160bit ずっとずっと待ち望んでいた言葉


 「どうして糸っちはBを選ばなかったの? 自分で言うのもなんだけど、私って賑やかな場所の方が好きそうじゃない?」


 「うーん人は見かけによらないというか……。 たしかに雛乃ちゃんは陽気で気さくな性格だから、Bかとも思ったんだけど、雛乃ちゃんって図書委員やっているでしょ? 本を読んでいるイメージはあまりないからどうしてだろ……、もしかして図書室の雰囲気が好きだから図書委員をやっているのかもって」


 そうか、今年の春に委員決めをした際、委員活動しながら合間を見つけて数学を解くことができるのをひらめき、勢いで図書委員になったんだ。


 「それに、この間鬼ごっこをしたときも雛乃ちゃんは真っ先にカフェへ行ったよね。 カフェも静かな場所のカテゴリーに入るから」


 深層心理が無意識のうちに行動として現れていたんだ。


 そこに糸っちは目をつけて……。


 私自身でさえ、気づかなかった部分を。


 「糸っちの推理通り、私は図書室とかカフェとか、そういう落ち着いた空間が好きなんだ。 どうしてかっていうと……」


 理由を述べようとして、雛乃は声を詰まらせた。


 それは、先ほどのトラウマがフラッシュバックしてしまったからだった。


 三人はどんな反応をするのかな。


 みんなと同じになっちゃうかな。


 「私、何かに没頭するのが好きで。 数学とか、研究とか。 だから、周りの静かな方が集中できて、気分も穏やかになる。 なんて、やっぱ変だよね。 柄にもないよね。 私みたいなお調子者には、似合わないよね」


 雛乃は自虐を交えてしか打ち明けることができなかった。

 

 「そう……かな。 私は雛乃ちゃんらしいと思うけど」


 「えっ」


 雛乃は思わず耳を疑った。


 ずっとずっと待ち望んでいた言葉なのに。


 こんなにもすんなりと聞けるなんて。


 「だって、雛乃ちゃんの集中力がすごいってことも、数学が得意だってことも、全部知った上で一緒にいたから」


 雛乃の目には、糸がその場しのぎの発言をしているようには見えなかった。


 糸っちは、気づいていたんだ。


 きっと、糸っちだけじゃなくて、真衣ちゃんも、英美里ちゃんも。


 「は、恥ずかしいから普段は言わないだけであって、私はそ、その、雛乃ちゃんのこといつも素敵だなー羨ましいなーって」


 糸は早口になりながら頰を赤らめていた。


 褒めちぎられているこっちまで、何だかとても照れくさくなる。


 雛乃は身体と心が少しずつぽかぽかと暖かくなっていくのを感じた。


 温度なんて、いつぶりに感じただろう。


 「ありがとう糸っち。 正解の理由も話したことだし、第二問はこれにて終了とするね。 そして、次は第三問なんだけど」


 雛乃はそこで口を閉じ、ある決意をした。


 オセロ対決やカラオケ対決とは違い、クイズ対決は両者が正解する限りいつまでも終わらない。


 でも、私がその気になれば。


 勝負の決着なんて、簡単につけられる。


 「第三問がラスト問題になるよ」

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