24bit うっかりミス


 高速タイピングトーナメントが終了してから一週間が経った。


 思えばあの日、パソコンをセットアップしたり、タイピングに悪戦苦闘したりと、なかなかハードな一日だった印象だが、大きな収穫を得たことも確かで。


 真衣さんと少しだけ距離を縮められたこと。


 今後四人で活動していくんだから、仲良くなるに越したことはない。


 今日もまた、さらに仲良くなるチャンスがあればいいな。


 糸はそう思いながら、部屋の扉を開けた。


 「やっほー」


 「やっほぉ」


 雛乃特有の挨拶に、糸は対応することができていた。


 今回も、糸以外の三人はすでに着席していた。


 「私はあの無惨な敗北後、たくさん練習してもっと早く打てるようになったのだ!」


 席に着いた糸に対し、雛乃は意気揚々に言う。


 「おお、雛乃ちゃんやるね」


 「みてなよぉ……それ!」


 雛乃はカチカチとスピーディにタイピングをしてみせた。


 なるほど、速い気はする。


 けれど、あの決勝戦を目の当たりにしてしまった以上……。


 「ピヨ乃はまだまだだよ」


 真衣がさりげなく呟いた。


 「ピヨ乃言うなーー!!」


 雛乃ちゃん、今日も元気いっぱいだなぁ。


 糸はパソコンの電源ボタンを押しながら雛乃と真衣の掛け合いを眺めていた。


 「お、おはよう……」


 糸の隣から可愛い声がする。


 英美里ちゃんだ。


 「英美里ちゃん、おは……」


 糸が英美里の方を振り向こうとした。


 「い、糸こんちゃん……」


 「糸こん言うなーー!!」


 相変わらずフードを被った英美里ちゃんは、怒られているのになんだか嬉しそうだった。


 そうこうしているうちに、糸のモニターにログイン画面が表示される。


 「そういえば、糸っちパスワード変えた?」


 「あ……」


 糸は思いっきり忘れていた。


 先日、うっかりミスによりパスワードを流出してしまっていたのだ。


 「もー、危ないなぁ糸っちは」


 「ごめん、ごめん。 ついうっかり……」


 「気を付けないと、この餌食えじきになっちゃうよ」


 「え?」


 雛乃は糸にスマホを渡した。


 そのスマホの画面には、あるニュース記事が載ってある。


 『政治家の汚職情報流出事件、ハッカーの手口解明難航』

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