23bit こんにゃくとひよこ


 勝者はほとんどシズクさんの偏見で決まってしまったが、英美里ちゃんも真衣さんも並外れた技術力の持ち主であることがわかった。


 糸はすぐにでも二人を称えたい気持ちに駆られる。


 一方の英美里は、少ししょんぼりとしながら脱いでいたフードを再び被った。


 「英美里ちゃん、すごかったよ。 あんなに速く打てるなんて!」


 糸は正直な感想を英美里に伝えていた。


 「ありがとう。 でも、私負けちゃったし……」


 「あれは勝負に負けたっていうか、シズクさんに負けたというか……」


 雛乃ちゃんも腑に落ちていないらしく、英美里ちゃんのことを励ましていた。


 「二人ともありがとう。 うん、次は絶対に負けない」


 なんとか気分をあげてくれたようだ。


 糸はひと息つき、そして心の準備をする。


 決心がついた糸は、英美里の傍を離れ、真衣の元へと向かった。


 「あ、あの……とてもすごかった……です……ああ、ごめんなさい、いきなり話しかけちゃって……」


 感動を伝えたい気持ちに任せ、糸は思い切って真衣に声を掛けた。


 しかし、いざ話してみると、やっぱり緊張する……。


 糸に話しかけられた真衣は、じっと黙ったまま糸を見つめた。


 まずい……キーボードを見ながらじゃないと文字を打てない私なんかと喋りたくないのかも……。


 糸が肩をすくめたときだった。


 「ありがとう、糸こんちゃん」


 え!?


 今、『ありがとう』って言った!? 


 「え?! あ! うん! 本当にすごかったし!」


 真衣さん、喜んでくれたみたいで良かったぁ……ってうん?


 「糸こんちゃん……?」


 「うん。 糸こんにゃくだから『糸こん』ちゃん」


 「誰が………、誰が糸こんにゃくですか!!」


 「あははは、糸っち、いいニックネームつけてもらったねぇ」


 話を聞いていた雛乃がお腹を抱えて笑っている。


 「ピヨ乃もそう思う?」


 真衣はさらりと言った。


 「ピ、ピヨ乃……?」


 「うん。 ひよこだから『ピヨ乃』」


 「誰が………、誰がひよこだぁぁ!!」


 そう言いながらも、雛乃は笑っていた。


 一部始終を聞いていた英美里もフードの中で笑っている。


 そして、真衣も口もとにかすかな笑みを浮かべていた。

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