30bit データの内容


 「真衣さんは犯罪者なんかじゃないよ」


 糸ははっきりとそう言った。


 「気休め程度の言葉なんて聞きたく……!」


 真衣は言葉を詰まらせた。


 糸が真剣な眼差しを自分に向けている。


 本当に糸は適当な言葉を並べているだけなのだろうか。


 真衣は糸の真意を読み取ることができないでいた。


 「だって、私はパソコンをハッキングしてデータを盗んで、その情報をばらまいて……」


 「真衣さんが思っている『データ』って、政治家さんたちの汚職情報、だよね?」


 「そうよ」


 「だとしたらそれ、ハジメさんとシズクさんが用意した、ダミーのデータだよ」


 「え?」


 糸の突拍子もない発言に、真衣の頭は混乱状態となった。


 ハジメさんとシズクさんが用意した、『ダミー』データ?


 真衣が硬直したままでいると、真衣のすぐ近くの扉が勝手に動いた。


 真衣は驚いて二三歩後ろに退く。


 開かれた扉から入ってきたのは、ハジメとシズクだった。


 「真衣はもう書類にサインしたのかい?」


 「ちょっと待ってください! ダミーデータってなんですか!?」


 真衣は混乱を解く一番手っ取り早い手段を選択した。


 ハジメさんに、真相を追及すればいい。


 「ダミーデータ? ああ、あれね。 真衣がハッキングしようとしていた政治家のパソコン、私たちが寸前で偽物に差し替えたんだよね。 いやぁ、ギリギリだったよ本当に」


 「差し替えた……?」


 真衣は何が何だかわからない。


 「まぁ、データの中身をしっかり見れば、あれが偽りのデータだってわかったのに、まさかハッキングすることに集中して、データの内容を確認せずにばらまいたの?」


 ハジメさんの言うとおり、ハッキングしたパソコンのフォルダの中にあった汚職情報と思しきデータを全て盗み、それを共有サイトにアップロードした。


 そんな、馬鹿な……。


 真衣は急いで自分の席に戻り、パソコンを起動する。


 このパソコンでハッキングこそしていないが、自分の作業用パソコンに繋げることくらい、容易たやすかった。


 真衣はマウスを素早く動かし、目的のデータを探す。


 やがて、真衣は以前アップロードした場所までたどり着いた。


 このデータの内容は一体なんなのか。


 汚職情報とは無関係なのか。


 真衣はデータが書かれたファイルをパッと開いた。


 「え……ハジメさんの写真がいっぱい……」


 「なんだって?! さてはシズク! シズクの仕業だな!?」


 「うふふ。 だって、ハジメちゃん、可愛いんだもん」


 「私がシズクにダミーデータを適当に作っておいてくれと言ったのが間違いだった!」


 ハジメとシズクは仲睦まじそうに言い争っている。


 一方で、糸は真衣に優しく言っていた。


 「だからね、真衣さん。 真衣さんは事件の犯人じゃないの」

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