63bit 本当かなぁ……


 「というのは冗談で、英美里がMANIAChatにいたころ、たまたま個人IDをひかえていたの」


 真衣はケロリとした表情で言う。


 そんな真衣に対して糸は怪訝けげんな目を向けた。


 真衣ちゃんが本当に英美里ちゃんの個人IDを控えていたか心底怪しい。


 しかし、自分のスキルでは真衣ちゃんが嘘をついているかどうかを確かめることは不可能だろう。


 「ヒヤヒヤするからやめてよ真衣ちゃん……」


 とりあえず、今は真衣ちゃんのことを信じるほかなかった。


 「ともあれ、英美里ちゃんに連絡する手段は見つかったわけだし……糸っち、あとは頼んだよ」


 雛乃が言いながらうんうんと頷いている。


 「えっ、もしかして私がチャットを送るの?」


 「しょうがない。 私のスマホを貸してあげるから」


 まるで糸に反論の余地を与えないかのように、真衣は素早くスマホを糸に渡した。


 雛乃も真衣も糸と視線を合わせようとしていない。


 「ち、ちょっと……えぇ……なんだか私だけ重い責任を負わされているような気がするんだけど……」


 「そんなことないよ」


 「そうそう、真衣ちゃんの言う通り」


 相変わらず雛乃と真衣は視線をらしたままだった。


 「本当かなぁ……。 えっと……明日はたしか土曜日だから……英美里ちゃん、明日……会えないかな……あ……どうしよう……」


 スマホを操作していた糸の指が急に止まる。


 「どうしたの糸っち?」


 「待ち合わせ場所をどうしようかと思って」


 「そっか。 明日は土曜日だから、MANIACは空いていないかもしれないね。 そしたら……カフェとか、ファミレスとか?」


 「うーん……」


 「面倒だから、英美里のアカウントから家の住所を特定しよう」


 「真衣ちゃん」「駄目だよ」


 三者三様の意見が飛び交う。


 「あっ」


 「お、糸っち何かひらめいた?」


 「ここはどうだろう……」


 止まっていた糸の指が再び動き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る