく、黒い石……」


 真衣の仕組んだ巧妙なトリックにいち早く気づいたのは雛乃だった。


 「私は、白と黒の新しい概念を創ったの」


 オセロの世界では、白い宇宙が青い地球を囲み、黒い雪が緑野に降り積もる。 


 そんなあべこべな世界で、真衣は唯一無二の創造主となっていた。

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