60bit 淋しい夢


 「ふにゅぁ~、よく寝たぁ~、ってあれ、ハジメさん、なんで倒れているんですか?」


 先ほどまで寝ていた雛乃が目をこすりながら言う。


 「真衣は穿うがった目でこちらを見ているし、雛乃ちゃんは話聞いてないし」


 ハジメは両手と両膝を床についた状態のままボソボソと呟いている。


 「糸っちは……ちんちくりんだし」


 「ハジメさん、余計なことまで言ってませんか」


 糸はすかさず指摘した。


 「ハジメちゃん、みんな可愛げがあっていいじゃない。 ……でも、やっぱり英美里さんもいないと……」


 シズクは言いながら倒れているハジメの両脇を抱え込む。


 「あとはあなたたちにおまかせします。 私たちはこれで」


 そう言うと、シズクはハジメを引きずりながら部屋を出ていってしまった。


 「いったい何があったんだ……」


 雛乃は戸惑いの表情をしている。


 「雛乃ちゃんはぐっすり寝ていたからね……って、いつから寝てたの!? 結構シリアスな場面だったよね?!」


 「あえっ? ハジメさんが覚悟云々うんぬんって言ってたときにはもう落ちかけていたかな……」


 ハジメさんに覚悟はあるか聞かれたとき、たしか雛乃ちゃんは頷いていたはずだけど……あれはただの居眠りだったのか……。


 「じゃあ、英美里ちゃんの話まったくきいていなかったってことになるよね」


 雛乃ちゃんに一から説明しなければ……。


 「あ、でも夢を見ていたんだよ。 映画館の中にいる夢。 その夢ではハジメさんがスクリーンの端に立ってて。 そしてスクリーンに映像が流れ始めて、音はなかったんだけど、ハジメさんが映像をあれこれ説明していたんだよ。 映像には英美里ちゃんが映っていて、動画を友達と撮りながら笑っていたり、かと思えば辛辣しんらつなコメントを目の当たりにして茫然ぼうぜんとしていたり……なんというか、とてもさびしい夢だった」


 「雛乃ちゃん……ハジメさんが語っていたこと、夢の中でちゃんと再現されていたみたいだよ……」


 「え、そうなの? あれが英美里ちゃんの過去なの?」


 「たぶん……」


 「そういえば、目が覚める直前にハジメさんがドヤ顔をしていたんだよね。 私は英美里ちゃんのことを何でも知っているんだぞ!みたいな。 思わずハジメさんってドヘンタイだなって思っちゃった」


 「そのくだりもあったんだ……」

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