25bit 私、ここを辞めるわ


 この記事、どこかで見たような……。


 そうだ、いつか電車の中で開いていたニュースアプリに載っていたものだ。


 ただ、記事をよく読むと、以前からさらに事態は深刻になっているらしい。


 「パスワードとかアカウント情報を適当に管理していると、この政治家たちみたいに痛い目にうよ」


 「そ、そうだよね」


 雛乃はふざける素振りも見せずにしっかりと注意した。


 「ところで雛乃ちゃん、ハッカーって何? ハッカ飴が好きな人のこと?」


 「違うよ! まぁ、簡単に言えば他人のパソコンに勝手に侵入して、あれこれと悪さをする人のこと。 今回だと、政治家たちのプライベートな文書の情報を盗んで、公開した人をハッカーと呼んでいるんだろうね」


 「でも、それって悪いことなの?」


 糸がそう言うと、雛乃はぽかんと口を開けた。


 「悪いでしょ!! だって、個人情報を盗んで勝手に流出させちゃうんだよ?」


 「たしかにそれだけを切り取ると悪いなって思うんだけど、このハッカーは政治家たちの汚職を暴いたんだよね。 そもそも、政治家が悪いことをしていなければ、ハッカーもこんなこと、しなかったんじゃないかな」


 「理由はどうであれ、他人のパソコンに勝手に侵入するのも、取得した個人情報をみだりに公開するのも、許されないことだよ。 れっきとした犯罪行為」


 「犯罪行為……」


 雛乃のひと言に、糸はものすごい重みを感じた。


 ITの使い方を誤れば、犯罪者にもなり得る。


 「とにかく、糸っちはパスワードを変え……」


 雛乃がそう言いかけたとき、真衣が突然立ち上がった。


 「あれ? 真衣ちゃんどうしたの……?」


 真衣はうつむいたまま、両手を強く握っていた。


 「私、ここを辞めるわ」


 「えっ?! どういうこと?!」


 糸も雛乃も英美里も混乱するさなか、真衣だけひとり部屋の扉へ一直線に進んだ。

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