64bit 音のない夜


 部屋に備え付けてあるデジタル時計をみながら、パジャマ姿の英美里は大きなあくびをした。


 もうすっかり夜がけてしまっている。


 はやく寝ないと。


 英美里は照明のスイッチに手をかけ、軽く押した。


 たちまち部屋は真っ暗になる。


 英美里はまっすぐベッドへ向かった。


 そのときだった。


 机の上に置いてあったスマホが明るく光った。


 何か通知でもきたのだろうか。


 こんな夜遅くに、誰から……?


 まさか……そんなわけないよね。


 英美里はなぜかソワソワした気分でスマホの画面をみる。


 「なーんだ。 ただのメルマガか」


 言ってから、英美里はそのおかしさに気付いた。


 またあのにぎやかなグループからチャットがくるんじゃないかと、心のどこかで期待していた。


 自分から逃げたくせに。


 英美里はスマホの電源ボタンに指をかけた。


 「ん……? ねこチャットから通知がきてる……」


 通知時刻をみるに、ちょうど動画の撮影をしていた頃にチャットが送られてきたらしい。


 英美里は気になってねこチャットを開いた。


 「真衣ちゃんだ……」


 英美里は思わず目をみはった。


 

 目黒 真衣: 英美里ちゃん、明日会えないかな。 お話があるの。



 「でもこれは……真衣ちゃんが打ったんじゃないな、きっと」


 英美里は暗い部屋の中でベッドに腰かけながら、送られてきた複数のメッセージを読む。


 私がMANIAChatを抜けたことは間違いない。


 だから、三人が私に連絡をすることなんてもうできない。


 と思ったけれど、どうやら甘かったみたいだ。


 英美里はスマホに映し出された『目黒 真衣』という文字をみる。


 そして、おそらく文章を打ったのは……。


 「さすがになんの理由も言わずに別れたのは良くなかったかな。 明日は特に予定もないし……って、ダメダメ。 私の決断は正しかったんだから、今さららいでしまってはいけない」


 英美里は首を左右に大きく振り、スマホをスリープモードにした。


 あたりが急に暗くなる。


 「それにしても、なんで待ち合わせの場所があそこなんだろう」


 そう呟きながら、英美里はベッドの中に潜り込み、身体を小さく丸めた。


 音のない夜の中で、英美里はゆっくりゆっくりと眠りについた。

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