161bit ラスト問題


 「ラスト問題? 私とKoiちゃんがどっちも正解したら、勝敗はつかないんじゃないの?」


 「うん。 でも、次の問題は必ずどちらか一方だけが正解する」


 「それって……、いったいどんな問題が……」


 「私の大切なものは、友情か、それとも愛情か」


 雛乃はそう言うと、あらかじめ用意していた罫線けいせんも絵柄もない無地の便箋びんせんと黒のボールペンを定点カメラに映るようにみせた。


 「今から答えをこの便箋に書くから、何と書いたかを当ててね」


 雛乃はモニターの置いてある机のはしに便箋を乗せ、ボールペンを走らせた。


 かくかくかくかく。


 書き終えると、文字が見えないように便箋を折り畳む。


 それを再びカメラの前に持ち上げた。


 「今、便箋に答えを書いたから。  あと、この問題は特別にシンキングタイムをあげる。 月曜日、お昼休みに学校の屋上に来て。 そこで答え合わせをしよう」


 「ちょっと待ちなさい」


 声を上げて雛乃を呼び止めたのは真衣だった。


 「第三問、絶対にKoiが勝つようになるでしょ」


 「えっ? どういうこと真衣ちゃん?」


 糸は疑問を投げかけた。


 「真衣ちゃんの言う通り、それだと雛乃ちゃんとKoiちゃんが口裏くちうら合わせできちゃう」


 英美里も真衣の意見に同調していた。


 「口裏合わせ……」


 「よく考えて糸。 今回の問題は、誕生日とかと違ってそれっぽい理由であればどちらも答えとなり得る。 もしも『友情』と『愛情』を二枚の便箋に分けて書いていたら。 わざと糸と異なる選択肢をKoiが選ぶように仕組んでいたら。 糸がどちらを答えたとしても、Koiが答えた方の便箋を答えにすれば、必然的にKoiが勝つの」


 つまり、第三問は出来レースであるということ。


 やっぱり真衣ちゃんと英美里ちゃんは勘づいてしまうよね。


 そうだよ、私はプログラムをいじることでKoiが何と答えるかを自由自在に操作できる。


 だから、糸が答えた方じゃない選択肢をKoiに選ばせ、それを正解にすることも……。


 「いや、雛乃ちゃんのルールで進めよう。 明日までに考えればいいんだよね」


 「糸ちゃん! それだと負けてしまうんだよ!」


 英美里が糸に強く警鐘を鳴らす。


 しかし、糸は意志は変わらなかった。


 「最初に雛乃ちゃんは言っていたよ、このゲームは私とKoiちゃんの戦いだって。 だから、私の判断でやりたい。 わがままでごめんね」


 「糸ちゃん……」


 「それに、雛乃ちゃんはそんなことしないよ。 だって雛乃ちゃん、オセロもカラオケも本当は勝てたんだよね?」


 尋ねられた雛乃はすぐに答えられなかった。


 「Koiちゃんが勝てるようにオセロのゲームを作ったり、Koiちゃんの歌声に100点をつけるよう採点システムを操ったり、雛乃ちゃんならできるはずだったんだよ。 だけど、あえてそうしなかった。 雛乃ちゃんは、最初から最後まで真剣勝負を貫くと思う」


 ……糸っち、その解釈は半分当たっていて、半分はずれている。


 この問題に限っては、少しだけ細工をするんだ。


 「糸っちが納得しているようだし、ルールはそのままで。 じゃあ、明日のお昼休みに、また」


 雛乃はリモート接続をプツンと切った。


 そして、白い便箋に目を向ける。


 便箋は、一枚だけじゃなかった。


 書き込んでいる文字も異なっている。


 Koiがどちらを選んでも正解となるように。


 だけど、それはあくまで糸っちが間違えた場合の話。


 もしも、たったひとつの答えに辿り着けたなら。


 あなたはKoiに、勝利できるよ。

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