53bit ごめんね


 えみりり:ごめんね



     えみりり さんが MANIAChat を退出しました。



 


 スマホの画面を見ながら、糸は絶句した。


 「糸っちしっかりして!」


 雛乃は放心状態の糸を揺さぶる。


 「それにしても、まさかMANIAChatを抜けるなんて。 想定外だった」


 真衣は英美里の席を見ながら言った。


 「私のせいだ……私のせいで英美里ちゃんは抜けようと思ったんだ……」


 「糸っちまずは落ち着いて。 私が思うに、英美里ちゃんはMANIAChatを抜けたくて抜けたんじゃなくて、抜けざるを得なかったんだと思う。 だって、英美里ちゃんは私たちに『ごめんね』って謝っているんだよ」


 茫然ぼうぜんとしている糸の背中を、雛乃がゆっくりとさする。


 雛乃の手のぬくもりが糸の背中を伝っていった。


 「雛乃の言う通り、英美里には私たちに近づいてほしくない何かがあるんだと思う。 だから、近づいていることを知った英美里は慌てて遠ざけようとした」


 「その何かって……」


 少しだけ落ち着きを取り戻した糸が、か細い声で言う。


 「調べてみよう。 まだ間に合うかもしれない」


 雛乃は糸と真衣に力強く目配せをした。


 「調べるって言っても、どうやって? 当の英美里ちゃんはいなくなっちゃったし……」


 「問題はそこなんだよね」


 雛乃がそう言った後、三人の会話がパタリと止んだ。


 静寂が部屋を包み込む。


 「あ、いい方法を思いついた」


 突如、真衣は左手のひらを右手の拳でポンと叩いた。


 「え、なになに?」


 糸も雛乃も真衣に視線を集中する。


 「さて、それは何でしょう?」


 「もー、焦らさないでよ」


 「いいじゃん、名案なんだし」


 「そうだ、英美里ちゃんと学校が同じだから先生とか、英美里ちゃんと同じ中学校だった人から聞き込みをするとか」


 「もっと手っ取り早い方法だよ」


 「手っ取り早い……? 真衣ちゃんが思いつくということは……」


 「まさか、英美里ちゃんにハッキングを仕掛けるんじゃないでしょうね?」

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