35bit 立場逆転?


 「では、失礼致します」


 律はもう一度お辞儀をすると、スタスタと廊下を歩いていった。


 「じゃあ、私たちも温泉に行こうか」


 ハジメが五人の先頭に立ち、慣れた足取りで進んでいく。


 やがて、紅い暖簾をくぐり脱衣所に到着した。


 各々がバラバラのロッカーの前に着く。


 糸は持っていたカバンをロッカーに仕舞い、着ている服を脱いでいった。


 しばらくして、糸の準備が整った。


 「よし、行こ……」


 糸が温泉の入り口に向かおうとしたとき、糸の視界に真衣の姿が映った。


 「よし、私も……ん? 糸、どうした?」


 「いや、どうしたって……真衣ちゃん、どうして水着なの?」


 真衣は片脇にビーチボールを挟んでいる。


 「私、人生で一度も温泉に来たことないんだけど……水着じゃないの?」


 「違うよっっ!!! ここはプールかっ!!」


 糸の渾身のツッコミが炸裂する。


 「糸っち準備できたー? って、真衣のその恰好はなに……」


 雛乃は呆れ顔でつぶやいた。


 どうやら雛乃ちゃんは『普通』らしい、糸は謎の安心感を覚える。


 「英美里ちゃんも準備できたかなー」


 糸がそう言うと、ちょうどロッカーの陰から英美里が出てきた。


 「おまたせ、準備できたよ」


 「遅かったね……って、なんでパーカーだけ着てるの」


 「え、パーカーだけは外せないかなって。 駄目なの?」


 「駄目だよっ!! パジャマがないからって彼氏に大きめのパーカーを借りた彼女かっ!!」


 「糸っち………これは……」


 糸と雛乃が顔を合わせる。


 思えば、真衣ちゃんはずっとパソコンの技術を磨いてきたみたいだし、英美里ちゃんは学校休みがちで……二人ともパソコンの技術はすごいけど、これってもしかして、二人の一般教養、えげつないのでは。


 「立場……逆転……?!」


 糸と雛乃は同時に頷き合った。

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