131bit 難しいロジック解き明かして
「今説明した方法を機械学習と呼ぶ。 ある物とその特徴をセットで教えながらAIを学習させていく、というのがポイントだね」
「雛乃ちゃん、ちょっと思ったんだけど、それって実はすごく大変じゃない?」
そう確認したのは英美里だった。
「チーターとヒョウの画像以外に、金魚の画像だったり鉄棒の画像があったなら、それらとの見分け方も教えないとAIは区別できないんだよね?」
人間なら無意識にわかることでも。
AIにはきちんと教えなければいけない。
となると、AIがこの世の森羅万象を認識するためには。
およそ天文学的な数の特徴を教える必要がある。
英美里は考えただけでゾッとしてしまった。
「そうなんだよ! 機械学習の致命的な欠点、それは特徴を一から十まで教えないといけないということ。 けれど、そんなことをしていたら時間がいくらあっても足りやしない。 だから、AIの研究は一時期
「一時期、ねぇ」
真衣は雛乃の含みある言い方に
「真衣ちゃん鋭い。 実のところその欠点はもう克服していてね。 じゃあどうやって克服したのか、今度は英美里ちゃんに手伝ってもらおう」
雛乃はまたスライドを動かした。
「英美里ちゃん、これは
「うん、真っ赤で美味しそうな林檎」
雛乃は英美里が画像を覚えたことを確認すると、すぐに次の画像へと切り替えた。
「お次、これは梨です」
「うん、洋梨じゃなくて、林檎と形が似ている方の梨だね」
「じゃあ、これはどっち?」
三枚目の果物は木に
「色が赤いし……林檎、だよね?」
「英美里ちゃんお見事大正解! 注目すべき特徴を教えずとも正解できたね。 糸っちとは大違い」
「いやっ! 難易度っ! 簡単すぎるよ!!」
糸はすかさず異議申し立てをする。
「今のはジョーク。 でも、二人のクイズにはある部分について明確な違いがあって。 それは私が注目すべき特徴を、教えたか、教えていないか」
タブレットがシンプルな単語を二語、映す。
『情報』と『特徴』。
しかし次の瞬間、『特徴』の文字に赤のバッテン印が付いた。
「詳しいメカニズムは省略するけど、AIもね、英美里ちゃんみたいにあるものとあるものを区別するにはどんな特徴に注目すればいいか、を独自に見つけられるようになったんだ。 すると、特徴を教えるという作業がたちまちぜーんぶ不必要になる。 すなわち、画像さえ用意すれば、後は放っておいてもAIは勝手に学習してくれる。 そしてAIは機械だから、人間なんて比べものにならないほどのスピードで特徴をぐんぐん吸収していって。 その結果、AIの判断能力は指数関数的にレベルアップした。 この仕組みこそ現在のAIブームを起こした立役者、その名もディープラーニング!」
雛乃は方程式を計算するかのように理路整然と説いていった。
「あの、雛乃先生……」
雛乃の勢いとは真逆にゆるゆると手を挙げて力なく声を出したのは糸だった。
「はい、なんでしょう」
「なんだかよくわからなくなってきたので、もう一度解説してもらっても……」
糸は申し訳なさそうにお願いした。
雛乃はふむと顎に手を掛ける。
機械学習もディープラーニングも、実はとっても高度で難しい内容。
こんがらがってしまうのも無理ない。
だけど、もしも理解できるようになったなら。
その難解なロジックを解き明かせたなら。
糸っちもきっとAIのことが。
「ノープロブレムだよ。 どこから解説しなおせばいい?」
「えっと……エーアイじゃなくてアイと読むのはどうしてか、あたりから」
「それって……はじめっからじゃん!!」
生徒、ご明算までほど遠く。
先生、ご破算で願いましては。
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