106bit 緩やかに回転しながら描く放物線


 教室にも、理科室にも、家庭科室にもいない。


 「糸ちゃん、校内の色んな所を回っているけど、何かをさがしているの?」


 英美里は困惑した様子で糸の背中に問いかけた。


 「うん……でももう帰っちゃったかな……」


 「帰った? ということは、さがしているのは人?」


 「そうだよ。 放課後はいつもウロウロしてるって……あっ!」


 糸はあの建物の存在をすっかり忘れていた。


 彼女の興味をそそりそうな絶好の場所。


 糸ははやる気持ちに連動するかのように、歩くペースを速めた。


 英美里もなんとか後を付いていく。


 やがて、糸は重厚感のある金属製の引き戸の前で足を止めた。


 「体育館……?」


 「もしかしたらここにいるかもしれない」


 糸は力を込め、引き戸をギギギとこじ開けた。


 ポスン、ドン、ドン、ドドン。


 部活動が行われていないのか、体育館はひっそりとしていた。


 しかし、静謐せいひつな空間の中で見事なスリーポイントシュートを決める黒髪の少女がひとり。


 「いたっ! 真衣ちゃん!」


 「あれ、どうしたの糸? それに英美里まで」


 小さく跳ねるバスケットボールを拾い上げてから、真衣はふたりの方を向いた。


 「真衣ちゃんこそ、なんで制服姿のままバスケを……?」


 英美里は真衣の放課後ルーティンをまだ知らない。


 「いつも部活で使われている体育館が、今日は珍しくもぬけの殻だったから、遊ぶチャンスだと思って」


 真衣はさらりと言いのけた。


 「いや、誰もいないからって遊ぼうという気にはならない……」


 「なるほど! それは遊ぶしかないね!」


 糸と英美里の理解は真っ二つに分かれた。


 ついさっきまで以心伝心だったというのに。


 「で、ふたりはどうしたの? 私に何か用?」


 「そうそう。 実は真衣ちゃんに、ある情報をかき集めてほしくて」


 「情報? 何の情報?」


 「その……イクラちゃんの……」


 真衣ちゃんであれば、イクラちゃんに関する情報を即座に集められるのではないか。


 糸はそう踏んでいた。


 その手の技術力にけた人物は、かなり限られてくる。


 「なるほど、だから私に相談と……。 でも、それって」


 真衣は手に持っていたボールを数回だけ床にバウンドさせる。


 そして、ボールを頭の上に掲げ、左手を添えたまま右手首をスナップした。


 緩やかに回転しながら描く放物線。


 まもなく、ストンとネットが揺れた。


 「私じゃなくて、ハジメさんとシズクさんに頼んだ方が、いいんじゃない?」

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