59bit たまたま知っていただけ!


 「とまぁ、こんな出来事があったんだよ」


 英美里の過去についてひと通り話し終えたハジメは、隣にいるシズクをちらりと見た。


 シズクは何も言わずに小さく頷く。


 「英美里ちゃん……」


 糸は言いかけたものの、うまく二の句が継げなかった。


 人気歌い手としての英美里ちゃんは、その裏で色々なものを犠牲にしていた。


 高校に通えていないのは、きっと過去に受けた心ない言葉たちのせいだろう。


 友だちと撮影した動画の存在も、今は誰にも知られたくないに違いない。


 そして、英美里ちゃんがMANIACから離れようとしている理由。


 それは、再び悪夢のような出来事が起きてしまうことを恐れているから、ではないだろうか。


 自分も英美里ちゃんと同じ立場だったら。


 英美里ちゃんと同じ行動をとるかもしれない。


 「英美里にそんなことがあったんですね。 正直驚いてます」


 唐突に言ったのは真衣だった。


 「ですが、もっと驚いていることがあって、それは……」


 真衣の発言後、数秒のが過ぎた。


 「なんでハジメさんもシズクさんも英美里のことそんなに知っているんですか? 怪しい、怪しすぎます。 もしかして二人はストーカーなんじゃ?」


 真衣は早口でまくし立てた。


 「ス、ストーカー?! ち、違うよ! たまたま知っていただけ!」


 いきなりストーカー疑惑をかけられたハジメはオドオドしながら否定した。


 そして、慌ててジスクの方を向き、目で助けの合図を送る。


 しかし、シズクはニッコリとほほ笑んだまま何も言わない。


 「ちょっとシズク! なんで満面の笑みなんだ! ちょっとは否定して……って駄目だ、シズク完全に楽しんでる。 この状況を完全に楽しんでるよ」


 「私がハッキングしようとしていたことも知っていましたし、英美里についても詳しすぎます。 ハジメさんとシズクさん、いったいどんな手を使ってストーカー行為をしているんですか」


 あれ、話が思わぬ方向に進んでいるような……。


 糸はそう感じ、先ほどからずっと無言を貫いている雛乃を見た。


 雛乃ちゃんなら話の軌道をもとに戻してくれるかもしれな……。


 雛乃は目をつむりながらコックリコックリと頭を揺らしている。


 ね、寝てるーーー!! 


 い、いつから!?


 「ああもうわかったわかった!! 私たちはストーカーですよストーカー」


 ハジメはほとんど投げやりの状態だった。


 「そうですか。 ハジメさんって……ドヘンタイですね」


 真衣が重みのある声で言い放つ。


 「ド、ドヘンタイ……」


 ハジメは膝からガックリと崩れ落ちた。

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