107bit 私たちだけで


真衣ちゃんであれば、すんなりと引き受けてくれると思ったのに。


 糸の想定とは裏腹に、真衣は意外な反応をみせた。


 「私の時も、英美里の時もそうだったけど、あの二人、異常なまでに私たちのことを知り尽くしていたから、イクラお嬢さんの情報も豊富に蓄えているかもよ」


 真衣ちゃんの提案も一理ある。


 情報収集というワードで真っ先に思い浮かんだのは、真衣ちゃんとハジメさん、それからシズクさんの三人だった。


 正直、誰に頼んでも仕事をそつなくこなしてくれそうである。


 しかし、それでも真衣ちゃんを選んだのは。


 「今回は、私たちだけで解決したい。 ハジメさんやシズクさんの力を借りずに。 だってイクラちゃんは、私たちだけに依頼をしたんだから」


 糸は真衣に頭を下げて、もう一度お願いした。


 これで駄目だったら、しょうがないけれど……。


 「それで、どこまで調査すればいいの? イクラお嬢さんの誕生日からスリーサイズまで、何でもござれだけど」


 真衣ちゃん、乗り気になってくれた……!


 糸は安堵の溜め息をホッとついた。


 「ありがとう、真衣ちゃん。 でも……スリーサイズは調べなくて大丈夫! 良識の範囲内でね!」


 本気なのか冗談なのか怪しい真衣に、糸はとりあえず警告だけしておいた。


 「何かわかったら、MANIAChatで連絡して」


 「了解」


 真衣は軽く返事をすると、床に転がっていたバスケットボールをひょいと拾い、ドリブルで体育館のはしまで移動した。


 「英美里、パス!」


 いきなり真衣が英美里めがけてボールを飛ばす。


 「あわわっ!」


 びっくりしながらも英美里はうまくボールをキャッチした。


 「はい、真衣ちゃん!」


 お次は英美里が真衣に向かってボールを投げる。


 「たのしー! 糸ちゃんもやろー!」


 英美里が目をキラキラさせながら糸を誘った。


 英美里ちゃんと真衣ちゃん、こういう時は似た者同士なんだよなぁ。


 糸はホワホワした気分となりながらまなじりを下げる。


 次の瞬間。


 「ブォワッ?!」


 糸の顔面に無邪気なボールが直撃した。

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